久米裕選定 日本の百名馬

ヤマニンゼファー

父:ニホンピロウイナー 母:ヤマニンポリシー 母の父:Blushing Groom
1988年生/牡/IK評価:2A級
主な勝ち鞍:G1安田記念2回、G1天皇賞・秋、G2京王杯SC

▸ 分析表

ヤマニンゼファーのデビューは、1991年(平成3年)3月9日の中山新馬戦、16頭立ての12番人気であった。その低評価に反発するかのように、1200mのダート戦で、とうてい届かないと思われた位置から、直線だけで8頭をごぼう抜きするという鮮烈なデビューを果たした。

当初は、脚元の状態から、ダートを中心に使われていたが、古馬となり、芝1400mの京王杯SCで、ダイナマイトダディの3着と好走すると、自身にとって初の1600m戦、しかもG1の安田記念に挑戦する。ここでも18頭立ての11番人気という低い人気だったが、カミノクレッセ以下を一蹴し、みごとにGⅠの栄冠を手中にする。

ヤマニンゼファーの同期では、トウカイテイオー(父シンボリルドルフ)、シャコーグレイド(父ミスターシービー)、イイデセゾン(父タケシバオー)など、父内国産種牡馬産駒の活躍が目立ち、この3頭は皐月賞でも1~3着を独占している。古馬でも、メジロティターン産駒のメジロマックイーンが君臨し、その意味では内国産種牡馬の全盛期でもあった。

ヤマニンゼファーの4歳時は、安田記念以降は3戦0勝と勝ち星はなかったが、暮れのスプリンターズSでは、ニシノフラワーの2着に好走し、安田記念の勝利がフロックではなかったことを証明した。そして、いよいよ5歳。それまでは、どこか詰めの甘さを見せていたヤマニンゼファーだったが、前年3着だった京王杯SCを制すると、続く安田記念も横綱相撲で勝ち、2連覇を果たす。そして迎えた秋の天皇賞では、前走毎日王冠でシンコウラブリイの6着に敗れていることから、距離の壁が不安視され、17頭立ての5番人気と評価を下げていた。しかし、初の2000mという距離への挑戦にもかかわらず、好位を追走し、府中の長い直線で、セキテイリュウオーを死闘の末にハナ差しりぞけ、天皇賞馬となり、古馬中距離路線の頂点に立ったのである。

《競走成績》
3~5歳時に走り、20戦8勝。主な勝ち鞍は、安田記念(G1・芝1600m)2回、天皇賞・秋(G1・芝2000m)、京王杯SC(G2・芝1400m)など。2着は、スプリンターズS(G1・1200m)2回。

《種牡馬成績》
サンフォードシチー(武蔵野ステークス・G3・ダ1600m)、エフテーピルサド(忘れな草賞)、ラムジェットシチー、キョクイチバンブーなど。初年度産駒のデビューは平成9年。

父ニホンピロウイナーは、通算26戦16勝、安田記念およびマイルCSが2回とG1を3勝。その他にも、読売マイラーズC、京王杯SC、スワンS、CBC賞など、マイル以下の重賞では、安定した走りと成績を残した。

また、種牡馬としても、このヤマニンゼファーの他に、フラワーパーク(高松宮杯、スプリンターズS)、ダンディコマンド(北九州記念)、ニホンピロプリンス(CBC賞)、トーワウィナー(CBC賞)、トーワダーリン(安田記念2着)、ホリノウイナー(東京新聞杯)などの産駒を輩出し、内国産種牡馬として、独自の地位を築く。

ニホンピロウイナー自身は、父がミドルパークS(G1・6F)を制したスピード馬のスティールハートで、母の父がチャイナロック。ともにHyperion~Bay Ronald系の流れを持ち、スムーズな結合状態を保ち、Orby系とSunstar~Sundridgeが、そのスピード源として、能力形成に大きな影響を与えていた。そして、Nasrullahの血を含まずに、スピード要素を引き出せる構造を持ったことは、種牡馬としての個性や存在価値を高めることになる。

母のヤマニンポリシーは、20戦1勝。この牝馬は、天皇賞馬ヤマニンウェーブ以後、成績不振に陥っていた錦岡牧場が、その打開策として血の入れ替えを計り、ファミリー№1系のヤマホウユウを米国に連れて行き、Blushing Groomとの交配で得た牝馬。Blandfordを主導とした配合で、理論上では中長距離のオープン馬に出世しても不思議のない、じつにしっかりとした血統構成を示していた。それでいながら、1勝馬で終わってしまったのは、血統面では牝馬としては重厚な内容であったこと、あるいはそれ以外に気性面に問題があるなど、能力開花をさまたげる理由があったものと思われる。

そうした父母のもとに生まれたヤマニンゼファーの血統は、前面におけるクロス馬を検証すると、まずOwen Tudorの5×6が、ほぼ系列ぐるみになっている。このOwen Tudorには、Hyperion、Pharos、Teddyが含まれ、9代目にはBay Ronald、St.Simon、Canterbury Pilgrimなどが配されている。

5~6代にあるクロス馬をチェックすると、Bull DogがTeddyを、NearcoおよびPharosがCanterbury Pilgrimを、Son-in-LawがBay Ronaldを、そしてFriar MarcusおよびダイオライトがSt.Simonを含んでいるので、いずれも直接Owen Tudorと結合を果たし、スピード・スタミナを供給している。唯一、結合が間接的なのがスピードのMumtaz Mahal~The Tetrarchだが、この血は、Friar Marcus内のBona Vista、あるいはNearco内のSainfoinと結合を果たし、NearcoやFriar Marcusを通じて、主導のOwen Tudorと間接的に結合している。仕上がりの早いスピード馬の配合と思われながらも、芝へのスピード対応に時間を要した血統的な要因をあげるとすれば、この点が指摘されるだろう。
 以上を、8項目に沿って評価すると、以下のようになる。

 ①=○、②=◎、③=◎、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=2A級 距離適性=6~10F

ヤマニンゼファーは、Abernant強調型で、スピードタイプの配合であることは間違いない。しかし、前述したように、母ヤマニンポリシー自身の血統構成は、Blandford系を主体としたスタミナ優位の内容であった。また、弱点や欠陥の派生はなく、ニホンピロウイナー内でもSon-in-Lawをはじめ、スタミナの核となるクロス馬が能力形成に参加していることを考慮すれば、むしろI理論上からは、マイル~中距離型の配合馬と判断できる。最優秀スプリンターに選出されたものの、スプリンターズSでニシノフラワーやサクラバクシンオーの2着に甘んじていることは、裏を返せば、血統構成から判断される能力を証明しているように思われる。そして、天皇賞で見せた、直線300mにも及ぶセキテイリュウオーとの死闘も、単なるマイラーではないことの能力的な証明と見るべきだろう。

以上が、父ニホンピロウイナーのスピードと、母ヤマニンポリシーのスタミナを調和させたヤマニンゼファーの配合内容で、競走馬として、みごとな血統構成を示していた。しかし、折しも時代は米系の血が浸透し始め、種牡馬としては、Man o’Warを始めとした米系の血を持っていることが、成功の要件になっていた。さらに、Nasrullahの血を持っていないことが、ひとつの成功要因となってニホンピロウイナーに対し、Blushing Groom産駒を配したことで、Nasrullahが前面に位置することになった。そのために、ランダムな配合では、この血が強く出て、主導がわかりにくい構造になりやすい。このことは、ヤマニンゼファーにとって、種牡馬としての不安要素になることが、理論上からも予測できた。そして、その不安は的中し、産駒は、ゼファーのイメージとは異なり、芝のスピード対応で苦戦し、中堅レベルのダート巧者が数頭出現するにとどまっている。

それらの産駒の配合を検証してみよう。

■サンフォードシチー(母ティムズシチー)38戦8勝
 ①=□、②=□、③=□、④=△、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=△
 総合評価=1B級 距離適性=8~10F

Nearco、プリメロ、Hyperionによってセントクレスピンを強調、次いでNasrullahとHyperionでテスコボーイと、ともにゼファーに欧州系を呼応させたことは、間違いではない。しかし、母内に2つあるヴェンチアのMan o’Warが欠落したこと、主導の明確性を欠いたことは、芝のスピード対応でマイナス要素となる。長所は、プリメロ~Blandford系によるスタミナの核で、この血が馬力を要するダート戦で威力を発揮した。

▸サンフォードシチー 分析表

■ラムジェットシチー(母ラッキーシービー)25戦5勝
 ①=□、②=□、③=□、④=□、⑤=□、⑥=□、 ⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=8~10F

母ラッキーシービーは、欧州系主体で構成され、スティールハートの血に着目して3×3のクロスをつくる。方向性としては、サンフォードシチーの場合よりも、明らかに合っており、ゼファーの特徴をよくとらえている。惜しまれるのは、NasrullahやRockefellaのクロスが、同位置で系列ぐるみとなり、血の統一性を欠いたこと。ここが、芝における反応面でマイナスになったと考えられる。

▸ラムジェットシチー 分析表

■キョクイチバンブー(=全妹キョクイチヒロイン、母エフテーサイレンスともに現役)
 ①=□、②=□、③=□、④=○、⑤=○、⑥=△、 ⑦=□、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=6~10F

この馬は、RockefellaやBrantomeのスタミナの核に、グリーングラスのスタミナがアシストするという具合に、スタミナにすぐれた血統構成。本来は10F以上の距離も克服可能で、成長力も期待できるのだが、兄の場合、父のイメージから、短距離中心に使われ、中央転厩後の成長がほとんど見られないことが惜しまれる。

▸キョクイチバンブー 分析表

この3頭の産駒の傾向からすると、ゼファー産駒から芝のオープン馬が出現する場合は、短距離向きよりも、HyperionやBlandfordを活用した中距離向きの血統構成馬になる確率が高いと思われる。傾向としては、Habitatと相性のよいMill ReefやTom Foolが合う。クロス馬でいえば、Menow、Orby、Tetratemaなど、スピード系の血を含む相手が望ましい。

最後に、ヤマニンゼファーとGⅠレースを戦ったライバル馬たちの血統分析表を掲載しているので、解説とととも参考にしていただきたい。

■カミノクレッセ 30戦8勝 
主な勝ち鞍は日経新春杯、2着は天皇賞(1着=メジロマックイーン)、安田記念(1着=ヤマニンゼファー)、宝塚記念(1着=メジロパーマー)。
 ①=○、②=○、③=○、④=△、⑤=○、⑥=□、 ⑦=○、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

NearcoとBull Leaの系列ぐるみが主導。Tourbillonのスタミナに、Mahmoudのスピードがアシストし、クリアアンバーの持つ欧米の血を再現した。アンバーシャダイの代表産駒の1頭。GⅠ戦であと一息勝ちきれなかったのは、ノーザンテーストの弱点が補正されなかったため。

▸カミノクレッセ 分析表

■セキテイリュウオー 25戦5勝
 主な勝ち鞍は中山記念、東京新聞杯、天皇賞・秋2着。
 ①=○、②=□、③=□、④=○、⑤=□、⑥=△、 ⑦=□、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=8~10F

トウショウボーイ産駒としては、必ずしもベストの配合ではないが、Nasrullah主導の明確性から、日本的なスピードを再現した構造は読み取れる。血統構成としては、天皇賞におけるヤマニンゼファーとは、ハナ差以上にレベルの差がある。

▸セキテイリュウオー 分析表

■ニシノフラワー 16戦7勝
 主な勝ち鞍は桜花賞、スプリンターズS、マイラーズC。
 ①=◎、②=○、③=◎、④=○、⑤=○、⑥=□、 ⑦=○、⑧=◎
 総合評価=2A級 距離適性=9~12F

Nearcoを通じて、Majestic PrinceとDanzigのスピードを再現。スタミナはRibot、Ambiorixと質の高い血を補給。ヤマニンゼファーを上回る血統構成の持ち主。スプリンターズSにおけるゴール前の瞬発力の差は、そのまま血統構成の質の差が出たものと考えてよいだろう。

▸ニシノフラワー 分析表

 

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