シンボリルドルフ
父:パーソロン 母:スイートルナ 母の父:スピードシンボリ
1981年生/牡/IK評価:2A級
主な勝ち鞍:皐月賞、日本ダービー、菊花賞、ジャパンC、有馬記念・2回
昭和58年、シンザン以来19年ぶりに誕生した三冠馬がミスターシービーだが、その翌年に、日本で初めて無敗で三冠を達成して、その名の通り「皇帝」のニックネームで親しまれたのがシンボリルドルフである。菊花賞で三冠目を勝ち取った直後のJCでは、カツラギエースの逃げに不覚をとって3着と敗れたものの、その暮れの有馬記念では、ミスターシービー、カツラギエースを破って、4歳で頂点を極めている。
ルドルフは、その記録面で、2001年春の天皇賞を制してGⅠ6連勝を果たしたテイエムオペラーと、何かと比較されることが多い。しかし、両者の間では、GⅠレースの対戦相手やその内容、レベルなどに差があり、同等に比較することは無理があるよう思われる。昭和61年の米国遠征は、レース中の故障発生で失敗に終わったが、日本の競馬史においては、完成度の高い名馬として語り継がれてきたことも事実である。
《競走成績》
3~6歳時に16戦して13勝。主な勝ち鞍は、皐月賞(芝2,000m)、ダービー(芝2,400m)、菊花賞(芝3,000m)、JC(芝2,400m)、有馬記念2回(芝2,500m)、天皇賞・春(芝3、200m)、以上GⅠを7勝。弥生賞(芝2,000m)、セントライト記念(芝2,200m)
《種牡馬成績》
1987年から供用され、代表産駒には、トウカイテイオー(日本ダービー=GⅠ・芝2,400m、ジャパンカップ=GⅠ・芝2,400m、有馬記念=GⅠ・芝2,500m、皐月賞=GⅠ・芝2,000m)、アイルトンシンボリ(ステイヤーズS=GⅢ・芝3,600m2回、2着-宝塚記念=GⅠ・芝2,200m)、キョウワホウセキ(4歳牝馬特別・オークスTR=GⅡ・芝2,000m、東京新聞杯=GⅢ・芝1,600m)、ツルマルツヨシ(京都大賞典=GⅡ・芝2,400m、朝日チャレンジC=GⅢ・芝2,000m)など。
父パーソロンは、1960年生れのアイルランド産。3~4歳時に走り、14戦2勝。GⅠ勝ちはなく、イボアH(7F)と愛ナショナルS(14F)で勝ち星をあげた程度。1963年に日本に輸入されたが、当初はそれほど期待が高かったわけではない。
また、血統構成もその実績通り凡庸な内容であった。ただし、St.Simon、Galopinの土台構造と、The Tetrarchのスピードを備え、また当時の日本の繁殖の血の中に浸透していたBlandfordとGainsboroughのうち、後者を含まず、その結果、前者に血を集合できるという要素を持っていた。このことは、種牡馬としてのパーソロンの特徴となった。
その特徴が実を結び、11頭の初年度産駒が20勝をあげ、さらに2年目の産駒から天皇賞馬メジロアサマを出して、人気種牡馬の仲間入りをした。当初は、どちらかといえば牡馬よりも牝馬に活躍馬が多く、昭和46年のカネヒムロから、タケフブキ、ナスノチグサ、トウコウエルザと、4年連続でオークス馬を送り出し、この記録はいまだに破られていない。またMilesianの血を引くことから、産駒は素軽いスピードタイプというイメージが強かったため、重厚さを求められていた牡馬クラシック戦線には縁が薄いといった見かたも多かった。
それに対し、母の母ダンスタイムはシンボリ牧場の輸入牝馬で、母スイートルナは、スピードシンボリとの交配で誕生している。スイートルナは、癇のきつい神経質な牝馬で、ルドルフが2歳(現表記の1歳)の秋に猟師の鉄砲の音に驚き、放牧場で疾走して事故死するという不運に見舞われている。
そうした父パーソロンと母スイートルナの間に生まれたのがシンボリルドルフだが、その背景をたどった場合、一般的な血統論でいえば、決して良血馬とは評価されないだろう。父であるパーソロンは、それまでに実績を残していたので認められてはいたものの、自身の戦績は二流馬のそれである。もしも、ルドルフがパーソロンの初年度産駒であったならば、血統的に注目を受けることは、まず皆無であったに違いない。
シンボリルドルフの血統構成では、父パーソロンがPharosの3×5を呼び水とし、母スイートルナがPharos(=Fairway)の4×5の系列ぐるみを主導としている流れを受け継ぎ、Pharosの4・5×5・6の系列ぐるみを主導に、全体をリードしている。この場合のPharosは父内Phalarisと母内Fair Trialの影響を強く受け継ぎ、他のアシストの状況から、スピード要素が濃くなっている。
これに続くのがBlandfordの5・6×6・7、Son-in-Lawの6×6と、ともに系列ぐるみを形成している。主導のPharosとは、前者がCanterbury Pilgrim、St.Simonによって、後者はHamptonで結合し、スタミナを注入する役割を果たしている。その他で、影響度数字に換算されるクロスは、Mumtaz MahalとLady JosephineはSainfoin、Bona Vistaで、The TetrarchもBona Vista、そしてSunstarもSainfoinという具合に、スピード勢力がすべて主導のPharosに直結している。さらにSt.Simonが38個、7~9代の位置にまんべんなく配置され、しっかりとした土台を形成している。この血の結合の強固さ、万全な土台構造こそが、ルドルフの強さの血統的根拠となっている。
以上を8項目で評価すると、以下のようになる。
①=○、②=○、③=◎、④=○、⑤=○、⑥=○、⑦=○、⑧=◎
総合評価=2A級 距離適性=8~12F
ルドルフの血統構成は、父母間の長所を最大限に引き出した内容であり、いわゆる「配合の妙」、「この父にしてこの母あり」というような、まさにジャストフィットの形態であることは確か。ただし、世界的視野に立って見た場合には、上質のスタミナの核という点で、必ずしも万全とはいいがたい。
「日本の馬場に適した、レース巧者の血統構成」とでも表現すべきなのかもしれない。日本の三冠馬でいえば、速さよりも、レースでの強さが際立ったシンザン型。それに対し、ミスターシービーやナリタブライアンは、レースに勝つというよりも、自分自身の能力をストレートに発揮するパフォーマンス型といえよう。
どちらをよしとするかは意見の分かれるところだが、IK理論から見た血統構成上の優劣ということでは、シンザン、ルドルフよりも、シービー、ブラアンのほうが上になるということは銘記しておきたい。とはいうものの、ルドルフの血統構成には、「配合とは?」の質問に答えてくれる基本要素が十分に盛り込まれていることも事実。現在、改めて分析表を見直してみると、日本の「手作りの味」というようなものが伝わってくる内容である。
当時、「日本最強馬」の称号を与えられ、大きな期待を担って、シンボリルドルフは種牡馬生活に入った。そして、その初年度産駒からトウカイテイオーが出現したことで、競馬サークルのみならず、競馬ファンの夢と期待も大きくふくらんだ。
ルドルフは、血統背景や分析表上からもわかるように、自身がヨーロッパ系主体であるために、相手となる繁殖牝馬もヨーロッパ系の血が主体であることが望ましい。それでいえば、トウカイテイオーの母トウカイナチュラルは、まさしくその傾向に合っており、互いのよさを引き出せる繁殖であった。
トウカイテイオーについては、別の機会に改めて解説する予定なので、ここでは8項目評価と分析表だけを載せておこう。
①=○、②=○、③=◎、④=○、⑤=◎、⑥=○、⑦=○、⑧=○
総合評価=2A級 距離適性=8~12F
この馬は、ルドルフとの配合の手本となる血統構成であることは、理論から十分に読み取れる。とすれば、その後もこうした事例を模範として配合していけば、より大きな成果も期待できたはず。しかし、期待が大きくなった分だけ、一般的に良血とされるアメリカ系の輸入繁殖牝馬との交配が多くなったようである。そのために、中にはキョウワホウセキのような馬は出現したものの、産駒の多くは総じて米系の血に不備をかかえ、コンスタントに活躍馬を輩出することはできなかった。結果、種牡馬としての評価・人気も徐々に落ちていったのである。
また、血統構成とは別に、ルドルフ産駒は、気性的に問題のある馬が多かったようで、サークル内ではそのあたりも敬遠される要因になったといわれる。といっても、ルドルフはことしで20歳、まだこれからも種牡馬としてのチャンスは残されているので、無欲の配合から、良血馬、活躍馬が出現することを期待したいものである。
また、期待されて種牡馬入りしたために、産駒が牝馬であった場合には、繁殖として残されるケースが多い。その場合には、ルドルフはブルードメアサイアーの位置にくるわけだが、そのときの効力ということにも、簡単に触れておきたい。現代の種牡馬は、サンデーサイレンスやブライアンズタイムに代表されているように、米系の血は最低限含んでいたほうが、BMSとして種牡馬と合わせやすいことは確か。それでいえば、ルドルフの血は、現代の時流に合った血とはいいがたく、米系の種牡馬と合わせた場合、オープン級の配合を実現することは難しいだろう。
ただし、前述したように、繁殖牝馬として、祖母側に米系の血が含まれている可能性も十分に考えられるため、父とBMSとの間での不備は最低限補える可能性は出てくる。その場合、ルドルフ内の6代目以内でクロスする確率の高い血は、Pharos、Royal Charger、Fair Trialなど。とすれば、これらはいずれもスピード要素として働く例が多いので、産駒はスピードタイプに出る可能が高くなる。
しかしながら、種牡馬側で、DjebelやAsterus-Teddyが求められれば、それにも対応可能で、そのときはスタミナタイプに変換される要素は備わっている。また、前述したスピードの血は、6代目という控えめな位置でクロスするため、無難に合わせるという意味では便利かもしれない。能力や配合の傾向として、トウカイテイオー産駒の血統構成と産駒実績を目安にすれば、ある程度の推測はつくが、いずれにしても上級配合は難しそうである。
最後に、シンボリルドルフと同時期のライバルたちにも触れておこう。三冠対決をした相手のミスターシービーについては以前解説したので、ここでは4歳クラシック戦線での2着馬の血統構成について簡単に紹介したい。
■ビゼンニシキ(皐月賞2着)
①=○、②=○、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○ 総合評価=1A級
岡部騎手のお手馬だったが、弥生賞におけるルドルフとの無敗対決で、同騎手がどちらをとるかが話題になった(結果的にルドルフを選択)。
父母の傾向は必ずしもベストではないが、Mahmoudの呼び水で、Hurry Onのスタミナ、Tetratemaのスピードアシストと、異系のなかなか味のある血統構成の持ち主。4歳前半(現表記では3歳)のライバルとしてはレベルは高かった。
■スズマッハ(ダービー2着)
①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=○ 総合評価=3B級
やや近親度が強く、血の質に難はあるものの、父をはじめ、強調されたNever Say Dieのスピード、スタミナ、祖母からのスタミナアシストなどに見どころがあり、しっかりした血統構成の持ち主。ダービーの直線でルドルフを苦しめた要因は十分に確認できる。この後、セントライト記念3着、菊花賞4着と、堅実な走りを見せた。
■ゴールドウェイ(菊花賞2着)
①=○、②=△、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=○ 総合評価=3B級
父母の傾向としては万全ではなく、一見すると欠陥馬のように思える配合だが、Swynford、Tracery、Chaucerとスタミナの核を備え、異系でバランスのよさを保つ血統構成の持ち主。評価として3B級だが、配合の妙、血統研究の事例という意味では、たいへん面白い教材といえる。IK理論からは発想しにくい配合だが、ぜひとも記憶しておきたい内容を持っている。
これらの他にも、以前触れたスズパレード、JCで2着のロッキータイガーなど、ルドルフ世代には個性あふれる血統構成馬が多数活躍していた。そのライバルたちを抑えての「七冠」達成は、やはり価値が高い。