スーパークリーク
父:ノーアテンション 母:ナイスデイ 母の父:インターメゾ
1985年生/牡/IK評価:2B級
主な勝ち鞍:G1菊花賞、G1天皇賞・春、G1天皇賞・秋
《競走成績》
2~5歳時に、16戦8勝。主な勝ち鞍は、菊花賞(GⅠ・芝3000m)、天皇賞・秋(GⅠ・芝2000m)、天皇賞・春(GⅠ・芝3200m)、京都大賞典(GⅡ・芝2400m)2回、大阪杯(GⅡ・芝2000m)など。
《種牡馬成績》
1991年から供用され、毎年40頭前後の産駒を送り出してきたものの、これといった活躍馬は出していない。
スーパークリークのデビューは、昭和62年(1987年)の暮れ。新馬戦芝2000mで、結果は2着。勝ち上がったのは2戦目で、同じく新馬戦の芝2000m、鞍上は田原騎手であった。ちょうどその頃、関西ではサッカーボーイが、「テンポイントの再来」と騒がれ、快進撃を続けていた。公営からは、オグリキャップが、中央への挑戦をめざして転厩していた。また、この年は、武豊騎手がデビューした年でもあり、いきなり新人最多の69勝という記録を樹立。まだ「西低東高」といわれていた時代ではあったが、徐々に競馬の風が関西に吹き始めていた。ちなみに、栗東に坂路コースが完成したのが、昭和60年、プール完成は63年のことであった。
年が明けて昭和63年、スーパークリークは、すみれ賞で、武豊騎手と運命的ともいえる出会いを果たして特別勝ち、以後引退までコンビを組むことになる。ただし、春のGⅠ路線に向けて、これからという時期に左前脚を骨折。この春は、サッカーボーイ、ヤエノムテキ(皐月賞)、サクラチヨノオー(ダービー)、そしてクラシックに登録のなかったオグリキャップたちが、ターフを賑わせたが、スーパークリークは無念の休養を余儀なくされた。
秋の復帰初戦となった神戸新聞杯を3着と好走、続く京都新聞杯はヤエノムテキの6着と敗れたものの、3000mの菊花賞では3番人気に推された。そしてその期待に応え、5馬身で菊花賞を圧勝し(2着はガクエンツービート)、初の重賞勝ちをGⅠで達成。武豊騎手にとっても、始めてのGⅠ制覇で、史上最年少(20歳)のGⅠジョッキーとなった。まさに名コンビの誕生劇となった。そのかわり、暮れの有馬記念では、オグリキャップ、タマモクロスについで3着に入ったが、進路妨害による失格という不運にも見舞われた。
古馬になると、春は筋肉痛のために休養したが、秋の京都大賞典から始動し、本番の天皇賞・秋に挑む。ここには、宿敵オグリキャップ、皐月賞馬ヤエノムテキ、春の天皇賞馬イナリワン、同期でダービー2着のメジロアルダンなどの強豪たちが参戦してきて、大いに盛り上がりを見せた。そうしたハイレベルな戦いの中で、武豊騎手は、新人とは思えない大胆な騎乗で、早めに仕掛ける競馬に徹し、オグリキャップの追撃を首差押さえて、みごとに栄冠を手に入れたのである。こうして古馬陣の頂点に立ったスーパークリークだが、その後のジャパンカップではホーリックス、オグリキャップに遅れ4着、有馬記念でもイナリワンの2着と、勝ちきれないもどかしさ見せた。
しかし、5歳になった同馬は再び復活し、天皇賞・春はイナリワンを1/2馬身押さえて優勝、有馬記念の雪辱を果たした。それだけに、秋のJC、グランプリへの期待が高まったが、脚部不安のため、京都大賞典を勝っただけで、惜しまれつつ引退した。
父ノーアテンションは、フランス産で25戦4勝。GⅠ勝ちはないが、GⅡのドーヴィル大賞典でリアルシャダイの2着、モーリスドニュイユ賞がAll Alongの2着、GⅢのフォワ賞もApril Runの2着と、長距離で良績を残している。そのスタミナは、BrantomeのBlandford、およびTicinoのDark Ronaldから。スピードは、Mumtaz MahalとThe Tetrarchで、クロス馬の種類が43と少なく、シンプルにまとめられた血統構成ではある。しかし、父内の米系の血が弱点となり、レベルとしては二流配合馬の域を出ない内容。
そのかわり、種牡馬としては、本馬以外にモガミナイン(スプリングS)、コクサイトリプル(ダービー3着)、クラシックブリッジ(函館3歳S3着)など、地味ながらも、個性的な配合馬を送り出している。
母ナイスデイは、公営岩手で1勝の成績。自身の血統は、Hyperionの3×4(中間断絶)、Nearcoの5×3(中間断絶)のクロスを持ち、影響度バランス⑱⑦⑰⑦と、かなり近親度の強い内容になっている。いわゆる欧州系の血が主体で、父方Hornbeam、母方Sayajiraoを強調した形態。弱点や欠陥は派生していないが、主導の明確性を欠き、スタミナ過多の配合馬だといえる。長所は、St.SimonとGalopinで土台構造がしっかりとできていること。ここが後に繁殖として、スーパークリークの能力を形成する上で、ひとつのポイントになったと推測できる。
そうした両親のもとに生まれたスーパークリーク。まず前面のクロスを検証すると、Nearcoの6×4・6とNasrullahの5×5があり、これらは系列ぐるみを形成している。この場合、どちらに血が集合しているのか、確認しにくいが、影響度数値から、母の母内Sayajiraoが強い影響力を示していることは間違いない。その際に、Sayajirao内は、Nogara、Dark Ronald、St.Frusquinなどがしっかりとクロスして、スーパークリークのスタミナ供給源となっている。つぎにNasrullahだが、これは父内Grey Sovereignが、Mumtaz Mahal、The Tetrarchを始め、Santoiをクロスさせ、キーホースを押さえており、スピードの裏づけが確認できる。さらにGrey Sovereignの仔Sovreign Pathを検証しても、Hurry On、Son-in-Law、Grand Paradeをクロスさせ、母ナイスデイの持つ欧州系の血と呼応していることが解る。ここがスーパークリークのスピード補給のポイント。つまり、影響度の強いスタミナ過多の母に対して、Sovreign Pathのスピードが供給されている。大柄なわりに、器用な先行力を発揮できたのは、まさしくこの仕組みによるものと考えられる。
つぎにHyperionだが、この血は、父方には7代目に1つしか存在していない。したがって、母ナイスデイの4代目と5代目にあるこの血のクロス効果は、やや弱いものになっている。そしてそれは、ナイスデイ自身では濃すぎたHyperionの血を薄めることになり、結果として、Nasrullah・Nearco系のクロスの効果が引き立てられたと解釈すべきだろう。ただし、父ノーアテンション内のNijinsky、Sly Polaに含まれる米系の血はクロスになれず、とくに後者のほうは欠陥を派生させている。スーパークリークは、骨折や筋肉痛などに見舞われ、順調さを欠く面がみられたが、その点では、同期のオグリキャップの頑張りとは対照的な面を持っていた。そうした弱さの要因を血統に求めるとすれば、明らかにこの父内の不備や、①④⑭⑮という極端に母方に傾いたバランスにあると考えてよいだろう。
以上の点を考慮して、8項目評価をすれば、以下のようになる。
①=□、②=△、③=○、④=△、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=□
総合評価=2B級 距離適性=9~12F
理論上は、必ずしも上級レベルの血統構成ではないことは事実。となれば何故に、菊花賞や天皇賞を制するほどの能力が備わっていたのか。そのあたりを、もう少し検証してみたい。
I理論には、影響度数値のバランスから見た名馬の配合パターンの分類がある。その統計からすると、8種類に分類されるパターンのうち、とくに2つの型が傑出している。まず祖父母4頭のうち、1頭の影響力がとくに強く、他の3頭のそれは同程度に揃っているパターンが、Ribot-Sea Bird型(例=トウカイテイオー⑪⑥⑤⑥)。そして、もうひとつは父方と母方の影響力が均衡したパターン、すなわちVaguely Noble-Alleged型(例=オグリキャップ④⑨⑧⑤)。この2つの型の配合馬の成績がもっとも安定しており、実績を残している。
その8つの区分でいえば、スーパークリークの型は、父方か母方のどちらかの影響が支配的なパターン、すなわちGrundy型に属する。この型に属する馬は、古くはメジロパーマー(⑬⑭⑥①)、最近の例ではシンボリクリスエス(⑪⑤0④)などがいる。この型の馬の特徴は、影響度の小さい部分に、弱点や欠陥が派生しても、影響度の強い父方または母方のほうが、スピード・スタミナのキーホースを押さえ、結合がしっかりとしていれば、弱点・欠陥の影響が軽微で済むというメリットを持っている。
種牡馬でいえば、欧州系主体で、近親度の強いトニービン(⑤⑤22⑰)が代表的で、その仔であるジャングルポケット(③⑲⑦0)の配合形態もそれに当たる。スーパークリークの配合もまさしくそれで、類似性を求めるとすれば、トニービン産駒の逆パターンと考えれば、理解しやすいだろう。違いは、トニービンが、父方(カンパラ)にスピード、母方(Severn Bridge)にスタミナと、勢力が均等であったの対し、ナイスデイは、父母ともにスタミナ勢力が圧倒していたことである。しかし、そのスタミナや内在しているスピードが、育成・調教で引き出され、不調の際の休養、アンカーを務める武豊騎手との出会いなど、生産牧場まで含めて、血統外の要因にもめぐまれた。それがスーパークリークの活躍に結びついたものと思う。
Grundy型の場合、基本的にはバランスも悪く、全体の血統評価としては高くなりにくいが、マイナス要因を軽微にしてしまうというメリットが生きて、良績を残す馬が出現することもある。しかし、Ribot-Sea Bird型や、Vaguely Noble-Alleged型と比較すれば少数派であり、配合段階ではつくりにくいタイプといえる。このパターンの馬は、これまでの傾向を見ても、調整がかなり難しく、きっちりと仕上がったときと、そうでないときの差が大きい。
スーパークリーク自身は、母ナイスデイ内の血のまとまりで能力形成を果たしていたが、種牡馬となり、血の世代が1代後退すると、その構造は崩れて破綻してくる。さらに、ノーアテンションとナイスデイの間に見られる世代ずれ傾向がより顕著になり、血の連動が弱くなるので、当初から種牡馬として、優駿を出す可能性はかなり低いことが予測できた。そして、やはり、その予想通り、種牡馬としては成功することなく終わった。
スーパークリーク自身の配合は、父ノーアテンションの特徴を最大限に生かした内容でないことは、すでに述べた。そこで、最後に、スーパークリークとほぼ同年代の馬で、ノーアテンションの血をうまく生かしたコクサイトリプル、クラシックブリッジ、および同期でダービー馬となったサクラチヨノオーの配合について、簡単に触れておく。
■コクサイトリプル(ダービー3着)
①=○、②=□、③=□、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=9~12F
Hyperionを主導に、Swapsを強調。ノーアテンション内の米系、ドイツ系の血も、Dark RonaldやOrbyを押さえ、じつにバランスがよく、血統構成だけでいえば、ダービーを勝ったサクラチヨノオーよりも明らかに上の内容。
■クラシックブリッジ(32戦6勝)
①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=9~12F
脚部不安で出世をはばまれたが、配合内容はじつにしっかりとしていた。当時として、異系交配にも関わらず、欧米系の血の結合がスムーズに行われた珍しい例。
■サクラチヨノオー(ダービー馬)
①=○、②=□、③=○、④=△、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=□
総合評価=3B級 距離適性=8~10F
マルゼンスキー内の米系の血は生きず、とてもジャストフィットとはいえない。Mahmoud主導の明確さと、結合のよさがこの配合のポイントだが、ダービー馬の血統構成としては、心もとない内容であることも事実。