サクラローレル
父:Rainbow Quest 母:ローラローラ 母の父:Saint Cyrien
1991年生/牡/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:G1日本ダービー
サクラローレルのデビューは、1994年(平成12年)の1月、中山の新馬戦・芝1,600m。15頭立ての1番人気だったが、シャインフォード(父ミルフォード)の9着に敗れている。勝ち上がりは、3戦目の東京ダート1,400m戦。その後、ダートで1勝をあげ、ダービーをめざし、青葉賞に挑戦したが、エアダブリンの3着に敗れ、休養に入る。
秋に復帰し、ようやく暮れ頃から頭角を現し、特別レース2戦を連勝。明けて中山の金杯を制し、オープン入りを果たすが、脚部不安を発症し、目黒記念を2着した後、1年1カ月の長期間休養。5歳になり、復帰初戦の中山記念を9番人気で制すると、春の天皇賞へと駒を進めた。
ここでは、故障明けから復活途上のナリタブライアンが1番人気。そして、前年にグランプリを制し、阪神大賞典ではそのナリタブライアンと競馬史に残るデッドヒートを演じたマヤノトップガンが、2番人気に推された。サクラローレルは、故障明け2戦目にも関わらず、両馬に次ぐ3番人気。レースでも、サクラローレルは、早めに先頭にたったナリタブライアンをとらえ、みごとに優勝し、復帰後またたく間に、古馬の頂点に立たのである。
その後、夏は休養にあて、秋初戦のオールカマーを制して順調度をアピールすると、秋の天皇賞では1番人気に支持された。春秋天皇賞の連覇が期待されたが、結果は、バブルガムフェローの3着に敗れた。
そして、その汚名返上を期して臨んだのが有馬記念。定年をひかえた境勝太郎調教師も、最後のグランプリ制覇に向けて、サクラローレルに万全の仕上げをほどこしてきた。主な出走馬は、サクラローレル(1番人気)、マヤノトップガン(2番人気)、マーベラスサンデー(3番人気)、ファビラスラフイン(4番人気)、ヒシアマゾン(5番人気)、ロイヤルタッチ(6番人気)など、いずれ劣らぬ個性的なメンバーが揃った。
レースは平均ペースの展開で進み、サクラローレルは6番手を追走。4コーナーで、マーベラスサンデーが早めの仕掛けで先頭に立ち、そのまま押し切るかに見えたが、それをローレルが坂上でとらえ、あとはゴールに一直線、2馬身半の差をつけて優勝。41代目のグランプリホースの栄誉を手中におさめた。
6歳になると、サクラローレルは凱旋門賞をめざすことになった。しかし、春の天皇賞では1番人気に推されたものの、脚質転換を果たしたマヤノトップガンの差し脚に屈して、2着に敗れる。凱旋門賞の前哨戦フォワ賞では、右前屈腱不全断裂を発症させて、8着に敗退するとともに、引退を余儀なくされ、1998年に種牡馬入りを果たす。
《競走成績》
3~6歳時に走り、21戦9勝。主な勝ち鞍は、天皇賞・春(G1・芝3,200m)、有馬記念(G1・芝2,500m)、中山記念(G2・芝1,800m)オールカマー(G2・芝2,200m)、金杯(G3・芝2,000m)など。
父Rainbow Questは、米国産で、英愛仏で走り14戦6勝。主な勝ち鞍は、凱旋門賞(G1・芝2,400m)、コロネーションC(G1・芝12F)などで、全欧古馬チャンピオンに選出されている。種牡馬としては、当馬の他、Quest for Fame(英ダービー)、Saumarez(凱旋門賞)、クロコルージュ(リュパン賞)、アドマイヤカイザー(エプソムC)など、世界各国でステークスウィナーを輩出している。
Rainbow Quest自身は、Nearcoの系列ぐるみを主導に、PharamondとBlandfordがスピード・スタミナをアシストしている。凱旋門賞を制したことで、IK理論上では中距離と診断していたBlushing Groom(一般的にはマイラー扱い)の潜在的なスタミナが証明された。
8項目に照らすと、以下のようになる。
①=○、②=○、③=□、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=9~12F
母ローラローラは、仏国産の1勝馬。JCダートを制したタイムパラドックスの母ジョリーザザの半姉にあたる。ローラローラ自身は、Nasrullahを主導として、BMS内Bold Rulerが強調された形態。欧州系の特殊なスタミナをクロスさせ、バランスは整っている。1勝馬で終わった理由は、少数派の米系の血が強くなり、欧州系との連動が弱くなったため、と考えらる。とはいうものの、包含している血の質は高く、繁殖牝馬としてのバランスは保たれている。
8項目評価は以下の通り。
①=□、②=□、③=□、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
総合評価=2B 距離適性=~9F~
そうした父と母の間に生れたのが、サクラローレルである。
まず、影響度バランスの評価点に加算されるクロス馬を検証すると、Nasrullahの4×5・6、次いでNearcoの5・6×6・7が、系列ぐるみのクロスとなり、主導勢力を形成。そして、父Rainbow Quest内6代目のクロス馬は、Pharos、Blenheim(=His Grace)、Blandford、Rabelaisで、これらはいずれもNasrullahの血を構成している要素。Bull DogもAjaxとSpearmintによって、Nasrullahと結合を果たしている。
マイナスは、Son-in-Law、Ksarをはじめ、母内Princequillo系のスタミナと、主導との連動が弱いこと。Discovery、Fair Play系との結合もスムーズさを欠いている。これらを加味し、当初の8項目評価は、以下のようにした。
①=□、②=□、③=□、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
総合評価=2B級 距離適性=9~11F
ダート戦の勝ち上がりだったが、スピードを備えた中距離馬という診断をくだした。しかし、当馬の評価は、見直しの必要性が生じたので、その点を解説してみたい。
そのポイントは、主導の解釈にある。
当初、①を□と判定した理由は、次の点からである。
a)当馬の形態は、Nasrullah主導だが、Man o’War-Fair Play系、Princequillo系との連動が
弱い。
b)父Rainbow Quest自身が、Nearcoを主導とすることで、MossboroughやHerbager内のスタミナを
得ていたが、サクラローレルはNasrullahを主導であり、スピード色が濃く、父の傾向とは必ずしも一致しない。
しかし、その後、異系交配の様相を呈する配合馬で、評価点に加算されるクロス馬が少ない状態、なおかつ、主導勢力との結合が確認され、弱点や欠陥の派生がない場合は、能力減少要素は少ないということが、データとしてとらえられるようになった。
サクラローレルもそのケースに該当し、①は□→○に、クロス馬の数は実質40台で、その結果⑥の□→○となり、主導の明確性を備えた、簡素な血統構成と解釈することができた。
結果、8項目評価も以下のようになった。
①=○、②=□、③=□、④=□、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=□
総合評価=3B級 距離適性=9~11F
スタミナ勢力として、Bull DogやRabelaisが加わるものの、Nasrullahが主導としていうことで、距離適性は当初の判断通りにした。
以上が、サクラローレルの血統構成の評価を変更した理由である。走るイメージや体型から、パワー型と思われがちだが、血統構成上は、日本的なスピードタイプというのが、理論から導き出される診断になる。スタミナにやや難があるため、もしも3歳時にクラシック路線でレースを重ねていたら、古馬での成長に赤信号が灯ったことも考えられる。それでいえば、脚部不安による休養を経て、6歳で大レースを目標としたことは、ローレルにとっては、かえって幸いしたといえるかもしれない。
サクラローレルのライバル馬たちについては、すでにこの「百名馬」シリーズで多くを解説しているが、参考までに、8項目評価を記しておく。
■ナリタブライアン
①=◎、②=◎、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=◎、⑧=◎
総合評価=2A級 距離適性=8~16F
■マヤノトップガン
①=○、②=○、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=8~15F
■マーベラスサンデー
①=○、②=○、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=8~11F