ニッポーテイオー
父:リイフォー 母:チヨダマサコ 母の父:ラバージョン
1983年生/牡/IK評価:2A級
主な勝ち鞍:G1天皇賞・秋、G1安田記念、G1マイルチャンピオンS
前回はスズパレードを紹介したが、今回取り上げるニッポーテイオーは、そのスズパレードと、5歳のときに宝塚記念で名勝負を演じた馬。競走馬の配合レベルやその力量を判断する場合には、同世代の馬、あるいは同時期に戦った馬たちについても考察し、比較してみることがたいせつである。ちなみに、前回のスズパレードは、日本最強馬といわれたシンボリルドルフと同期であり、またあのオグリキャップとも有馬記念で戦ったいる。その意味では、今回のニッポーテイオーを、この馬たちと比較してみることも、その能力値を総体的に判断する上で有効だろう。
《競走成績》
3~8歳時に21戦8勝。主な勝ち鞍は天皇賞・秋(GI・芝2000m)、安田記念(GI・芝1600m)、マイルチャンピオンS(GI・芝1600m)、スワンS(GⅡ・芝1400m)、京王杯スプリングC(GⅡ・芝1400m)、ニュージーランドT(GⅢ・芝1600m)、函館記念(GⅢ・芝2000m)。2着――宝塚記念(GI・芝2200m)2回など。
《種牡馬成績》
1989年から供用。代表産駒は、インターマイウェイ(大阪杯=GⅡ、函館記念=GⅢ)、ダイタクテイオー(毎日杯=GⅢ)、アロートゥスズカなどだが、当時高額シンジケートが組まれ、種牡馬としての期待が高かっただけに、産駒・実績面では不満が残る。
父リイフォーは1975年英国産で、競走成績は11戦3勝(Gレースはクインシー賞=GⅢ・芝1600m。他のレースでも勝ち鞍の距離は1800mまで)。この実績を裏づけるように、配合上もスピード主体マイラータイプであることは、別紙分析表からも推測できる。
祖父母4頭のなかでも強い影響力を示しているのがCourt MartialとTudor Minstrel。この両者は、Lady Jurorを介して呼応している。それも、Lady Jurorの母系のスピード源であるLady Josephine-Sundridgeが系列ぐるみを形成し、父系のSon-in-Lawがクロスにならなかったので、これだけでもこの馬がスピードタイプの配合であることは容易に推測がつく。
これらのスピードの血と比較して、リイフォーにはスタミナ勢力、核が不足しており、せいぜいKsar-BruleurといったTourbillon系が存在する程度。HyperionのクロスはTudor Minstrel、Lady Angela内のもので、スタミナ要素は弱められている。また、リイフォーは、母がヨーロッパ主体の血で構成されているため、父の父Northern Dancer内のアメリカ系の血がクロスになれず、Native Dancer内にも欠陥が派生した。これが距離的限界をもたらす血統的要因になっている。したがって、リイフォー自身のI理論による血統評価は「一流のマイラー」とはいえないことになる。
その仔ニッポーテイオーは、母のチヨダマサコの母系がワールドハヤブサ(ビクトリアクラウンの母)。ここはダイハード、ヒンドスタン、ダイオライトなど、日本の種牡馬の歴史が刻み込まれ、それにパーソロンを配して生まれたのがミスオーハヤブサ。さらに、そのミスオーハヤブサに、アメリカでワシントンフューチュリティなど16戦4勝をあげたラバージョンを配したのが、ニッポーテイオーの母チヨダマサコである。ラバ―ジョンは、名馬Damascusの直仔ということもあって、期待を担って輸入された馬だったが、当時の日本の繁殖牝馬がヨーロッパ系主体であったために、ラバージョンの持つアメリカ系の血と相性が合う確率は低かった。また輸入後3年で死亡してしまった(チヨダマサコの生まれた1977年)こともあり、結果的には産駒にはめぐまれなかった。しかし、その血の内容は現代の血の流れを先取りしたものであり、質も高かっただけに、その早い死が惜しまれる。
ラバージョンは当時の日本の繁殖牝馬側の傾向を考えると、日本に輸入されるよりも、アメリカに残って供用されるべきであったと思う。そうであれば、ひょっとして、その血の勢力を広げていたかもしれないと思えるほどの内容であった。ちなみに、Mr.Prospectorは1970年生まれで、ラバージョンと同時期に日本に輸入されるという話があったそうだが、日本側がキャンセルしたとか。そのおかげで、いまやMr.Prospectorは全世界に浸透する一大勢力をなすに至ったわけである。もしも日本に輸入されていたら、おそらく消滅する運命にあっただろう……。
さて、母チヨダマサコは、ヨーロッパ(母系)とアメリカ(父系)の組み合わせであるため、基本的にはジャストフィットの配合とはいえない。しかし、母ミスオーハヤブサには、Never Say Dieが含まれているので、最低限、父内のMan o’War、Sweep、Sir Gallahadなどアメリカ系の血に対応することができた。Nasrullahの4×5とMy Babuの4×4はともに中間断絶だが、Pharos 、Mamtaz Mahal、Blandfordが両者に存在、連動し、互いのスピードを再現している。スタミナはPlucky Liegeを介してヒンドスタン、Sir Gallahadから補給。ラバージョン産駒としては、日本の中で、しっかりとした血統構成の産駒であった。
このような両親の間に生まれたのがニッポーテイオー。主導は父の父方Lyphard内Nearco。ここに続くPharos(=Fairway)が父母内の6代目でクロスし、さらにPhalarisがSickleの父として7代目に配置されて、世代的に理想的な位置関係で系列ぐるみを形成していることがわかる。ついで、Djebelが6代目から系列ぐるみを形成。リイフォー内では、Tourbillonが6代目からクロスになり、Rabelaisを介して、主導のNearcoと結合。また、Djebelは、Bayardo、Teddyといった血も包含しているので、血をまとめるという面でも有効に作用している。
リイフォーのスピード源であるLady Josephineや、特殊な血であるAlcantara、Perthをもれなくクロスさせ、その上Native Dancerの欠陥を補正することにも成功しいる。両者は、これ以上はないといえるほどの相性のよさを示し、偶然とはいえ、みごとな配合である。とくにDjebelの「晩成」のスタミナを生かし、ここまでうまく子孫の血の中に反映させた血統構成の例(しかもそれをみごとに開花させた)は、珍しいといえよう。それだけに、この馬の存在で、忘れてはないらないのは、久保田金造厩舎の調教技量。故・五十嵐良治氏は、この調教師を「天才一発屋」と称していたが、この言葉の裏には、目標のレースに向けて完璧に馬を仕上げられるだけの技術をもった厩舎という意味が込められている。前回紹介したスズパレードの富田六郎氏ととも、一目置く存在であった。五十嵐氏は、厩舎の技量を見定める物差しとして、スタミナにすぐれた血を持つ馬の素質を開花させられるかどうか、ということを重視していた。ニッポーテイオーでいえば、晩成のスタミナ血統Djebel (およびそれを含むKlairon)を筆頭に、Clarissimusのクロスを伴ったPharis、Vatout 、Plucky Liegeをクロスさせたヒンドスタンなど。こうしたスタミナの後押しのあるスピードが生きたからこそ、持続力のあるスピードを発揮することができた。それが、ニッポーテイオーの天皇賞逃げ切りを可能にした原動力なのである。
ニッポーテイオーの血統構成を8項目に照らすと、以下の通り。
①=◎、②=◎、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
評価=2A級 距離適性=8~12F(本質は10Fまでだが、日本の馬場なら12Fも克服可能)
まだI理論に出会わない段階で(その存在は知っていたが)、私は、ニッポーテイオ―に関して、以下のようなイメージと現実のギャップを感じていた。
1.マイラーの割りには4歳後半と遅い時期になって頭角を現し、それから戦績が安定し、晩成傾向を示した。
2.切れよりも持続力のあるスピード、つまり平均的スピードで押し切り、従来のマイラーとはタイプを異にしていた。
3.初戦を不良馬場で勝っているように、力を要する馬場にも対応できる。
そして、後にI理論と出会い、それによるニッポーテイオーの血統分析結果を知るに及んで、これらの疑問はすべて氷解した。というよりも、ニッポーテイオーの真価を、その血統面から理解することができたのである。