ナリタブライアン
父:ブライアンズタイム 母:パシフィカス 母の父:Northern Dancer
1991年生/牡/IK評価:2A級
主な勝ち鞍:G1ダービー、G1皐月賞、G1菊花賞、G1有馬記念
競馬ファンの投票によっておこなわれたJRAイベント「20世紀 日本の名馬」の第1位の座に輝いたのがナリタブライアン。
3歳チャンピオンの決定戦であるGⅠ朝日杯を皮切りに、4歳時には三冠を制し、その年の暮れには古馬の上位陣を向こうに回してドリームレースの有馬記念を圧勝。この4歳時点で、名実ともに全競走馬の頂点に立った。三冠レースで、2着馬との間につけた着差の合計は15馬身半。強いというよりも、「すごい」という形容のほうがふさわしく、1頭だけ次元の違う走りを見せてくれた。
明けて5歳時にも、阪神大賞典では、馬なりのまま、2着のハギノリアルキングに7馬身差をつけて楽勝。ところが、好事魔多しのたとえもあるように、絶頂期はこのときまでだった。この後、完治が難しい股関節炎を発症してしまったため、春の天皇賞を回避し、秋に復帰したものの、本調子を欠いたまま、天皇賞(12着)、JC(6着)、有馬記念(4着)と敗れ、5歳を終える。
それでも、半信半疑の状態で出した阪神大賞典では、前年の菊花賞、有馬記念を制したマヤノトップガンと対決。3コーナーからは、まぎれもないマッチレースの叩き合いを演じ、ゴール前で頭差トップガンを抑えて優勝した。まさに競馬史に残る「これぞ競馬」、「鳥肌伝説」とも形容された名勝負によって、ファンに深い感動を与えるレースを見せてくれた。
しかし、その後は、天皇賞ではサクラローレルの2着に敗れ、スプリンターG1に変身した第1回の高松宮杯1200mもフラワーパークの4着に敗退。ナリタブライアンにとって決して適性距離とはいえないレースを使われた反動のためか、こんどは屈腱炎を発症して、ついに余儀なく引退に追い込まれた。
日本の頂点に立ち、海外での活躍が期待され、またそれに応えられるだけの素質と実力を備えていただけに、本当に惜しまれる引退であった。
《競走成績》
3~6歳時に21戦12勝。主な勝ち鞍は、ダービー(G1=芝2400m)、菊花賞(G1=芝3000m)、皐月賞(G1=芝2000m)、有馬記念(G1=芝2500m)、朝日杯3歳S(G1=芝1600m)、阪神大賞典2回(G2=芝3000m)、共同通信杯(G2=芝1800m)、フジTV杯スプリングS(G2=芝1800m)など。
《種牡馬成績》
1996年から2年間共用されたが、98年死亡。初年度産駒は2000年にデビュー(以下補足・マイネヴィータがG3フラワーCで2着したが、重賞勝ち馬はなし。)
父ブライアンズタイムは、1985年の米国産で、1990年から日本で種牡馬として供用。戦績は、3~5歳時に米国で21戦5勝。主な勝ち鞍は、フロリダダービー(米G1=ダ9F)、ペガサスH(米G1=ダ9F)。プリークネスS(米G1=ダ9.5F)では2着、ベルモントS(米G1=ダ12F)では3着の実績をもつ。
ブライアンズタイムの分析表は別掲のとおり。父RobertoがHyperionを含まず、母Kelley’s Day がNasrullahを含まなかったことが一つの要因となって、Sir Gallahad(=Bull Dog)がその母Plucky Liegeを通じて系列ぐるみのクロスとなり、全体をリードするとともに、スタミナの核を形成している。スピードはMumtaz MahalとSundridgeから補給して、なかなかバランスのよい配合。
ただし、プリークネスSやベルモントSなど、トップクラスのレースではあと一歩と詰めの甘さを露呈したが、その要因としては、主導となったSir Gallahadの血が、母内では同血のBull Dogひとつ以外は一連もなく、多数派ではなかったこと、および欧米の血の結合がスムーズに行われていない点などが考えられる。したがって、種牡馬として配合を考える際には、この点の補正を考慮する必要かある。
8項目をチェックする以下の通り。
①=○、②=○、③=□、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
評価=1A級
一方、母のパシフィカスは英国産で、父Northern Dancer(18戦14勝、ケンタッキーダービー、プリークネスSの二冠馬)、母の父Damascus(32戦21勝、ベルモントS、プリークネスSの二冠馬で、1967年の米年度代表馬)、祖母Fuji(コロネーションS=英芝8F)、母Pacific Princes(米G1デラウェアオークス)と、構成されている血は質の高い内容を持っていた。
ただし、自身の配合は、Nearcoの3×5とHyperionの4×5のクロスを持ち、Northern Dancerを強調した内容。大きな弱点・欠陥はなかったものの、スピード・スタミナのバランスが悪く、また近親度が強いため、影響度も26⑥⑥⑬と均衡を欠いていた。したがって、構成された血の質を反映するような血統構成とはいえなかった。競走成績も11戦2勝と平凡なもの。
また、繁殖として共用された英国では、これといった産駒を残せなかったが、その大きな要因は、交配された種牡馬がヨーロッパ主体の血で構成され、Northern DancerやDamascusの血を生かし切れなかったためと考えて、まず間違いはない。この馬が日本に輸入されときに、その腹の中には、これまた実績の乏しい種牡馬シャルードの仔(=兄ビワハヤヒデ)を宿していたわけだが、そうした背景を考えれば、一般的にはそれほどの期待を受けなかったことも納得できるだろう。
パシフィカスの8項目評価は、
①=□、②=△、③=□、④=○、⑤=△、⑥=□、⑦=□、⑧=□
となり、評価は2B級。
父ブライアンズタイムは、同じRobertoの仔リアルシャダイが日本で種牡馬として成功したことや、Robertoの血を含んでいるのでNorthern Dancer系の血を含む繁殖との交配を視野に入れながら、日本に購入されたといわれている。そうした着眼点に立って交配された産駒が、このナリタブライアンであり、ブライアンズタイムの初年度産駒に当たる。そうした生産上の背景はあるものの、一般的には、まだ結果の出ていない種牡馬と繁殖牝馬の仔ということから、血統的にそれほど注目されなかったことも当然だろう。
ナリタブライアンがデビューする年の春、1歳上の兄ビワハヤヒデは、惜敗続きだったが、皐月賞、ダービーを健闘(ともに2着)したことから、にわかにその半弟ということで注目されだしたという程度であった。
ナリタブライアンのデビューは、3歳の8月、函館芝1200mで、8頭立ての2番人気だったが、ロングユニコーンの2着。続く折り返しの新馬戦、芝1200mで逃げきりの初勝利をあげて勝ち上がった。しかし、函館3歳Sでは、9頭立ての6着に惨敗している。この時点では、後の大活躍を、誰も想像できなかっただろう。
そうした、決して順風満帆とはいえないデビュー時の状況だったが、血統構成から推測できる能力からすれば、そもそも1200mという距離を3回も使われたこと自体が、不振の要因といっても間違いないはず。当時、不振の要因を重馬場に求める記事も見られたが、むしろその逆で、脚元への負担など、その悪影響ということからいえば、デビューから3戦の1200mがいずれも重馬場だったことは、ナリタブライアンにとってかえって救いとなったことだろう。
ナリタブライアンの分析表を見て、はっきりとわかることは、主導がNearcoの6・6×4・6の系列ぐるみであること。次いで影響力の強いHyperionの6×5・6のクロスも、系列ぐるみを形成している。両者のリードによって、母の父Northern Dancerを強調している。この場合、まず重要なことは、強調されたNorthern Dancer内に弱点・欠陥はないかということと、キーホースをきっちりと押さえているかどうかということだが、ここでは、主流の血はもとより、特殊なアメリカ系の血(Sweep、Ben Brush、Broomstick、Black Toney-Peter Panなど)もきっちりと押さえていることが確認できる。
同様のことは、母の母内Damascusに対してもいえるが、母の母Pacific Princess内では、AcropolisのスタミナがBlenheim、Clarissimus、Hyperionによって、強調されたNorthern Dancer内にアシストされている様子が確認できる。それらの意味では、パシフィカスの持つ血が最大限に有効活用されていることが読み取れる。
つぎにブライアンズタイムだが、ここもまずRoberto内で、Nearco、Teddy、Man o’ War、Black Toneyがクロスして、スピード、スタミナを確保。さらにGraustark、Hyperion、Traceryを中心に、GayCrusaderといったキーホースも押さえ、スタミナ勢力として参加している。Hasty Roadは、母内のアメリカ系の血と呼応することで、スピードのアシストの役を果たしている。
ただし、ブライアンズタイムを再現する上での難をいえば、父内Sir Gallahadや、アメリカ系の結合状態のぎごちなさを完全には解消できなかった点だが、これはいわば重箱のすみを突つくようなもの。強調されている血がNorthern Dancerである限り、マイナスとはいえず、むしろ全体のバランス、主導の明確性という点では、Sir Gallahadの血がクロスになれなかったことはプラスと考えるべきであろ。
以上を総合して、8項目に照らせば、以下の通りになる。
①=◎、②=◎、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=◎、⑧=◎
評価=2A級、距離適性=8~16F
そして、勝ち上がった時点で、分析表上から診断し、初めて公表したコメントは以下の通り。
「ビワハヤヒデの異父弟。主導は兄同様にNearcoだが、Hyperionのクロスが加わって、スタミナを強化した。その分、兄よりもスピードは劣るものの、スタミナ優位で鍛えがいのある馬になっている。底力もそうとうありそう。G1候補。」
この期待にみごとに応えてくれたナリタブライアン。
Northern Dancerの血を最大限に生かした配合馬として、兄ビワハヤヒデとともに、血統構成はまさに一流のもの。その内容だけならば、日本のみならず、世界の上級馬とならべても、まったく劣るところのない優秀な馬であったことを、改めて記しておきたい。