久米裕選定 日本の百名馬

ミホノブルボン

父:マグニテュード 母:カツミエコー 母の父:シャレー
1989年生/牡/IK評価:2A級
主な勝ち鞍:G1日本ダービー、G1皐月賞、G1朝日杯3歳S

▸ 分析表

ミホノブルボンは、シンボリルドルフ以来の無敗三冠馬誕生の期待を一身に受けて菊花賞に臨んだが、「関東の刺客」ライスシャワーのステイヤーの血の前に、その夢を断たれ、2着に敗退した。ミホノブルボンを管理し、そのハードトレーニングで有名だった故・戸山調教師は、「いくら鍛えても、この馬の本質を変えることはできなかった」と語り、血統からくる距離の壁という敗戦の弁をコメントしていた。

当時のミホノブルボンに対する血統論のほとんどが、父マグニテュードと母の父シャレーとの組み合わせから、同馬をスプリンターと評価していた。戸山調教師の理念である「馬はみなもともとはスプリンター、それを鍛えてどこまでスタミナがつけられるかが勝負」という考えかたも手伝って、「ミホノブルボン=スプリンター」という評価は、ほぼ肯定されていた。

3歳(旧表記)の朝日杯1600mの距離で、ヤマニンミラクルにハナ差まで迫られたことも、距離不安説の要因となり、4歳初戦で距離が200m延びたスプリングSでは、武豊騎乗のノーザンコンダクトに1番人気の座を譲っている。しかし、このレースでのミホノブルボンは、初めての逃げのレースをして、まったく他馬を寄せつけず、堂々の勝利をおさめた。このとき見せた、平均ペースでゆるぎないスピードでのレースぶりが、ミホノブルボンの血統的特徴・持ち味を引き出すパターンとなり、その後皐月賞、ダービー、そして秋の京都新聞杯まで、無敗のまま連勝街道を突き進む原動力となった。

《競走成績》
3~4時に8戦7勝。主な勝ち鞍は、日本ダービー(G1・芝2400m)、皐月賞(G1・芝2000m)、朝日杯3歳S(G1・芝1600m)、スプリングS(G2・芝1800m)。京都新聞杯(G2・芝2200m)。2着は菊花賞(G1・芝3000m)

《種牡馬成績》
1994年から供用。主な産駒は、ヤングワンガンボ(中央1000万クラス)、オリエンタルシチー(中央1000万クラス)、ミヤシロブルボン(公営14勝)程度。

父マグニテュードは、アイルランド産。その父は英ダービー、凱旋門賞を制したMill Reefで、母は英・愛オークス馬Altesse Royaleという良血馬。しかし、英国での競走成績は、その期待に反し、6戦して0勝。1979年から種牡馬として日本で供用。産駒には、桜花賞馬エルプスや、阪神3歳Sを制したコガネタイフウなどを出したが、コンスタントに活躍馬を出すというほどまではいかず、評価は低かった。ちなみにミホノブルボンの交配時の種付料は30万円程度だった。

母カツミエコーは、南関東公営で1勝。繁殖としても、不受胎が続き、産駒はミホノブルボン以外にはこれといった活躍馬を出していない。

母の父シャレーは、当時、その父Luthierの産駒ダンディルートの種牡馬としての成功によって、同父産駒ということでイギリスから輸入された。戦績は7~8Fの距離で12戦4勝。種牡馬としては、これといった活躍馬も出せず、’93年以降の産駒はいない。カツミエコーの母の父にあたるユアハイネスは、英愛で走り17戦3勝で、愛ダービーを制している。Hurry On系の血を受け継ぐ貴重な種牡馬として日本に輸入された。主な産駒には、ケイタカシ(スポニチ杯金杯、サンケイ大阪杯)、スパーク(福島大賞典3着)などがいるが、スピード要素が弱く、Hurry Onの血が少数派ということもあって、種牡馬としては伸び悩む結果となった。

そうした父母の間に生まれたミホノブルボンだが、一般的な血統論では、その血統的背景からして、どこといって強調できるような要素をもった馬ではなかった。

まず、前面でクロスしているのは、Nearcoの5・5×6と、Hyperionの5・6×6で、ともに系列ぐるみを形成している。このHyperionとNearcoを含む父の母内セントクレスピンの影響が強くなっている。そして、そのセントクレスピン内は、DonatelloのBlenheim、Clarissimus、そして細かい部分ではFriar Marcusまで、きっちりとおさえている。すなわち、凱旋門賞を制したセントクレスピンのスピードとスタミナが再現され、その能力が全開している。これに続き、Djebel(凱旋門賞)の6×6・7のクロスがあり、そのスタミナを裏づけるGay Crusaderも、Princequillo内から呼応させてクロスしている。また、愛ダービー馬のユアハイネスも、Solarioをはじめ、Marcovil、Bachelor’s Doubleをおさえ、スタミナ勢力としてアシストしている。

スピードは、Never BendとLuthierだが、とくにLuthierなどはPerth、Marcovil、Sans Souci といった特殊な血もクロスさせ、じつにきめ細かく再現されて、スピード勢力として能力参加を果たしている。

そして、これらの血はいずれも、直接・間接に結合しており、しかも父母内には弱点・欠陥も派生していない。

これを、8項目で評価すると以下のようになる。
 ①=○、②=○、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=◎、⑧=◎
 総合評価=2A級 距離適性=8~15F

前述したように、一般的な血統評価では、ミホノブルボンは、その背景からスプリンターと見られていたが、I理論(現IK理論)でクロス馬をチェックしてみれば、欧州系のスタミナの血が強調された長距離型の血統構成であったことがわかる。セントクレスピンを強調したことばかりでなく、そのアシスト勢力であるSolarioやDjebelにいたっては、古馬になってから真価を発揮する晩成型の血である。したがって、ミホノブルボンの不安点といえば、スタミナ面ではなく、むしろスピード競馬の対応にあったわけである。朝日杯でヤマニンミラクルにハナ差と迫られたことは、距離延長への不安ではなく、逆に、スピード・瞬発力勝負に対する不安と見るべきだったのである。

少し余談になるが、ミホノブルボンの生産者とは、当時、間接的な知り合いでもあったので、すでに3歳(現2歳)の時点で、I理論によるこの馬の評価は、「血統構成上は、三冠を制してもおかしくない内容を持っている」と伝えてあった。その意味でも、私たちにとって、この馬が春のG1戦線で二冠を制したことは、フロックでもなんでもなく、血統面だけからいえば「当然の帰結」であった。

しかしながら、ミホノブルボンは、三冠最後の関門である菊花賞でライスシャワーの後塵を拝してしまった。勝ったライスシャワーも、1A級評価のステイヤーという優秀な血統構成馬で、そうした相手と対戦したことが、ブルボンの不運だったともいえるかもしれない。

しかし、ブルボンの持つ特性をもう少し生かしたレース運びをしていれば、勝てない相手ではなかったと、いささか悔やまれる部分も残る。それは、レースのラップタイムに如実に現れていた。前半は、キョウエイボーガンの逃げに引っ張られて、5Fまでが11秒台のラップ。ところが、中頃の7~10Fまでが、13秒台にペースダウンしていたのである。ミホノブルボンは、ダービーでも、12秒台前半の平均的なラップで逃げ切っている。血統構成から読み取れる能力は、4歳前半でかなり引き出されているはず。とすれば、このペースダウンは、ミホノブルボンにとってはプラスではなく、最後の瞬発力勝負での余力を残したという意味で、かえって他馬につけ入るスキを与えたことになる。

まさに、その一瞬のスキをついたのがライスシャワーだったのである。ブルボンが、無理に抑えることなく、馬の行く気に任せていたら、あるいはレースの結果も変わっていたかもしれない。その意味で、ブルボンにとっては、心残りのレースであった。

ミホノブルボンの血統構成の優秀さは、前述したとおりだが、血統構成がすぐれていたからといって、すぐにそれが競走能力、そしてひいては競走成績に結びつくわけではない。生産前の両親の体調といったことから、牧場での管理、そして育成や練成。さらに入厩後の鍛練や調教など、すべての課程をクリアしなければならない。

つまり、馬の能力を引き出す人間の努力が、競走能力の開花を大きく左右することは、いうまでもない。とくにミホノブルボンのような、スタミナ優位の配合馬の場合は、普通以上の鍛練が要求される。その意味では、日本の現状では、実績を残しにくい血統構成馬であったことも確かなのである。そういう馬を、デビュー以来無敗のまま菊花賞まで駒を進めさせたのだから、戸山調教師の熱意と技量はそうとうなものだったと思われる。その証拠に、ミホノブルボンの全弟は、関東の厩舎に入厩して1勝もできずにターフを去っている。

じつは、私も、I理論を知るまでは、競走馬の能力開花に対して、ここまで厩舎の技量が大きく影響するものとは、思っていなかった。ミホノブルボンが登場する以前で、まだ私自身もI理論をよく理解していない頃、五十嵐良治先生の競走馬短評に、「この馬の配合は優秀だが、この厩舎がその能力を引き出すことができるかどうか、疑問が残る」というような言い回しに、ときどき出会った。その意味は、ミホノブルボンの登場と、その血を開花させた戸山厩舎の関係で、ようやく理解することができた。

種牡馬としてのミホノブルボンは、一般的評価であった「スプリンター資質」を持つ点が買われ、初年度産駒が50頭、2年度も31頭と、そこそこの頭数を送り出している。しかし、前述した実績が示すとおり、産駒の成績は伸び悩み、いまやその存在すら忘れ去られかけている。

初年度産駒の傾向を調べたところ、オープンで活躍した牝馬コーセイ(父タイテエム)などとの交配が見られたが、この配合では、セントクレスピンの4×3の系列ぐるみのクロスが発生し、スピードの血がまったく生かされない状態に陥っていた。この例に代表されるように、産駒にはスピード勢力の弱い形態が多く見られ、しかもフィットした配合例も少ない。I理論から見た「スピード不足」という不安が、そのまま出てしまったようである。また、仮にブルボンの持つDjebel、Princequilloといった血の傾向をうまくとらえた配合馬がいたとしても、こんどはその血を開花させる技量や、日本の硬い馬場への対応といった点がネックとなり、ブルボンのような走りを期待することは確率的にも低いと考えざるをえない。

ただし、ミホノブルボンに、種牡馬としての可能性がないわけではない。むしろ、その逆である。ことしの英・愛ダービーを連覇したHigh Chaparralの分析表とミホノブルボンのそれを比較してみていただきたい。

▸ High Chaparral分析表

High Chaparralの父Sadler’s Wellsは、ヨーロッパNo.1の種牡馬である。このSadler’s Wellsには、Shirley Heightsなど、Mill Reef系が配されて、優駿を輩出している。つまり、ミホノブルボンのような血で構成されている配合馬が、ここ数年の間、ヨーロッパでは求められているのである。

先日、宝塚記念で善戦したローエングリンなどは、Mill Reefの5×3を呼び水にした配合である。以前、私が、ある雑誌で、架空配合として、ミホノブルボン×エイシンサニーを推奨したことがあるが、この配合内容とローエングリンのそれとを比較して見ていただきたい。配合の方向性に類似点が多いことが、確認できるはずである。その意味でも、日本にすでにあるよい血に価値を見出せず、また新たに同じ血を導入するといった無駄は、省きたいものである。

▸ ローエングリン分析表

▸ ミホノブルボン×エイシンサニー分析表

最後に、ミホノブルボンの同期の馬たちにも触れておこう。ライスシャワーは、その後天皇賞を2度制し、競馬史に残るステイヤーとして、実績をあげたことは周知の通り。その他にも、朝日杯でハナ差に迫ったヤマニンミラクル、あるいはダービーで、ライスシャワーと2着を争ったマヤノペトリュースなど、いずれも個性的な配合の持ち主であった。この2頭の他に、実績は残せなかったが、配合的妙味を持っていたマイネルコートについて、簡単に解説しておきたい。

●ヤマニンミラクル
Romanの4×6の系列ぐるみを主導にして、Tom Rolfeを強調した形態。Ribot内のSardanapaleやTraceryをおさえてスタミナを確保。そしてFlaring Top-Menowによって、欧米の血をまとめた中距離型の配合馬。

 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=芝8~10F

▸ ヤマニンミラクル分析表

●マヤノペトリュース
父ムクターは、7戦6勝の仏ダービー馬で、1988年に種牡馬として日本に輸入された。当馬は、その初年度産駒。Nasrullahの5×5によって、Grey Sovereign、Never Bendのスピードを確保しているが、途中Nearcoが断絶しているために、主導はHyperionの5×6・6の系列ぐるみ。強調されているのはAureoleで、ラディガ内からもAlibhaiやKhaledによって、スピード・スタミナを補う。たいへんバランスのよい中長距離タイプの血統構成。

 ①=□、②=□、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=芝9~12F

▸ マヤノペトリュース分析表

●マイネルコート
皐月賞は13着と惨敗。父もマイナーなニシノスキー(朝日杯3歳S)だが、配合は、Tudor MinstrelやBois Rousselといった欧州系のスピード・スタミナを再現している。父母の持つ能力が最大限に引き出された優秀な血統構成の持ち主。

 ①=○、②=○、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=芝9~12F

▸ マイネルコート分析表

 

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