メイヂヒカリ
父:クモハタ 母:シラハタ 母の父:プリメロ
1952年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:菊花賞、天皇賞・春、中山グランプリ=有馬記念
メイヂヒカリは、中央競馬会法が成立した1954年(昭和29年)10月23日にデビュー。その新馬戦を含めて3連勝して、暮れの朝日杯3歳Sに臨んで、ライバルのイチモンジや、後の皐月賞馬ケゴン、ダービー馬オートキツらを破って優勝した。4戦無敗で、この年の3歳(現2歳)代表馬に選ばれる。
明けて4歳(現3歳)になると、連勝記録は2つ伸ばしたものの、皐月賞トライアルのスプリングSで、後肢に不安を発生させて、5着に敗れるとともに、春のクラシック戦への出走を断念した。秋になって再起をかけたメイジヒカリは、菊花賞で、ダービー馬オートキツと対決し、この馬に10馬身という大差をつけて制し、みごとに復活を証明する(ここまで10戦8勝、2着1回、5着1回)。
古馬となったメイヂヒカリは、春の天皇賞もタイレコードで圧勝し、名実ともに頂点に立つ。ちょうどこの年(昭和31年)、中央競馬会の有馬頼寧理事長が、中山競馬場改築記念として、「府中のダービー」に対抗すべく、「中山のグランプリ」(32年、有馬氏の死去とともに「有馬記念」に改称)を創設し、その第1回が開催されることになった。これに挑んだメイヂヒカリは、1歳下の菊花賞馬キタノオーに次いで、ファン投票は第2位だった。
しかし、レース当日になると、ダイナナホウシュウ(皐月賞、菊花賞、天皇賞・秋)、ミッドファーム(天皇賞・秋)、ハクチカラ(ダービー)、キタノオー(菊花賞)、ヘキラク(皐月賞)、フェアマンナ(オークス)らの、いずれ劣らぬ個性派を相手に、メイヂヒカリは堂々の1番人気に推された。
レースは、ミナトリュウ、ダイナナホウシュウの先行勢を見ながら、好位追走したメイヂヒカリが、4コーナーでスパートし、楽にトップに立つと、追い込んできたキタノオーに3馬身1/2差をつけて、2600mを2分43秒1のレコードで快勝。これにより、メイヂヒカリは、この年の年度代表馬に選出されるが、このレースを最後に引退した。後に顕彰馬となる。
《競走成績》
2歳~4歳時に走り、21戦16勝。主な勝ち鞍は、朝日杯3歳S(芝1100m)、菊花賞(芝3000m)、天皇賞・春(芝3200m)、中山グランプリ=有馬記念(芝2600m)、など。
《種牡馬成績》
主な産駒は、ミオソチス(オールカマー、東京杯)、キクヒカリ(ダイヤモンドS)、ハーバーヒカリ(目黒記念)、オーシャチ(東京大賞典、東京五輪記念、大井記念)、ブラックメイジ(大井記念)など。当時としては、期待ほどの成績は残せなかったが、クモハタから続く内国産種牡馬としては健闘していた。
父クモハタは千葉産で21戦9勝。新馬勝ちの後、中2日でダービーを制している。その他には、これといった大レース勝ちはないが、体質が弱く、まともな状態での出走がなかったにしては、9勝の勝ち鞍をあげたことは評価されている。
クモハタは、競走馬としてよりも、むしろ種牡馬として実績がすぐれており、内国産で5年連続リーディングサイアーに輝いたということが、歴史的な評価といえる。セントライトやシンザン、トキノミノルなどは、その競走実績が認められて、冠名として馬名のついたレースが残っている。しかし、クモハタは、ダービーのみで、さほどの実績とはいえないのに、冠名レースを残している。その理由は、内国産種牡馬としての抜群の実績が讃えられたためだろう。
クモハタの配合は、St.Simonの5・5×6・6がほぼ系列ぐるみのクロスになって、全体をリードし、Hamptonのスピードに、Isonomyのスタミナを加え、大きな欠陥・弱点の派生もなく、じつにシンプルにまとめられている。もしも、体質的に完調の状態だったら、競走馬としても、もっと優秀な成績を残していても不思議のない馬であった。同馬の8項目評価は以下の通り。
①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=○、⑥=○、⑦=○、⑧=□
総合評価=1A級 距離適性=10~15F
天皇賞で2着、3着と勝ちきれなかった要因を、血統内に求めるとすれば、これぞというスピード勢力がやや不足してことが考えられる。
種牡馬としての成功要因をあげれば、
①次世代で結合の要、あるいは土台となるSt.Simon-Galopin、Hampton、Bend Or、Isonomyらを、ちょうどよい位置に配していること
②当時は欧州系が主体だったが、米系にも対応できるGnomeを含んでいたこと
③日本で根づき始めていたBlandford系に対して、近親ではなく、6~7代目の位置で対応できる構造を持っていたこと
などを指摘することができる。
母シラハタは、小岩井農場の生まれで、30戦8勝。福島記念を制したオープン馬で、第四バッカナムビューチーの初仔にあたる。そして、4番目の全弟が、以前このシリーズで解説したハクリョウである。したがって、評価はハクリョウと同じものになる。
①=□、②=○、③=○、④=○、⑤=□、⑥=○、⑦=○、⑧=□
総合評価=1A級 距離適性=10~15F
そうした2頭の優秀な父母の間に生まれたのがメイヂヒカリである。
5代以内のクロスは、William Rufus(=Galloping Simon)の5×5だが、これは中間断絶なので、位置と系列ぐるみの関係から、St.Simonの6・6・7・7×6・7・7・7・7・8・8・8・8が全体の主導勢力となる。この13個のSt.Simonが、完全に異系交配の形態で存在していることが、まずメイヂヒカリの血統の大きな特徴。これにともなって、Galopinが23個、そして「種牡馬の帝王」と呼ばれるStockwell(=Rataplan)が27個と、磐石の土台構造を形成している。
St.SimonとStockwellは、血の結合、連動性という意味でいえば、必ずしも好相性とはいえないが、メイヂヒカリの配合では、両者を包含するWilliam Rufus(=Galloping Simon)が5×5のクロスとなり、1つにまとめる役割を果たしていることが注目に値する。これによって、クロス馬全体の結合がスムーズになり、それが早期のスピード発揮、開花の早さなどに結びついたものと推測できる。
母の母の影響度数字が「0」となっていて、一見するとバランスを欠いているように思えるが、その第四バッカナムビューチー内は、St.Simon(=Angelica)が7~8代に5個、その父Galopinが8個、Stockwellが7個配されていて、ダイオライトやシアンモアのスピード・スタミナを、十分に供給しているので、能力減要素にはならずに済んだ。ただし、欲をいえば、6代目に2つあるOrbyや、シアンモア内Sunstarらをクロスさせることができれば、さらなるスピードが宿ったものと推測できる。
とはいうものの、弱点・欠陥はなく、異系交配でこれだけの同一祖先を有効に生かせたことは、配合の手本ともいえる。菊花賞、天皇賞、中山グランプリで見せた圧勝劇、強さの秘密は、まさにここにある。この配合を8項目に照らすと、以下の評価になる。
①=◎、②=○、③=◎、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=□
総合評価=1A級 距離適性=9~15F
内容的には、ほぼ2A級に近い血統構成で、顕彰馬としての資格は十分に裏づけられており、まさしく古典的名馬の風格がある。
メイヂヒカリは、国産3代目として期待されて種牡馬入りを果たしたが、その成績は、競走成績からすれば、物足りない内容であった。その理由として考えられることは、St.SimonやGalopinによる土台構造はしっかりしているが、その土台の血に通ずるために、系列ぐるみとなり、多数派となれる要素が不足していたこと。当時、繁殖牝馬側に浸透し始めていたGainsboroughとBlandfordが同じ位置・世代に配されていたり、日本の繁殖牝馬の定番であるプリメロ、ダイオライト、シアンモアといった血が、いずれも5代以内に配されているなどのため、交配相手の牝馬の選択範囲が狭くなったこと。その上、繋養場所が個人牧場で、繁殖牝馬の質も低かったこと、などが考えられる。
とはいうものの、それでいて、昭和39年にはサイアー・ランキングのベスト10入りを果たしていることは、メイヂヒカリの血の優秀性の証明ともいえるだろう。ここでは、その産駒の中から、牝馬ながら、リュウフォーレルらの牡馬を抑えて、オールカマーを制したミオソチスの配合を簡単に紹介しておきたい。
■ミオソチス
母はソーダストリームで、アローエクスプレス(父スパニッシュエクスプレス)の半姉にあたる。Blandfordの4×5・6は中間断絶のため、主導はGainsboroughの4×6の系列ぐるみで、トウルヌソルを強調した形態。メイヂヒカリのときにはクロスになれなかったPolymelusやSundridgeがクロスとなって、スピードを注入している。それに対し、Gainsboroughは多数派となれず、主導としては不完全さがある。またクロス馬の種類が多く、シンプルさを欠いており、ソーダストリーム内に存在しているMumtaz Mahal、The Tetrarch、Lady Josephineといったスピードの血を生かせなかったことも、能力の限界を招いたと考えられる。
また、このスピード要素は、後に要求される競馬のスピード化には欠かせない血統的要因でもあり、それに対応できないということは、メイジヒカリの種牡馬としての限界を示唆していたとみてもよいだろう。
同馬の8項目評価は以下の通り。
①=□、②=□、③=○、④=○、⑤=○、⑥=△、⑦=□、⑧=□
総合評価=3B級 距離適性=8~10F
最後に、同期のライバル馬たちにつても触れておこう。
■ケゴン(皐月賞)
父のプリメロ、母の父ダイオライト、母の母3代目のシアンモアまでは、メイヂヒカリの母シラハタ(ハクリョウの全姉)と同じ配置で、主導はDesmond。プリメロの生かしかたなどはほとんど同じで、少ないクロス馬で、結合もしっかりしている。
しかし、ハクリョウの結合は、第三ビューチフルドリーマー内St.Simon、Sterlingがちょうどよい位置で、スピード・スタミナを供給しているのに対し、ケゴンは、世代の後退によって少しバランスを崩している。
①=□、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=○、⑦=○、⑧=□
総合評価=3B級 距離適性=9~11F
■オートキツ(ダービー)
OrmeとCollarは、それぞれ父と母同士が全兄弟にあたり、同血の扱いにするため、Collar(=Orme)はクロスとして扱い、位置と系列ぐるみの関係からこの血の4×6のクロスが主導となる。Ormeは18戦14勝で、10FのチャンピオンSを制した名馬。その父Ormondeは英三冠馬、その仔Orbyは英・愛ダービー馬というように、スピード・スタミナ兼備の血である。同血のCollarの父はSt.Simon、母の父がBend Orで、Stockwellに通じるため、当時としては、血をまとめる上でたいへんつごうがいい。
オートキツの血統構成の見どころは、このOrme(=Collar)への血の集合、結合のよさにある。ただし、父内HastingとSir Martinの米系を完全に再現することができなかったことは、能力減要素となり、菊花賞におけるメイヂヒカリとの10馬身差の原因を血統に求めるとすれば、この部分と考えてよいだろう。
①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=□
総合評価=3B級 距離適性=9~12F
こうして、ケゴン、オートキツと、メイヂヒカリの血統構成を比較してみると、明らかにメイヂヒカリのほうが上である。もしも、メイヂヒカリが無事に春のクラシック戦に出走していたら、あるいは違った結果になったかもしれない。