リードホーユー
父:マラケート 母:トモノヒカル 母の父:ラークスパー
1980年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:有馬記念
《競走成績》
3~4歳時に8戦3勝。主な勝ち鞍は、有馬記念(芝2500m)。2着──京都新聞杯(芝2200m)、4着──菊花賞(芝3000m)。
《種牡馬成績》
これといった活躍馬はいない。
父マラケートは、1973年米国産で、1978年に輸入。競走成績は、フランス、アイルランド、イギリスで、3~5歳時に16戦8勝。フランスダービーでは3着に破れたものの、アイルランドダービーでは、エンペリー(英国ダービー馬)に2馬身1/2の差をつけて優勝している。秋には、アイルランドの最高レースであるジョー・マックグラス・メモリアルS(10F)を制し、一流馬の仲間入りを果たした。
種牡馬として、1年間アイルランドで供用された後、日本に輸入された。
血統構成は別掲の通り。
マラケートの父Lucky Debonairは、ケンタッキーダービー馬で、戦績は16戦9勝。1975年にヴェネズエラに輸出されているが、日本では、モガミの母系に入り、スピード・スタミナを伝える役割を果たしている。
その代表産駒であるマラケートは、Bull Dogの5×3を先導役に、Blandford-Swynfordでスタミナをアシストし、スピードはSun Briar-Sundridge、The Tetrarchによって補給している。また、特殊な欧米の血をBull Dogの傘下に収めることにも成功している。父が非常に珍しいSwynford系ということからくる一般的なイメージと同様、I理論から解釈できる血統内容も、個性的な形態の持ち主ということができる。
そして、もうひとつ注目に値することは、構成されている血に、Hyperion-Gainsborough、Nasrullah-Nearcoといった、現代の主流になっている系統が含まれていないことである。そうした特殊な系統ゆえに、種牡馬としては難しい部類に属し、ランダムな交配では、実績を残しにくいタイプであったことは、容易に想像がつく。
母トモノヒカルの母系アバロンコートは、東京の乗馬クラブの持込み馬で、その近親から活躍馬はほとんど出ていない。
BMSのラークスパーは、1959年アイルランド産で、1967年に輸入。戦績は10戦3勝だが、このなかには英国ダービー優勝が含まれている。ただし、このときのダービーは、本命のHethersettや、ロムルスなど7頭が落馬するという事故があった。ラークスパーが、その後のセントレジャーではHethersettの6着に破れていることからも、ダービーの勝利はそれほど高くは評価されなかった。
とはいうものの、血統的には、その母系は、Precipitation、Bois Roussel、Hyperion など、質の高いスタミナの血を主体に構成されている。ちなみに、これらの血が、イナリワンのBMSとなったとき、天皇賞、有馬記念制覇の原動力として働いたと考えられる。
こうした血統的背景を持って誕生したのがリードホーユーである。前述した通り、父マラケートは、Nasrullah、Hyperion系の血を含んでいないため、それらの系統の血は、母内でもクロスにはならない。その結果、Never Say Die内のSir Gallahadが効果を発揮し、父内Bull Dogと呼応して、この血はほぼ系列ぐるみで、主導を形成している。そのほかに父母の5代以内にはクロスがないため、主導は明確になっている。
Sir Gallahadは仏2000ギニー馬(1600m)ということで、またBull Dogも一般的な血統評ではスピード系と扱われている。しかし、リードホーユーの血統では、母内Bois Roussel(英国ダービー馬)の母Plucky Liege(その父Speamintも英国ダービー馬)もクロスとなって、スタミナを供給している。その結果、主導のBull Dogは、母のスタミナが強化されたことで、スピード系からスタミナ系への能力変換がなされていると判断できる。そのほかに、Blandfordを通して、プリメロのスタミナもアシストし、Sir Gallahadとともに、リードホーユーのスタミナの核を形成している。
スピードは、Mumtaz MahalとTetratemaが、The Tetrarchを通じて一体化し、決め手を兼ねたスピードを供給している。
血の結合は、Bull Dog内のSt.Simon-Galopin、Bay Ronald、Bend Orを通じて完了している。ただし、スピードのMumtaz Mahal-The Tetrarchと、主導のBull Dogの系統との結合が、9代まででは、Pharosを介した間接的な状態。そのために、両者のスタミナとスピードが一体化して、能力開花するまでには、やや時間を要したと思われる。
以上のことを、8項目評価に照らすと以下の通り。
①=○、②=○、③=□、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
以上のことから、総合評価は1A級、距離適性は9~12Fと判定することができる。
日本の歴代の名馬の血統構成を検証していくと、まずトウルヌソルの父Gainsboroughと、プリメロの父Blandfordを中心に発展してきたことがわかる。1970年頃から、タニノムーティエ、イシノヒカルなどに見られるPharosの呼び水形式が登場。つぎに、タケホープに代表されるNearco主導型、カツラノハイセイコのHyperion主導型が登場するというように、ヨーロッパの血を主体に推移してきた様子を確認できる。
そうした歴史のなかにあって、リードホーユーの勝った1983年の有馬記念の頃は、それまでのヨーロッパ主体の血統構成の流れから、アメリカのスピード系統が加わり進出してくる転換期となっていた。参考までに、その有馬記念に出走した主要メンバー(とその父)を紹介すると以下のようになる。
■第28回有馬記念
1.リードホーユー(マラケート)
2.テュデナムキング(テュデナム)
3.アンバーシャダイ(ノーザンテースト)
4.ダイナカール(ノーザンテースト)
5.ワカテンザン(マイスワロー)
6.メジロティターン(メジロアサマ)
7.モンテファスト(シーホーク)
10. エイティトウショウ(ダンディルート
11. ビクトリアクラウン(ファバージ)
15. ホクトフラッグ(シャトーゲイ)
16.ハギノカムイオー(テスコボーイ)
(数字は着順)
種牡馬もバラエティーに富んでおり、理論からみた配合内容も、優秀、かつ個性のある馬たちが多く出走していた。ちなみに、Northern Dancer系のノーザンテーストは、前年の1982年からリーディングサイアーランキングの1位となり、以後11年間、首位の座を占めることになる。
リードホーユーは、その競走成績からだけでは、「日本の百名馬」にふさわしい実績とはいえないだろう。しかし、I理論によって検証できる日本の血統史にあっては、重要な位置を占め、なおかつ、ここまでBull Dogの主導の明確性を備えた血統構成は珍しく、その意味で、配合を考える際の参考になる要素を持っている。それが、今回、この馬を百名馬の1頭として取り上げ、解説を加えた理由にほかならない。
話は前後するが、リードホーユーの父マラケートは、自身の競走実績からすれば、種牡馬としての成績は、決して満足できるものではなかった。その原因は、すでに述べた通り、血の内容、構造が特殊であったことと、決して無関係ではなかったはず。それでいえば、リードホーユーが誕生し、それが有馬記念を制したことだけでも、せめてもの救いだったというべきかもしれない。
ところで、I理論の創案者である故・五十嵐良治先生は、時代の趨勢に合い、誰もがランダムに配合しても、そこそこの血統構成の産駒ができ、実績も残せるというタイプの種牡馬──ネヴァービート、パーソロン、テスコボーイなどには、あまり興味を示さなかった。それよりも、キラリと光る血を備え、将来的にも残す価値があると判断した難しい種牡馬──当時でいえばロードリージ(=Sir Ivor)、ノノアルコ、ホープフリーオン(=Alydar)、ベイラーン(=Blushing Groom)といった、日本ではマイナー扱いを受けていた血に、とくに注目していた。
その根拠は、まさしくI理論そのものによって導き出されるわけだが、これらの種牡馬はその全兄弟馬が、いずれも現代の主流になり、種牡馬としてはいうまでもなく、あるいは繁殖の中にも、脈々と受け継がれる血となっていることから見ても、その先見性に、改めて感心させられる。
マラケートも、そうした可能性を持った1頭であった。同馬は、アイルランドでの1年だけの供用の後、日本に輸入されたため、血を還元する責任は日本にあったといえる。しかし、残念ながら、この血を伝えていくことはできそうもない。
マラケートの代表産駒としては、有馬記念を制したという実績から、リードホーユーを取り上げたが、配合レベルということだけであれば、別な馬の名をあげたい。それは、当時、五十嵐先生が絶賛していた配合馬コクサイロイヤル。別掲の分析表を見ていただきたい。
主導は、Bull Dogの系列ぐるみ。母方では、Rabelais、Blandford、Sir Gallahadを通じて、ヴィミーを全開させ、父マラケート内も、リードホーユーではクロスになれなかったPerth、Ksar-Bruleurといった特殊な血もきっちりと押さえ、きめ細かく、スタミナのアシストがなされている。
この内容を、8項目評価すれば、
①=○、②=○、③=○、④=◎、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=◎
となり、総合評価は2A級、距離適性は10~16Fと判定できる。
まさに、難しい種牡馬をみごとに生かしきった形態が確認され、血統構成上は、あきらかにリードホーユーよりすぐれた内容であることが読み取れる。コクサイロイヤルは、5勝してオープン入りは果たしたものの、上位ではスピード不足を露呈し、評価ほどの活躍はできなかった。しかし、マラケート、ヴィミーを全開させた配合馬の例として、その形態はしっかりと記憶しておきたい。