久米裕選定 日本の百名馬

キョウエイプロミス

父:ボールドリック 母:チヨダクイン 母の父:ネヴァービート
1977年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:天皇賞・秋

▸ 分析表

キョウエイプロミスと同じ世代には、皐月賞馬のハワイアンイメージや、ダービー馬のオペックホース、そして以前に紹介した菊花賞馬のノースガスト、さらに天皇賞馬のモンテプリンスなどがいる。
キョウエイプロミスの現役時代の話題といえば、種牡馬ノーザンテーストが1982年にトップの座に着いたこと(以来11年間それを守り続けた)。また、レースとしては、国際招待競走のジャパンカップが、1981年に創設されている。

キョウエイプロミスは、デビュー以来、つねに脚部不安をかかえ、4~5歳時は順調さを欠いたため、頭角を現してきたのは6歳時からである。その意味では、遅咲きで地味なタイプの馬であった。そして、7歳になって秋の天皇賞(東京・3,200m)を制している。

さらに、真の意味で脚光を浴びるようになったのは、創設後間もない第3回ジャパンカップで2着したことだろう(1着スタネーラ、首差)。JCは、1981年の第1回をメアジードーツ(米)、翌年の第2回をハーファイスト(米)と、外国勢が優勝し、上位も独占して、日本馬の付け入るすきもなかった。そこから、「百年かかっても外国馬には勝てない」といった悲観論も出てきたほどであった。

そうした実力差をいやというほど見せつけられた後での第3回JC。日本の期待馬といえば、ハギノカムイオー(宝塚記念)、メジロティターン(天皇賞)、アンバーシャダイ(天皇賞)といった顔ぶれ。

キョウエイプロミスは、出走馬16頭中10番人気という低い評価でしかなかった。ところが、終わってみれば、キョウエイプロミスは日本馬の中で最先着し、勝ったスタネーラにアタマ差まで迫る2着と大健闘。

ただし、レース中に右前繋靱帯不全断裂という大ケガをして、このレースを限りに引退することになった。そうした不利があっての激走だけに、あたらめてその強さが印象に残った。そして、もっとも重要なことは、これを機に、外国馬コンプレックスを一掃し、日本馬でも互角に戦えるといった気運が広まってきたことである。

《競走成績》
3~7歳時に29戦して7勝。主な勝ち鞍は、天皇賞・秋(芝2400m)、毎日王冠(芝2,000m)、ダイヤモンドS(芝3,200m)。2着──ジャパンカップ(芝2,400m)、3着──有馬記念(芝2,500m)

《種牡馬成績》
これといった活躍馬は出していない。

父ボールドリックは、1961年米国産で、競走は仏・英で12戦し4勝。英2000ギニー(8F)、チャンピオンS(10F)、エクリプスS(10F)2着(1着Ragusa)など、マイル~中距離のGⅠ戦で実績を残した。海外での代表産駒は、愛ダービー馬のアイリッシュボール(日本に輸入)、Fanoletta(愛2000ギニー)などのG1馬を出している。

日本では、1974年から供用。キョウエイプロミスのほか、ナカミサファイヤ(新潟記念、オークス=2着)、テイオージャ(ダービー=3着)などを出している。

ボールドリックの父Round Tableは、66戦43勝というタフさを誇った馬で、ハリウッドゴールドCを勝ち、当時の世界最高賞金獲得馬になった。BMSのJohnstownは、ケンタッキーダービー、ベルモントSの勝ち馬。

そんな血統背景をもつボールドリックだが、米国産といっても、Prince Palatineの系列ぐるみを主導に、Cicero、Ormeのスピード、Dark Ronald、Rock Sandのスタミナの得て、St.Simonを核とした強固な結合形態を保っているように、ヨーロッパのスピードとスタミナを再現したバランスのよい異系交配馬である。その意味でも、ヨーロッパのレースで実績を残したことは、十分に裏づけがとれる。

ボールドリックの血統評価は、
 ①=□、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=○
 となり、総合評価3B級、距離適性は8~10F。

▸ ボールドリック分析表

また、構成されている血で、覚えておきたい特徴は、現代の種牡馬たちのほとんどに含まれているHyperion-Gainsborough、Nearco-Pharos、Blandfordといった血を持っていないことである。そのために、配合においては、長短二つの傾向が出やすいという面を持っている。 

すなわち、短所としては、上述した血を主体にしてバランスよくまとまっている牝馬と配合すると、そのよさは半減し、おのずと能力形成にも支障をきたすことになりやすい。それに対し、長所としては、これらの血が牝馬の中で強度の近親の位置にあったり、配置が崩れているような場合には、それらがクロスにならず、崩れているバランスを補正するといった効能を発揮する。

さらに、現代の趨勢と合ったMenow、Sir Gallahad、Man o’ Warを含んでおり、その意味では貴重な血であることが、改めて理解できる。

母チヨダクインは、父がネヴァービート。Nearcoの4・4×2を主導に、次いでPharosもクロスとなり、バランスの悪い超近親交配馬で、自身の戦績が未勝利なことも、それを示している。ただし祖母ヴァーヴは、東京新聞杯、カブトヤマ記念などを制したトレンタムを出している。Nearcoの直仔であり、母系に英国ダービー馬のStraight Dealを含み、当時としては貴重な繁殖牝馬として期待された。

しかし、チヨダクインに関して、分析表上から推測できることは、4代目のNasrullahは別としても、3代目にNearcoが配されていることは問題。というのも、1980年代からNearcoが急激に種牡馬の中に浸透していく時代になると、ランダムな交配では、Nearcoの強度な近親形態に陥りやすいからである。その意味では、繁殖牝馬としては難しい部類に属し、活躍馬がこのキョウエイプロミス以外に出ていないこともうなずけるはず。

▸ チヨダクイン分析表

そうした父母の間に生まれたキョウエイプロミスだが、その血統を見ると、まず強い影響力を示しているのが、位置と系列ぐるみの関係からFriar Marcus。次いでPhalaris、Sir Gallahad。6代目には、Orby、White Eeagle、Man o’ War、Rabelais、Chaucer、Speamintなど。

Friar Marcusの系列ぐるみは、全体の中での多数派ではないので、必ずしも万全な形とはいえないが、全体をリードする役割を果たしている。ここでの注目点は、このFriar Marcusに内包されている血(=Cyllene-Bona Vista-Bend Or、Isonomy、Hampton、St.Simon-Galopin)が、前述した5~6代にあるクロス馬の各系統とすべて直結し、強固な連動態勢を整えていることである。

Phalaris    ── Cyllene、St.Simon
Sir Gallahad   ── Hampton、St.Simon
Orby       ── Angelica(=St.Simon)、Bend Or      
White Eeagle    ──  Isonomy、Galopin
Rabelais           ──  St.Simon
Chaucer           ──  St.Simon
Speamint         ──  (Sir Gallahadと直結)
Man o’ War       ──  Bend Or

以上の中で、スピード要素は、PhalarisとOrbyで、それ以外はスタミナ要素として、キョウエイプロミスの能力形成に参加している。したがって、スピード色の濃いFriar Marcusが、スタミナを兼ね備えた血に、能力変換がなされていることが読み取れる。こうした結合の強固さと、スピード・スタミナのバランスのよさが、キョウエイプロミスが、晩年になって活躍を示したことの血統的な裏づけになっているのである。

  以上を8項目評価に照らすと以下とおり。

  ①=□、②=□、③=◎、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
  総合評価は1A級、距離適性は9~12Fとなる。

バランスの悪い母チヨダクインの血の内容を、父ボールドリックがうまく補正したいえる。つまり、前述したボールドリックの血の特徴のうち、長所がうまく生かされた典型といえるだろう。

つぎに、ボールドリックの海外における代表産駒の1頭、アイリッシュボールの血統表も掲載しているので、キョウエイプロミスのそれと比較して見ていただきたい。

アイリッシュボールは、Dark Ronaldを主導に、BMSのSayajiraoを強調したタイプ。祖母内Niccolo Dell’Arcaからスタミナのアシストを受け、Bay Ronald-Hampton、St.Simon-Galopinによる結合のよさを示し、確かにスタミナというひとつの個性を備えている。それが、愛ダービーの制覇につながったものと推測できる。

しかし、スピードの再現や、全体のバランスといった点を考慮すると、決して一流の配合内容とはいえないことも確か。通算12戦3勝で、愛ダービー以外は、善戦すれども勝ちきれないといったレースを繰り返していたという。

これを8項目評価すると以下の通り。
 ①=□、②=□、③=◎、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価はキョウエイプロミスよりも劣り3B級で、距離適性は10~15F。

▸アイリッシュボール 分析表

ついでに、第3回JCでキョウエイプロミスを破ったスタネーラの血統にも触れておこう。同馬は1978年アイルランド産の牝馬。

父Guillaume Tellは、英・仏で走り4戦3勝。8Fと12Fで勝ち鞍をあげているが、GⅠ勝ちはない。 

母Lady Aureolaは、アイルランド産で、競走成績はフランスで2勝。父、母とも、産駒に目立った活躍馬はいない。
スタネーラ自身の戦績は23戦7勝。GⅠ勝ちはJCのみ。凱旋門賞は6着。

8項目評価すると、
 ①=□、②=□、③=○、④=△、⑤=□、⑥=○、
 ⑦=□、⑧=□、
 総合評価は2B級、距離適性は9~12Fとなる。

長所としては、強調されたBMSのAureoleのスタミナが生き、少ないクロス馬による結合のよさがあげられる。しかし父内Nasrullahのスピード、Princequilloのスタミナは半減し、さらにアメリカ系の血に弱点が発生するなど、決して優秀な配合内容とはいえない。

JCの優勝は、血統面よりも、海外での育成・練成の成果、そして来日後も、酸性化した筋肉をほぐすために、昼夜を問わず入念に行ったという曳き運動のように、スタッフの努力の成果と見るべきだろう。

▸ スタネーラ分析表

 

久米裕選定 日本の百名馬一覧へ

ページトップ