久米裕選定 日本の百名馬

カブラヤオー

父:ファラモンド 母:カブラヤ 母の父:ダラノーア
1972年生/牡/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:ダービー、皐月賞

▸ 分析表

ダービーでの逃げ馬の勝利といえば、古くはメイズイ、近年ではアイネスフウジン、ミホノブルボン、そして一昨年のサニーブライアンといったところが印象深い。これらの馬たちの脚質に共通するのは「華麗なる逃げ」という形容であった。

そして、今回の主役カブラヤオーも、脚質はただひたすらの逃げ。しかし、その逃げっぷりには、「華麗なる逃げ」の言葉は似合わなかった。終始「いつつかまるか」という不安がつきまといながら、終わってみたら逃げきっていたというレース振り。

この時代にはハイセイコー、キタノカチドキなど、華やかな人気馬が次々と出現してきたが、それに続いて出てきたカブラヤオーは、6月誕生という馬の社会での遅生まれで、300万円という価格でも買い手がつかなかったという見栄えのしない馬体……輝かしい戦績とは裏腹に、血統的なイメージも非常に地味な馬であった。

《競走成績》
3歳時に3戦2勝、4~5歳時には10戦して9勝。主な勝ち鞍はダービー(芝2400m)、皐月賞(芝2000m)、弥生賞(芝2000m)、NHK杯(芝2000m)、共同通信杯4歳S(芝1800m)。

《種牡馬成績》
代表産駒に、グランパズドリーム(ダイナガリバーが勝った時のダービー2着)、公営のニシキボーイ(東京帝王賞)。

父ファラモンドは、1957年フランス産で、1964年に輸入。競走成績は11戦2勝だが、その2勝は、1200mのモルニー賞(ドーヴィル)と、2100mのダリュー賞(ロンシャン)で、距離的融通性を備えていた。

種牡馬として、ニュージーランドで6年間供用の後、日本に輸入されたが、当初の期待度はかなり低かった。日本での代表産駒としては、中央でユーモンド(毎日杯、金杯・西、日経新春杯)、カブラヤオーの全妹ミスカブラヤ(エリザベス女王杯)などを出してはいるが、貢献度でいえば、むしろ公営での実績に見るべきものが多かった。トキワタイヨウ(羽田杯、東京ダービー)、ダイエイモンド(東京ダービー)、ゴールデンリボー(羽田杯、東京ダービー、東京王冠賞)、サンコーモンド(東京ダービー、青雲賞)、チュウオキャプテン(大井記念、金杯)、ゴールドスペンサー(川崎記念、浦和記念、中央の天皇賞3着)などを輩出している。

母カブラヤは1965年生、4~5歳時に32戦5勝。江差特別を2回制している。同世代には、タケシバオー、アサカオー、マーチスなどの強豪がいた。

曾祖母スタイルパッチはアメリカ産で、1952年に輸入。その父Dogpatchは、Bull Leaの全弟にあたる。またカブラヤの父ダラノーアは、当時Teddy系の血を引く種牡馬として注目された。代表産駒には、ニットウチドリ(桜花賞)、ヒダプレジデント(中山記念)などがいる。

この血のポイントは、確かにTeddy系も重要だが、母系にMumtaz Mahal、The Tetrarch、Lady Josephineといった近代のスピードの祖ともいえる血を持っていたことが、当時としては珍しい内容で、血統を考察する上では、むしろこの点のほうがより重要な要素である。

カブラヤオーの血統では、5代以内のクロスは、Fairwayの4×4があるが、Phalaris、Polymelusがクロスしなかったために単一クロスとなり、影響力は弱い。位置、配置、および系列ぐるみのクロスであることを考慮すると、Solario-Gainsborough、Blandfordの影響が強く、次いでDark Ronaldも6×6でクロスしている。主導はSolarioと判断できる。
上記の血は、Sunny Boy、Umidwar、Son-in-Law内のもので、いずれもスタミナ源として、カブラヤオーの能力形成に参加している。

さらに注目すべき点は、これらの血が、Bay Ronald、St.Simon、Canterbury Pilgrimなどによって、きっちりと結合していること。とくにBay Ronald、Hamptonの血によって、全体に強固な連動態勢を整えていることは、カブラヤオーのスタミナの核として、しっかり根を下ろしている。このスタミナが開花したことが、つかまりそうでつかまらない、あのカブラヤオーの粘りを生んだ血統的要因と考えて、まず間違いはない。

つぎにスピードだが、これは、父方Fair Trial内Fairwayの4×4を呼び水に、Lady Josephine-Sundridgeの系列が、まず大きな影響を及ぼしている。そしてそれに続くのが、The Tetrarchの7×7。両者とも、現代でいえばごく当たり前のスピードの血だが、当時としては珍しく、まだあまり広くは浸透してはいなかった。そうした時代に、この両者の血を備えたこと、しかもLady Josephineが影響の強い5代目からクロスしたことは、カブラヤオーの血統を考察する上で、見逃すことができないポイントである。

カブラヤオーの同世代では、日本では他に先駆けて、牝馬のテスコガビーが、Nasrullahの系列ぐるみを主導として登場し、そのスピードは他馬を圧倒していた。そのスピードを裏づけていた血も、やはりMumtaz Mahal、The Tetrarch、Lady Josephine、Sundridgeなどである。これらの血は、Nasrullahの中に含まれており、日本ではPrincely Gift系として浸透していき、現代ではごく当たり前の血としてとらえられている。

しかし、1975年頃は、まだそれほど広がりを見せていたわけではなく、たとえ血は導入されていても、それらがクロスとなって競走馬の能力形成に影響し、スピード勢力として役立っているというケースは少なかった。そのなかで、カブラヤオーはLady Josephine、The Tetrarchを生かし、またテスコガビーはNasrullahを主導として、両馬ともに圧倒的なスピードで快進撃を続けたのである。

その意味でも、この2頭の血統構成は、日本競馬がスピード化する先駆けとなる内容を示していた。 カブラヤオーは、ダービーで、スタートから先頭に立ち、1000mの通過が58.6秒、1200mも1分11秒8と、当時の馬場では異常ともいえるラップを踏んだ。それまでの常識からいえば、まずつぶれるのが当たり前のペース。ところが、カブラヤオーは、その後、13秒台におとして息を入れると、最後は12秒台にラップを上げて逃げきってしまった。

このスピードこそ、まさしくLady JosephineとThe Tetrarchの血の効力なのである。そして、これらの血は、Sundridgeを通じてまずSolarioと結合、さらにHermit、Isonomyを通じてBlandfordとも結合し、その連合勢力で「スタミナの裏づけを持つスピード」を獲得している。すなわち、スピード・スタミナ兼備の馬に変身したことが、カブラヤオーの強さの秘密だったのである。

この血統構成を8項目でチェックすると、
  ①=○、②=□、③=◎、④=△、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 となり、評価は3B級、距離適性は8~11F。

ダービーは勝ったが、本質は中距離向きの馬である。その理由は、単一クロスで影響力は弱まったものの、Fairwayの4×4ができて、これらがFair Trial、ハロウェー内の血であるので、他のスピード・スタミナの比率を考えると、本質は中距離タイプの血統構成と見るのが妥当である。

カブラヤオーは、春の二冠を制した後故障し、残念ながら秋の菊花賞に駒を進めることはできなかった。ただし、かりに菊花賞に参戦したとしても、血統構成から見ればいわゆるステイヤーではないので、勝負は相手関係次第だったといえるだろう。

ちなみに、この年の菊花賞を制したのはコクサイプリンスで、同馬はフィダルゴ産駒、Nearcoの3×3を主導にしていた。そして2着馬はロングファスト。この両馬の血統構成は決して一流のそれではなく、カブラヤオーがもし無事であれば、菊花賞でも上位争いは可能だったという推測も成り立つ。

カブラヤオーの評価は3B級とはいっても、前述したスピードの血の生かしかたは、新しい時代を先取りしたものであり、全体の内容は見どころのある個性的なものである。また、全妹のミスカブラヤがエリザベス女王杯を制したことでも、配合の方向性が合っていることは証明された。

しかし、ならば、それほど実績を残した馬が、なぜAランクの評価にならないのかという疑問もわいてくるだろう。カブラヤオーの血統の問題点はどこにあったのか…。

その要因は、母の母方3代のスタイルパッチの血の傾向、およびクロスの状態にある。スタイルパッチの父Dogpatchは、Bull Leaの全弟だが、母のStyle Leaderはアメリカ特有の特殊な血で構成されている。そのために、分析表でも明らかなように、スタイルパッチの母系は全体の傾向と離反し、十分な数のクロスができず、能力形成に参加する度合いを弱めている。8項目評価で、④=弱点・欠陥の項目の判定が△になったのはそのため。そして、この点こそが、総合評価が3B級となった大きな要因なのである。

とはいえ、カブラヤオーは13戦11勝の輝かしい戦績を残し、年度代表馬に選ばれたことも、まぎれもない事実である。また、カブラヤオーの他にも、このスタイルパッチ内に不備をかかえながら、実績を残す馬がときどき登場している。古くはサルノキング(父テュデナムキング)、近年ではマイルチャンピオンシップを2回制したダイタクヘリオス(父ビゼンニシキ)や、95年の皐月賞で人気になったダイタクテイオー(父ニッポーテイオー)などがいる。これらの馬は、スタイルパッチ内のクロス馬の状態は決して好ましくなく、それ故にIK理論ではいずれも2B級以下と評価した馬たちである。

そこで、こうした馬たちの出現を可能にした理由を、カブラヤオー内スタイルパッチの血で検証してみよう。

スタイルパッチ内の5代目(カブラヤオーの血統内での位置)に並ぶ血の6~9代の主なクロス馬を見ていくと、まずBull Dog内にはBay Ronald、St.Simon-Galopin、そしてBend Or。つぎにRose Leaves内ではHermit、Steringなど。CyclopsはGlenelgのみ。MinuetがBend OrとGalopin。これだけでは決して万全ではないが、これらの血はGlenelg以外は、最低限、主導内の血と結合している。つまり、傾向は異なるが、全体の中で多数派を形成するSt.Simon、Galopin、Bay Ronald、Hampton、Bend Or、Hermitが、8~9代にあるので、必要にして最少限度のクロスは確保でき、大きな欠陥が生じないような配置になったのである。

そして、カブラヤオーの場合は、Glenelgの血も、父内Lady Josephineの9代目と呼応してクロスしたために、まさに紙一重で欠陥をつくらずにすんだのだろう。スタイルパッチには、少なからずこうした効能が働き、それがときとして弱点とならず、うまく作用したときに、前述したような馬たちの出現につながったと考えられる。とはいえ、それらの馬たちも、4歳前半までは活躍しても、その後の成長力には欠け、伸び悩む傾向があることも否めない。

一般の血統評価で、ときどき「異系血脈の導入=血の活性化」という表現が見られるが、その場合の異系血脈とは、多かれ少なかれ、このスタイルパッチのような血の配置・構造が見られるはずである。現代でいえば、まさにサンデーサイレンス内のアルゼンチンの血が(スタイルパッチより質は数段上だが)、それに当てはまるだろう。

こうした形態を持つ異系の血は、確かに、異系血脈内8~9代に多数派が現れている場合はよいが、世代が進んで、その血が10代以降に消えてしまった後は、弱点・欠陥を派生させ、大きな能力低下を招くことは間違いない。カブラヤオーの場合でも、自身が種牡馬となったときには、そうした危険性が高くなるわけで、実際に種牡馬として大きな実績を残せなかった要因も、このスタイルパッチの血にあったといっても過言ではない。

 

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