ホウヨウボーイ
父:ファーストファミリー 母:ホウヨウクイン 母の父:レアリーリーガル
1975年生/牡/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:有馬記念、天皇賞・秋
《競走成績》
旧年齢表記3歳から6歳まで走り、19戦11勝。主な勝ち鞍は、有馬記念(中山2500m)、天皇賞・秋(東京3200m)、日経賞(中山2500m)、アメリカジョッキークラブC(中山2500m)
5歳および6歳=年度代表馬、最優秀古馬主な勝ち鞍は、ダービー(芝2400m)、皐月賞(芝2000m)
《種牡馬成績》
1982年から供用されたものの、翌83年に死亡。主な産駒は、ヘイアンユウボーイ(JRA3勝)、ムスカリ(JRA3勝)。
父ファーストファミリーは、米国産で、ガルフストリームパークHなど、44戦7勝。ベルモントSはHail to Allの3着。他の同期としては、Lucky Debonair(ケンタッキー・ダービー、種牡馬モガミのBMS)、Tom Rolfe(プリークネスS)などがいた。
日本では、1974年から種牡馬として供用され、79年に死亡している。ホウヨウボーイ以外の産駒としては、中央・地方で走ったローラーキング(マイラーズC3着、函館記念3着、札幌記念3着)、道営で活躍したコトノアサブキ(道営記念、種牡馬)などがいる。
ファーストファミリー自身の戦績はさほどのものではないが、この馬の名を高めたのは、半兄弟にSir GaylordやSecretariat(米三冠馬)がいたこと。また父の父First Landingからは、Secretariatの1歳上で二冠馬のRiva Ridgeが出たこと。そしてSir Gaylordと同じTurn-to系であることなども加わって、ファーストファミリーは良血種牡馬としての期待を持たれた。しかし、アメリカ本国、および輸入後の日本においても、その血統背景から期待されるほどの種牡馬実績を残すことはできなかった。その要因を探るために、Sir Gaylordとの比較をしてみよう。
ファーストファミリーとSir Gaylordの関係は、母が同じSomethingroyalで、前者の父はFirst Landing、後者の父はFirst Landingの父であるTurn-to。つまり、Sir Gaylordの成功によって、同じ母と、Turn-toの直仔であるFirst Landingとの交配が試みられたのだろう。
両馬の分析表を比較すると、確かにPolymelusを主導に、SundridgeとIsinglassのスピード・スタミナをアシストしている点、さらに強調されたCarusoの生かし方にも共通点があり、一般レベルでいえば、悪い配合ではない。しかし、Turn-toとの間に、父First Landing の母Hildeneが入ったことで、Turn-toの世代が1代後退し、Turn-toの影響度が「0」となり、バランスが崩れてしまった。また、Hildene内の米系の血Sweep、およびUltimus内のDominoと、主導の結合がぎごちなくなるなど、Sir Gaylordとの比較では、数段内容が劣ることが読み取れる。
こうして、Turn-toの世代が後退して、米系のSweep、Ultimusが加わり、それでいながらMan o’War、Fair Playの血を一滴も含めなかったことが、種牡馬としての汎用性をせばめる結果となった。アメリカおよび日本での不振の要因も、ここにあると考えられる。
母ホウヨウクインは、2勝馬だが、Pharos(=Fairway)の4・4×4の中間断絶クロスを呼び水に、Blandfordをスタミナの核とし、さらにSundridge、Roi Herodoのスピードも加えた、バランスのよい血統構成の持ち主である。そして、その内容だけでいえば、当時の牝馬同士なら、オープンクラスでも通用したのではないかと思われるほど、しっかりした形態を保っている。
その父レアリーリーガルは、アメリカ産で、競走馬としては不出走。Royal Chargerの直仔であることや、母系がブッフラーやファラモンドの近親ということが買われて、1968年に輸入された。しかし、種牡馬成績は伸び悩み、代表産駒としては、グアム(日本短波賞3着、セントライト記念3着)や、レアリータイム(福島民友C)がいる程度。
そうした父母の間に生まれたのがホウヨウボーイ。5代以内のクロスは、Royal Chargerの4×3のクロスがある。Royal Chargerは、英国産で、21戦6勝。上級レースでの勝ち鞍はなく、2,000ギニー3着というのが唯一目立つ程度の戦績で、競走馬としての評価はいま一つであった。しかし、I理論(現IK理論)から見た血統評価は、Sainfoin、St.Simonの系列ぐるみを主導に、Pharosを強調した形態。それこそクラシック・ディスタンスでも通用するスタミナの持ち主といえる。二流のマイラーで終わったのは、何か能力発揮をはばむ外的要因があったのかもしれない。
したがって、Royal Chargerをクロスさせるということは、それが決して質の低い血ではないことからも、主導あるいは呼び水としての役割は、十分に果たすことはできると判断できる。Royal Chargerのクロスは、途中Nearcoが断絶し、Pharosが6・6×5・5・5のクロスを形成しているが、これもPhalarisが断絶しているので、父系はやや影響力が弱められている。
それに変わって、Solarioが6×5・8の位置で系列ぐるみのクロスとなって、強い影響を示し、全体をリードしている。Solarioは、セントレジャー(14F)や、アスコット金杯(20F)を勝っているように、スタミナのすぐれた馬。その他にも、アスフォード(=プリメロ)の父Blandfordや、当時の日本としては珍しいAsterusのTeddyがクロスとなって加わり、スタミナ優位の形態になっている。
スピードは、これも当時としては珍しく、Lady JosephineとSunstarが、ともにSundridgeを共有し、そのSundridgeを通じて、Solarioと直結している。スピードのかくし味としては、Roi Herode、Ormeもアシストしており、Royal Chargerの3×4のクロスは、呼び水として有効に作用したものと推測できる。
ここでの妙味は、途中NearcoやPhalarisが断絶したことで影響力が弱まった結果、Royal Chargerの近親度も弱められたこと。それによって、全体のバランスも保たれた。もしも、NearcoやPhalarisまでもクロスになっていると、Royal Chargerの近親度が強くなりすぎて、他系統のスピードやスタミナを半減させる結果になる。そのために、開花は早くなったとしても、古馬での成長力は望めず、天皇賞や有馬記念の制覇もあり得なかったと断言することができる。
ホウヨウボーイの血統構成を、8項目で評価すると以下のようになる。
①=○、②=□、③=◎、④=△、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=3B級 距離適性=9~12F
Royal Chargerを呼び水に、血の集合や結合がよく、スピード・スタミナのバランスのとれた血統構成馬であったことが読み取れる。
残念なことは、④の弱点・欠陥が△となっているように、父内Beeming BeautyとUltimate Fancy内の米系の血がクロスできず、弱点を生じたことである。このことは、ホウヨウボーイの能力を形成する上で、決してプラスとはいえず、使いかたを一つ誤れば、オープンクラスへの出世も危ういような状況を招いていたかもしれない。まして、主導となる血が、晩成傾向を示すSolarioであることも考え合わせると、現代では、古馬になってから2度も年度代表馬に輝くことなど、予測することはできない血統構成といえる。
ホウヨウボーイは、2歳新馬勝ちの後、3歳時には、脚部不安のために、レースには出走していない。しかし、4歳で復帰すると、徐々に頭角を現し始める。といっても、むやみにレースを使うことなく、適性距離のレースに目標を定めて、脚元を気遣いながら、ゆったりとしたローテーションが組まれた。ホウヨウボーイは、そうした関係者の期待に応え、徐々に成長を遂げ、5歳になってから本格開花するという、現代では見られないような遅咲きの名馬となったのである。
したがって、同期の皐月賞馬ファンタスト(父イエローゴッド)、ダービー馬サクラショウリ(父パーソロン)、菊花賞馬インターグシケン(父テスコボーイ)といった馬たちが、クラシック戦線を賑わわせていた時期には、休養中で対戦はない。ライバルとしては、1歳下のダービー馬カツラノハイセイコが、ホウヨウボーイの5歳時の有馬記念で2着。2歳下のモンテプリンス、アンバーシャダイは、天皇賞や有馬記念で、覇権を争う相手となった。
ホウヨウボーイは、Royal Charger系の伝え手としての期待を担って、種牡馬になり、ヘイアンユウボーイやムスカリといった産駒は出したものの、種付け1年を終えた後に死亡してしまった。したがって、産駒は1世代のみ。Royal Charger-Turn-to系といえば、現代の日本の生産界をリードしているサンデーサイレンスやブライアンズタイムと、同系になるサイアーラインである。配合の方法次第では、面白い産駒を出す可能性も残していただけに、早過ぎる死が惜しまれる。
Royal Charger-Turn-to系は、いまや日本の主流にはなっているものの、Nasrullah系に比べると、この系統の日本への導入率は、意外に低い。その要因としては、Royal Chargerが早期にイギリスからアメリカに輸入されたために、欧州系主体に導入をしていた日本には、種牡馬として輸入される頭数が限られていたことも影響している。そういう意味でも、ホウヨウボーイは貴重な存在であった。
そこで、ホウヨウボーイの代わりに、ファーストファミリーの血を受け継ぐ馬として、道営のコトノアサブキについて、最後に少し触れておきたい。コトノアサブキの血統は、主導がRoyal Chargerの4×4・4。ホウヨウボーイとは異なり、近親度が強く、バランスは悪い。しかし、主導への血の集合は明確で、Gay CrusaderやTraceryによって、Princequilloのスタミナを押さえたところに見どころがある。
8項目評価は以下の通り。
①=○、②=△、③=○、④=△、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
総合評価=2B級 距離適性=芝8~10F
決して上級の内容とはいえないが、Royal Chargerに加え、PrincequilloやHugh Lupusといった、欧州の上質なスタミナを備えたことは、種牡馬として評価できる部分である。それを受けて、コトノアサブキの産駒としては、中央のソーエームテキ(京都3歳S)、道営のクラカゲオー(北海道優駿2着)などが出ており、そのクラカゲオーは、一応種牡馬にもなっている。