久米裕選定 日本の百名馬

ハクタイセイ

父:ハイセイコー 母:ダンサーライト 母の父:ダンサーズイメージ
1987年生/牡/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:G1皐月賞

▸ 分析表

ハクタイセイのデビューは、1989年(平成元年)7月の小倉競馬。血統的にそれほど期待されていたわけではないが、ハギノハイタッチの2着と善戦した。その後は、人気になるものの勝ちきれないレースが続き(4、6、2着)、デビュー以来4連敗を記録する。初勝利をあげたのは、10月末、5戦目の京都ダート1,400m。続いて2勝目もダートであげ、父とBMSのイメージから、ダート馬と思われていたが、シクラメンSで芝2,000mを克服すると、若駒S、きさらぎ賞を制し、5連勝をあげる快進撃。

皐月賞では、ハイセイコー産駒の芦毛馬として、3番人気に支持された。1番人気は、関東の3歳チャンピオンで、年が明けて共同通信杯も制して好調を維持するアイネスフウジン。2番人気は、弥生賞で鋭い差し脚を見せたメジロライアン。同馬は、ノーザンテーストの後継種牡馬として期待されていたアンバーシャダイの産駒。

この皐月賞には、他にも、シービークロス産駒のホワイトストーン、カネミノブ産駒のキーミノブ、グリーングラス産駒のツルマルミマタオー、ドロッポロード産駒のバンダイロード、ニチドウタロー産駒のニチドウサンダー、ヤマニンスキー産駒のプリミエールなど、出走馬18頭中8頭が内国産種牡馬の産駒が占め、血統的にもバラエティーに富んだメンバーが揃った。

レースは、フタバアサカゼとアイネスフウジンの先導で進み、ハクタイセイは6番手をキープし、メジロライアンは後方待機。平均ペースの中からアイネスフウジンが4コーナーで早めに先頭に立つと、これをハクタイセイが外から猛追し、首差、差しきった。これによって、ハクタイセイは、みごと皐月賞の親子制覇を果たす。芦毛の皐月賞馬というのも史上初で、菊花賞のプレストウコウ、ダービーのウィナーズサークルと並んで、かつての「芦毛馬はクラシックを勝てない」という日本競馬のジンクスを、完全に打ち破る立役者となった。

ハイセイコーの芦毛馬として人気を確立したハクタイセイは、本番のダービーでは、皐月賞で乗った南井騎手がロングアーチに騎乗するため、当時売り出し中の武豊騎手に変更となり、2番人気に支持される。1番人気は、距離が延びて差し脚への期待が高まったメジロライアン。アイネスフウジンは、2,400mの距離での先行・逃げは不利と見られて3番人気に下げた。

レースは、アイネスフウジンがスタートから積極的にハナを奪い、マイペースの逃げをうつ。ハクタイセイは、好位の3~4番手につけ、メジロライアンは例によって後方と、それぞれがこれまでのレース振りと同様の位置どりでレースが進む。アイネスフウジンは、皐月賞のときよりも軽快な脚どりで、直線の坂を上がっても、セフティーリードを保ち、粘り込みをはかる。逆にハクタイセイは、馬群に沈み、代わってメジロライアンが外から差し脚を伸ばす。しかし、最後はアイネスフウジンがライアンの追い込みを抑えて優勝。ハクタイセイは、5着に敗れた。

レース後、ハクタイセイは脚部不安を発症させ、長い休養に入った。約1年後に、安田記念を目標に再起を期待されたが、右前繋靱帯炎で出走取消となり、そのまま引退を余儀なくされた。

《競走成績》
2~3歳時に11戦6勝。主な勝ち鞍は、皐月賞(G1・芝2000m)、きさらぎ賞(G3・芝2000m)など。

《種牡馬成績》
日本軽種馬協会九州種馬場で供用されたが、これといった産駒は出していない。

父ハイセイコーは、1970年(昭和45年)、北海道新冠の武田牧場の生産。南関東公営からデビューし、青雲賞など6戦6勝。中央に転じて16戦7勝。主な勝ち鞍は、皐月賞、宝塚記念、弥生賞、スプリングS、髙松宮杯、中山記念など。主に中距離で実績を残す。

ハイセイコー自身の血統は、Son-in-Lawの4×5の系列ぐるみを主導に、Rustom Pashaを強調し、Spearmintも加わって、スタミナによさを持った血統構成の持ち主だった。それが公営時代のダートにおける強さや、中央での重馬場レースにおける圧勝劇など、いかなるレースでもつねに上位争いを演じる、タフな走り振りの血統的裏づけといえる。

種牡馬としてのハイセイコーは、ハクタイセイ以外にも、ダービー馬カツラノハイセイコ、エリザベス女王杯を勝ったサンドピアリスのクラシック・ウィナーや、ライフタテヤマ(シンザン記念、札幌記念、ウィンターS)、公営でも東京ダービーを制したキングハイセイコー、アウトランセイコーなどの活躍馬を輩出している。

▸ ハイセイコー分析表

母ダンサーライトは不出走。この馬の血統は、Nasrullahの4×4の中間断絶クロスを呼び水としたスピードタイプの配合馬で、血統構成としては決して悪い内容ではない。もしも無事に仕上げられていたら、牝馬同士の中堅クラスで通用しても不思議のないレベルは保っていた。

▸ ダンサーライト分析表

母の母ネバアーライトからは、ブルーダーバン(5勝、京成杯)4代母スターライトからは東海公営で10勝をあげ、中央でも神戸新聞杯や阪神大賞典など9勝と大活躍したダイイチオーが出ている。
母の父ダンサーズイメージは、カナダの2歳チャンピオンで、米国でもウッドメモリアルSなど12勝をあげている。

そうした父と母を持つハクタイセイの血統は、まず前面のクロスとして、Nearcoの4×6・6・6の中間断絶が呼び水となり、ついでGainsboroughが5×6・9が系列ぐるみを形成し、両者はほぼ同等の影響力を示している。そして、St.Simon、Galopin、Hamptonによって両者は結合を果たし、主導勢力を形成し、スピード・スタミナを供給している。その他の6代以内のクロスは、Mumtaz Begum(=MirzaⅡ)の5×6・6が中間断絶で、The TetrarchとBlandford系をまとめ、Canterbury Pilgrim、Bona Vistaで主導勢力と結合して、スピードを供給。また、隠し味として、Ciceroの6・8×9がBona VistaとHampton、Orbyの7×9がSt.Simonで主導と結合を果たし、スピードを供給している。

スタミナは、意外にも、米系主体のダンサーズイメージ内にあって虎の子的存在のDark Legend が、ハイセイコー内と呼応して、6×7の系列ぐるみを形成し、Bay Ronald、Hamptonによって主導と結合することで、能力形成に参加している。こうして、ハイセイコーの持つスピード・スタミナのキーホースが押さえらていることが確認できる。

それに対し、母ダンサーライトのNative DancerとNever Say Dieに存在するFair Playの欠落に見られるように、ともすると米系の欠陥とも思えるような箇所をどのように判断するか。ここがハクタイセイの血統構成を診断する上でのポイントになる。結論から先にいえば、弱点・欠陥の影響は軽微、というのが理論上の見方になる。

その主な理由は、①能力形成において影響力が強くなっているのが、母でなく父ハイセイコーであること。②Native Dancer自身がSt.Simonを主体とした配合であること。③Native Dancerの8代目にFairy Gold、Roi Herodoが派生し、前者はその父Bend Orがクロスとなって、Gainsboroughの9代目のBend Orと結合を果たしている。後者は、The Tetrarchの父Roi Herodeで結合を果たし、MirzaⅡと連動していること。④全体が異系交配でまとめられていること、などがあげられる。まさに紙一重の差で、欠陥の派生を防いでいたのである。もしもこれらのクロスが、ひとつでも途切れていたら、ハクタイセイの皐月賞制覇はもとより、勝ち上がりさえも難しかったかもしれない。

この見解は、以前、Sea Birdの血統構成でも説明を加えたことがあるが、何か大仕事をするような馬の血統内には、こうした紙一重の部分を持つ例がときどき見受けられる。ちなみに、ライバルのアイネスフウジンの母系5代目にはスターライトがいて、ハクタイセイの母系4代目と同じ血が配されている。これも何かの縁というべきか……。まさに血統の不思議さである。

ハクタイセイの血統構成を8項目で評価すると、以下のようになる。
 ①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=8~11F

ダービー5着は、スタミナ面の不足という血統的な限界を露呈した結果と見るべきだろう。

血統構成上、紙一重の部分を持つ馬は、種牡馬としては、世代が後退するために、成功の確率が低いという理論上の見解がある。そして、ハクタイセイは、残念ながらまさにそのタイプに該当する。とくに、米系と欧州系を連動させることが難しい。繋養された九州は、当時、欧州系主体の牝馬がほとんどであり、相手にめぐまれなかったというのも、当然の結果といえるだろう。

ハクタイセイの配合には紙一重の部分があったが、じつは皐月賞出走のメンバーには、他にも一見して欠陥馬と思えるような馬と、あるいは現在のオープン馬に通じる資質を持つ馬などが混在していた。最後に、それらの数頭について、簡単に解説を加えておきたい。

■プリミエール
 ①=□、②=△、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=8~10F

▸ プリミエール分析表

一見すると欠陥馬と思えるような内容だが、一つひとつ確認していくと、Man o’Warの6×5が呼び水のもと、Bend Or、Sainfoin、St.Simonで結合を果たす、不思議な血統構成の持ち主であることがわかる。クロス馬の種類が27というのも、現代では見られない少なさだが、それでもSt.Simonが6~9代の要所要所に配されていれば、オープンに近い能力が宿ることが証明されたわけである。将来的に、St.Simonに代わってNearcoやPharos、HyperionやGainsboroughなどによる、こういう形態の配合馬が現れる可能性もあるはずで、配合の手法として、ぜひ頭の片隅にとどめておきたい血統構成である。

■コガネタイフウ
 ①=□、②=□、③=□、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

▸ コガネタイフウ分析表

NasrullahとCrepelloがほぼ同等の影響力を示し、血の集合がわかりにくくなったことはマイナスだが、前回の会報のディープインパクトの配合のときに解説したBustedのスタミナを生かした配合である。この馬ならば、欧州の芝10Fは十分に克服が可能。アカ抜けはしないが、底力はかなりのものと推測できる血統構成であり、全兄弟馬コガネパワーのしぶとい活躍もそれを証明している。

■ツルマルミマタオー
 ①=□、②=△、③=○、④=○、⑤=□、⑥=△、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=9~11F

▸ ツルマルミタマオー分析表

クロス馬の種類が65と多く、シンプルさに欠けることから、仕上げの難しいタイプだが、父母の持つスピード・スタミナのキーホースを、すべて押さえている。スタミナのCoronach、スピードのセフトらが、系列ぐるみを形成していることも、たいへん珍しい。今後はみることのできない血の構成だけに、内国産の一形態として、記憶にとどめておきたい1頭である。

■アズマイースト
 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=9~12F

▸ アズマイースト分析表

ここ数年間、欧州のリーディングサイアーは、Sadler’s Wellsが独走し、2位以下にはデインヒルなどが続いている。これらを父とする産駒は、牝馬側にRibot、Princequilloを含むケースが多いことが特徴。両者に含まれるGay Crusader、Papyrusがスタミナの補給に重要な役割を果たしており、それが、現在の世界のトップクラスの馬たちのトレンドになっている。
アズマイーストの血統構成は、それをいち早く日本で実現し、そのために理論上で高い評価をくだしていたのである。同馬は皐月賞では11着に敗れ、評価に見合う結果は残すことができなかった。しかし、その配合内容の持つ可能性は、その後の競走馬の実績で、十分に証明された。
もしもアズマイーストが、当時の戸山厩舎あたりに所属して、能力を全開させていたら、どのようなレースを演出してくれただろうか。思わずそんな想像をしてみたくなる血統構成である。

 

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