グリーングラス
父:インターメゾ 母:ダーリングヒメ 母の父:ニンバス
1973年生/牡/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:菊花賞、天皇賞・春、有馬記念
競馬の大衆化を一気に推し進めたのをハイセイコー(1973年=4歳)とすれば、その上昇した競馬人気を定着させるのに貢献したのが、当時、「最強世代の3強」といわれたトウショウボーイ(父テスコボーイ)、テンポイント(父コントライト)、そして今回紹介するグリーングラスのトリオといえる。
この3強の中では、グリーングラスは人気面で前2頭にはやや劣るものの、実績は3強の一角を担うにふさわしいもので、7歳まで走り続けた。7歳最後のレース、有馬記念では、前年のグランプリホースであるカネミノブ(父バーバー)、天皇賞馬ホクトボーイ(父テスコボーイ)、カシュウチカラ(父カバーラップ2世)、ファン投票1位のダービー馬サクラショウリ(父パーソロン)、菊花賞馬テンメイ(父ルイスデール)といった、新旧の強豪たちと戦い、メジロファントムの猛追をハナ差押さえて優勝している。
いわば、最強世代の意地を見せて、みずから引退の花道を飾ったわけである。このレースでは、観衆の誰もが早すぎると思った地点からスパートを見せたが、それは、グリーングラスの特徴を最大限に引き出す大崎昭一騎手の好騎乗であったことも付け加えておきたい。
《競走成績》
4~7歳時に26戦8勝。主な勝ち鞍は、菊花賞(芝3000m)、天皇賞・春(芝3200m)、有馬記念(芝2500m)、AJC(芝2400m)、日本経済賞(芝2500m)。7歳時に年度代表馬。
《種牡馬成績》
リワードウイング(エリザベス女王杯=GⅠ、トウショウファルコ(アメリカJCC=GⅡ)、トシグリーン(CBC賞=GⅡ、京王杯オータムH=GⅢ)など。
父インターメゾは、1966年英国産で、1970年に日本に輸入。競走成績は11戦3勝だが、この勝ち鞍の中には、セントレジャーが含まれ、その年のフリーハンデ長距離部門で1位になっている。したがって、若くして輸入されたクラシックホースとして、期待も大きかった。しかし、その産駒は、いまでいうところのGⅠホースは、グリーングラス以外には出すことができなかった。
インターメゾの分析表は別掲の通り。
Blandfordの系列ぐるみを主導とし、St.Frusquin-St.Simon、Canterbury Pilgrim、Speamintのスタミナと、Bay Ronaldのスピードを加えたヨーロッパタイプのステイヤーの形態を保っている。当初の期待に反し、産駒に活躍馬が少なかった理由は、前面に配されたGainsborough、Bois Roussel、Blandford、Son-in-Lawといった血が、すべてスタミナ系であり、なおかつ、当時の日本の繁殖牝馬もこれらの血が主体になって前面に配されていたという事情が大きい。すなわち、ランダムに配合した場合、これらの重い血がクロスとなり、スタミナ過多の形態に陥る可能性が高かったのである。
グリーングラス以外の主たる産駒としては、ステイード(皐月賞3着、弥生賞3着)、スーパーフィルド(札幌記念2着、オールカマー4着)、カールスバット(京王杯オータムH)、サクラスマイル(エリザベス女王杯3着)などがいる。
サクラスマイルは、繁殖牝馬として、皐月賞・菊花賞の二冠を制したサクラスターオーを出している。そのサクラスターオーの中で、インターメゾの血が、同馬のスピード・スタミナを形成する上で、多大な影響を与えていることは、すでにこの連載の「サクラスターオー」の稿で解説した通り。
母ダーリングヒメは、戦績は7勝。主な勝ち鞍は、福島大賞典、七夕賞だが、それが示すようにローカルでの活躍が主だった。産駒には、グリーングラスのほか、ハザマファースト(クイーンS、エーデルワイスSなど4勝)がいる。
母系での注目点は、何といっても曾祖母のダーリング(6勝)だろう。ダーリングの父はセフト、そして母が第弐タイランツクイーンということで、これはあの10戦無敗で「幻の名馬」といわれたトキノミノルの全姉にあたる。トキノミノルは、ダービーを制覇した直後に、破傷風のために短い生涯を終えているので、その血は父系としては残っていない。したがって、種牡馬の中では、わずかにグリーングラスの中で受け継がれる可能性を残すのみという状態だったが、残念ながらその夢もかなうことなく消滅してしまった。
ダーリングヒメの父ニンバスは、1949年の英国ダービー馬。2000ギニーをも制したスピード・スタミナ兼備の馬で、Grey Sovereignとは3/4兄弟にあたる。Nearcoの直仔でもあり、高齢ながら期待されて輸入された馬だったが、種牡馬としてはそれに応えるだけの成績を残せなかった。その原因として考えられることは、この馬が輸入された当時は、日本の繁殖牝馬の中ではBlandford系、Gainsborough系が主流であったために、Nearcoの直仔の血を受け入れることが、まだできにくいという状態であったことが推測できる。
それでいえば、母ダーリングヒメは主導がPhalarisの系列ぐるみ。The Tetrarch、Sundridgeのスピードを加えたバランスのよい配合で、ニンバスの特徴をうまく引き出した血統構成の持ち主であった。そして、構成されている血の最大の特徴として、当時日本の繁殖牝馬の多くが持っていたBlandfordを、ニンバスおよびダーリングが含んでいなかったこと。さらに、Hyperionの父として以外は、Gainsboroughが7代目に一つだけ(Solarioの父)で、世代ずれとなって影響力をなくしたため、インターメゾを生かす上で、結果としてうまく機能することになった。
その理由は、インターメゾの血の傾向の中で説明した通り、BlandfordやGainsboroughが前面でクロスし、強い影響力を発揮した場合には、全体のバランスが崩れ、ともするとスタミナ過多に陥る可能性が高いためである。
こうした特徴をもつ父母の間に生まれたグリーングラスだが、別掲の分析表を見ると、まず5代以内のクロスは、Hyperionの3×5、Nearcoの5×3、そしてNogaraの5・6×4(いずれも中間断絶)。系列ぐるみのクロスは、Soldennis(アイルランド2000ギニー馬、51戦24勝)=Wet Kissの6×5。さらに、Chaucerの5・8・8×6・7・8・8、Phalarisの7×5・6・7も系列ぐるみ。
ここで注目すべきことは、これらのクロス馬は、近い世代で、まずSt.Simonを共有し、次いでBend Or、Hermitも含み、強固な結合・連動態勢を整えているということである。そして、スタミナのHyperion、Soldennis 。Nearcoは、その母Nogara(伊2000ギニーなど16戦14勝)や、父内Nasrullahの影響から、スピード要素としても考えられる。さらにスピードのアシストとして、The Tetrarchの7×6・7・7のほか、Orbyの7×7も系列ぐるみとなり、グリーングラスのスピード形成に参加している。
これらの結合のよさや、スタミナに裏づけされたスピードが、みごとに生かされた構造が、グリーングラスの強さの秘密と考えられる。
これを、8項目に照らしてチェックすると以下のようになる。
①=□、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価は1Aに近い3B級、距離適性は9~15Fと判断できる。
現在でこそ、当たり前のように登場してくるNearco、Hyperionのクロスだが、当時の上位馬のたちの血統構成の中には、まだそれほど多く存在していたわけではない。そして、両者が呼び水となっている形態で、初めて菊花賞馬になったのが、このグリーングラスなのである。
グリーングラスの配合における問題点は、5代以内に発生したクロス馬の状態が、いまひとつすっきりせず、血の集合が読み取りにくいということにある。ライバルであったトウショウボーイ、テンポイントと比較した場合、グリーングラスには調子の波があり、戦績の安定感が乏しかった。その要因をあげれば、まさにこの点に起因したといえるだろう。いわゆる、仕上げに手間どり、調整の難しいタイプである。
現在でいえば、Northern DancerとHail to Reasonが共存していて、それが中間断絶や単一クロスを形成している配合と共通点があり、その面では超一流馬の構造とはいいがたい面が残る。3強の中では、他の2頭に理論上の評価も劣ることは否めない。
しかし、血の質や、結合のよさを備えていたことは間違いない。そして、菊花賞馬の血統史を語る上で、Hyperionのクロスを初めて備え、時代を先取りした血統構成馬として、ぜひとも記憶にとどめておきたい馬である。
グリーングラスの代表産駒にトシグリーンがいたことはすでに述べた通りだが、この馬は、中山の京王杯オータムH(芝1600m)を1分32秒8、そして中京のCBC賞(芝1200m)を1分07秒9のコースレコードで制覇している。この結果に対し、ステイヤーの親からスプリンターの仔が出たということで、「血統とは不思議なもの」、「トンビがタカを生んだ」といった評が出ていた。
この理由については、トシグリーンの分析表と父グリーングラスのそれとで、クロスの変化の様子を比較いただければわかりやすいと思う。
ポイントは、6代以内に新たに発生したクロス馬を、まず父グリーングラス内で検証すると、
1)Nasrullah
2)Mumtaz Begum
3)Double Life
4)セフト
5)Frair’s Daughrer
このうち、1)2)4)5)がスピード系で、とくにグリーングラスの中ではクロスになっていなかったNasrullahが目覚め、トシグリーンの能力形成に参加したことの影響が大きい。
つぎに、母ファインフレーム内の6代以内のクロスを見ると、
1)Nearco(Royal Charger内)
2)Blenheim(Mahmoud内)
3)Phalaris、Selene(Pharamond内)
4)Nasrullah、Kong(Grey Sovereign内)
このうち、1)~4)はいずれもスピード系。そして、このスピードに加え、父母内に合計9個のThe Tetrarchの血が存在している。これだけでも、トシグリーンがスピードにめぐまれた構造を持ちあわせていることは、十分にうかがい知ることができるはずである。
ちなみに、同馬の8項目評価は以下の通り。
①=□、②=□、③=○、④=○、⑤=△、⑥=□、⑦=○、⑧=□
総合評価は3B級、距離適性は6~9F。
主導と血の集合が不明確で、影響度バランスもやや崩れているが、父母の血の傾向は合っている。弱点・欠陥がなく、結合がしっかりしていることが、この配合の長所であった。