エリモジョージ
父:セントクレスピン 母:パッシングミドリ 母の父:ワラビー
1972年生/牡/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:天皇賞・春、宝塚記念、京都記念春・秋
昭和50(1975)年のクラシック戦線は、牡馬のカブラヤオーと、牝馬のテスコガビーが、圧倒的なスピードを発揮して、それぞれ二冠を制し、話題を独占していた。今回紹介するエリモジョージは、その牡馬路線に参戦して、皐月賞こそ3着と好走したが、ダービーは12着と惨敗している。そして、春の王者カブラヤオーがリタイアした秋は、菊花賞をコクサイプリンスが勝ち、暮れの有馬記念は同期のイシノアラシが制した。結局、エリモジョージは、3歳時には年初めのシンザン記念1勝だけで終わり、年末にはほぼ忘れられた存在に。
そうした成績を受けて、明けて4歳の春の天皇賞では、出走馬17頭中の12番人気。1番人気は菊花賞馬コクサイプリンス、2番人気がグランプリホースのイシノアラシ、そしてクラシック戦線で安定した走りを見せたロングホーク、ロングフアストが3、4番人気と続いた。
天皇賞当日は、前日からの雨で、馬場状態は不良。鞍上に天才福永洋一騎手を得たエリモジョージは、スタートからハナを奪い、絶妙のペースで逃げをうつ。人気馬は馬群に沈み、ロングホークだけが何とか直線でエリモジョージに食い下がったものの、結果は首差およばず、エリモジョージはまんまと3,200mを逃げきってしまったのである。単勝8,190円の大穴。これが、晩成血統開花の幕開けであった。
《競走成績》2~7歳時に44戦10勝。主な勝ち鞍は天皇賞春(芝3,200m)、宝塚記念(芝2,200m)、京都記念春・秋(芝2,400m)、鳴尾記念(芝2,400m)、函館記念(芝2,000m)、シンザン記念(芝1,600m)。
父セントクレスピンについては、以前に紹介したタイテエムの中で解説しているが、ここでも簡単に紹介しておきたい。戦績は6戦4勝で、凱旋門賞、エクリプスSを制した一流馬である。その父Aureoleも英国で14戦して7勝している。キングジョージ6世&クイーンエリザベスSを制し、英ダービー2着、セントレジャー3着など、長距離で実績を残し、スタミナの伝え手としての役割を果たしている。
また、セントクレスピンの母Neocracyも、他にTulyar(英ダービー、セントレジャー、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS)を出している。こうした背景から、セントクレスピンは当時、超良血種牡馬として、鳴り物入りで日本に輸入された。
母パッシングミドリは、特別勝ちを含めて4勝。その母系ビューチフルドリーマーは、日本では「名門」「名牝系」と称され、その系統からは、カブトヤマ(日本ダービー)やタケホープ(日本ダービー、天皇賞)など、長い年月にわたって活躍馬を出している。その父ワラビーはフランス産で、仏セントレジャー、アスコットゴールドCなど6勝。日本での代表産駒には、メジロムサシ(天皇賞、宝塚記念)、コンチネンタル(目黒記念、京都記念)がいるが、ともに父の特徴を受け継ぎ、スタミナ優位のステイヤーであった。
そうした父母の間に生まれたエリモジョージ。分析表を見ると、5代以内のクロス馬は、Gainsboroughの4×5と、Pharosの4×5があるが、前者はBayardoがクロスにならなかっために中間断絶。したがって、系列ぐるみである後者が主導になることは明らか。そして、両者はHampton、St.Simon-Galopin、Bend Orを共有しており、強固な結合・連動態勢を整えている。
この場合、Gainsboroughは、St. FrusquinやSt.Simonの裏づけをもち、スタミナ勢力として能力参加を果たしている。それに対し、Pharosのほうは、Fast Fox内PhalarisやPolymelusの後押しを受けて、スピードの供給をしている。ただし、ここにはセントクレスピン自身の能力形成に大きな役割を果たしていたChaucerが5代目から系列ぐるみを形成して注入されているために、実際のPharosよりも、スタミナを強化されたPharosへと能力変換を遂げていると推測できる。
さらに、6代以内にあって影響度数字に換算される主なクロス馬を検証すると、Canterbury Pilgrim(英オークス馬)、Diamond Jubilee(英三冠馬)=Persimon(全兄弟、英ダービー馬)、St. Frusquin(エクリプスS、2000ギニー馬)、Foxlaw(アスコット金杯・4000m)など、いずれもヨーロッパの一流競走馬で、全体の比率として、明らかにスタミナ優位の顔ぶれ。そして、これらの血は、St.Simon-Galopin、Bay Ronald、Isonomyなどにより主導と直結し、主にスタミナ勢力としてアシストされ、Pharosのスタミナ変換への根拠が十分に確認できる。
以上を8項目で評価すると、以下のようになる。
①=○、②=□、③=◎、④=□、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=□
総合評価=3B級 距離適性=10~16F
クロス馬の種類は55だが、その中には系列ぐるみや結合後のクロス馬もカウントされているので、実質は30台の後半と考えることができる。そのために、⑥を○とした。
また、この配合で惜しまれるのは、母パッシングミドリが、The TetrarchやSundridgeといったスピードの血を持ちながら、それらを父セントクレスピンが持っていないために、生かすことができなかった点。エリモジョージが瞬発力の点で物足りなさを残した血統点要因がここにあり、そのために⑧は□とした。
とはいうものの、エリモジョージは、古馬となった5歳時に函館記念を2分00秒5というレコードタイムで制しており、まったくスタミナだけの馬ではなかったことも事実である。その要因として考えられることは、Pharosのスピードはもちろんのことだが、エリモジョージの血統内の土台構造および結合状態の強固さに注目すべきだろう。別表クロス馬集計表のSt.SimonとGalopinの部分を参照していただきたい。前者が28、後者も31という多さ。しかも、祖父母4頭の血統内にまんべんなく配置されていることがわかるはず。
ここが、まさしくエリモジョージの底力の秘密であり、強固な結合によって一体化されたクロス馬の、潜在的に備わったスピードが鍛練によって引き出され、それが古馬になって開花したと見るべきだろう。ただし、祖母内セフトやBMS内Tourbillonの生かしかたなどが完全とはいえず、全体のバランスとしては決して一流の配合とはいいがたいことも事実。それがムラな成績につながったことも否定できない。
そうではあっても、スタミナ優位で結合の強固さを備えた個性ある内容であったことも確かで、「瞬発力はないがスピードを平均的に維持できる」という特徴をかたちづくっていた。また、同馬の活躍の背後には、その特徴を最大限に引き出した福永洋一騎手の騎乗技術があったことはいうまでもない。忘れられかけ、人気薄になったときの、誰にも予想できなかった大逃げ。福永騎手とのコンビによる奇襲作戦は、ファンの目に強烈な印象を残し、その存在感を示してくれた。
現代の競馬は、硬い馬場によるスピード競馬という傾向もあって、長距離レースでも、前半は折り合いに徹し、後半勝負、上がりの差し競馬が主流となっている。そのために、レースもこじんまりと型にはめられたパターンが多く、いわゆるステイヤーが真価を発揮する場が少なくなっている。
しかし、かつては、このエリモジョージのような馬が時々現れては、ターフをわかせていたのである。
「オッズの読める馬」という異名もあり、人気になるとそれをせせら笑うかのように凡走し、人気がないと快走・激走して「稀代のクセ馬」といわれたカブトシローも、そうした個性派の1頭であった。じつは、そのカブトシローの血統構成には、エリモジョージと共通する部分がある。分析表を参照していただきたい。
カブトシローの父の父は、セントクレスピンの父と同じAureoleである。そして、その中のGainsboroughと、BMS内トウルヌソルの父Gainsboroughとが呼応して、4×5の中間断絶のクロス馬をつくり、それが呼び水の役割を果たしている。そして、結合・土台を支える血としてSt.Simonが32、Galopinも32あって、祖父母4頭の中にまんべんなく配されて、強固な状態を保持しているという点でも、エリモジョージの構造とたいへんよく似ている。
ただし、カブトシローには、Friar MarcusのCiceroやOrbyのOrme、SunstarのSundridgeが、スピード勢力として加わり、エリモジョージには欠けていたスピードと瞬発力が加わった。この点が、両者の大きな差で、能力・評価とも、カブトシローのほうが上位になる。
カブトシローの8評価は以下の通り。
①=○、②=○、③=◎、④=□、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=9~15F
カブトシローは、歳を重ねるごとに強さを増した晩成型で、有馬記念に勝ったときなどは、2着のリュウファーロスを6馬身差に切り捨てるほどの迫力、鮮やかさを発揮した。そうしたここ一番というときの底力は、Aureoleをはじめとしたヨーロッパの重厚な血が生きて、それが開花した結果と見て間違いないだろう。ちなみに、このAureoleとその仔セントクレスピンの血が影響している最近の活躍馬としては、ダービー、JCを制したスペシャルウィーク、皐月賞、ダービーを逃げきったミホノブルボンをあげることができる。これらの馬たちは、いずれも鍛え抜かれた強さを感じさせる点が、共通のイメージである。それこそ、根底にある血統という要素がつくり出すイメージといえるだろう。
最後に、エリモジョージの同期馬たちのプロフィールを簡単に紹介しておこう。
■ロングホーク 3B級
4歳当初から堅実な成績を残していたように、Pharos主導で、SundridgeのスピードにSon-in-Lawのスタミナを加え、影響度⑤⑤⑤⑤とバランスのよい配合。ただし、母内Gainsborough、Blandford系の欠落は、底力の面で劣り、クラッシクであと一息の要因になった。
■ロングフアスト 2B級
父内Relicの欠落よるスピードの不備と、母内Hurry Onの 欠落によるスタミナの不備は、この配合の限界。そのかわり、Nearcoの母Nogaraを主導に、The Tetrarchを系列にしてそのスピードを再現したことは、当時としては大きな武器であった。ダービーと菊花賞で、追い込んで2着にきた要因は、まさしくこの血による最後の差し脚の威力であろう。
■イシノアラシ 3B級
ロングフアスト同様、Nearcoの母Nogara(伊2000ギニー)を主導に、Orme(=Collar)、Sundridgeを加えたスピード馬。有馬記念の差し脚は、この血に因ること大。残念なのは、上質のスタミナの核を欠いたこと。現代でいえば、同じく3歳で有馬記念を制したシルクジャスティスのようなイメージ。