久米裕選定 日本の百名馬

エルコンドルパサー

父:Kingmambo 母:サドラーズギャル 母の父:Sadler’s Wells
1995年生/牡/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:G1ジャパンC、G1NHKマイルC、仏G1サンクルー大賞典

▸ 分析表

エルコンドルパサーのデビューは、1997年(平成15年)の11月、東京の新馬戦ダート1,600mで、9頭立ての1番人気に支持される。レースは、スタートで後手を踏み、最後方を進むが、直線では次元の異なる脚を披露し、2着馬に7馬身差をつけて、新馬勝ちをおさめる。続く500万下(ダート1,800m)、そして雪のためにダートに変更された共同通信杯4歳S(1,600m)を制し、3連勝でオープン入りを果たした。

初めての芝レースは、休養明け後のニュージーランドT(1,400m)になるが、ここも難なく通過し、いよいよG1のNHKマイルC(芝1,600m)へと駒を進めた。芝の良馬場ということで、スピード対応への課題が残されていたが、そんな心配をよそに、レースは好位差し切りで優勝。3歳の春まで無敗のままでレースを終えて、その後は休養して、秋に備えることになった。

秋緒戦に選んだレースが、毎日王冠(芝1,800m)。このときのメンバーは、1歳上で充実期を迎えていた4歳馬のサイレンススズカや、同期の無敗馬で2歳チャンピオンとなったグラスワンダーが骨折明けで挑戦してくるなど、そうそうたる顔ぶれが揃った。そして、エルコンドルパサーは、サイレンススズカ、グラスワンダーに続く3番人気となった。ここでは、サイレンススズカのスピードの前に、エルコンドルパサーの追い込みは届かなかったが、グラスワンダー(5着)や、他の古馬陣をおさえて2着に入り、古馬に劣らぬ力を持っていることを証明した。

そして、JCに挑戦することになる。サイレンススズカは、天皇賞で骨折、予後不良。グラスワンダーは復帰後の調子が思わしくないため不出走ということから、ここでは同期のダービー馬スペシャルウィークが1番人気に推される。そして、前年のJCで2着に入ったエアグルーヴが2番人気と続き、エルコンドルパサーは、初の2,000m以上の距離に対する不安視もあって、3番人気であった。

レースは、サイレントハンターの先導でスローペースで進む中、エルコンドルパサーは3番手をキープし、それをマークするように、人気上位のスペシャルウィークとエアグルーヴが好位を進む。直線に向くと、他馬を待つ余裕のあったエルコンドルパサーが追い出しにかかり、エアグルーヴに2馬身1/2の差をつけてゴール。3歳で頂点に立ったエルコンドルパサーは、有馬記念には出走せず、次年度の海外遠征を視野に入れて、休養に入る。

4歳となり、凱旋門賞をめざして春からフランス入りしたエルコンドルパサーは、緒戦のイスパーン賞(G1・1,850m)をクロコルージュの2着と好走すると、7月のサンクルー大賞典(G1・芝2,400m)、9月のフォワ賞(G2・芝2,400m)を連覇し、いよいよ本番の凱旋門賞へと駒を進めた。前哨戦での好走が評価され、この年のキングジョージ6世&クイーンエリザベスSを制して、欧州古馬最強といわれていたDaylamiをおさえ、仏ダービー馬のMontjeuに次ぐ2番人気の支持を受けた。

レースは、意外にもエルコンドルパサーが好スタートから先頭に立ち、逃げる展開となった。折り合いをつけてマイペースに持ち込んだエルコンドルパサーは、他馬が不良馬場で伸びを欠くなかで、脚色は衰えず、勝利を手中におさめたかに見えた。しかし、そこは世界最高峰のレース。ものすごい勢いで追い込んできたMontjeuに1/2馬身交わされて2着。敗れたとはいうものの、3着のクロコルージュとは6馬身の差があった。地元のファンにも「勝ち馬は2頭いた」といわしめたほどで、それは日本調教馬の力が世界に認められた瞬間でもあった。

エルコンドルパサーは、この凱旋門賞を最後に引退し、年度代表馬の勲章を得て、種牡馬入りを果たす。

《競走成績》
2~4歳時に走り、11戦8勝。主な勝ち鞍は、NHKマイルC(G1・芝1,600m)、ジャパンC(G1・芝2,400m)、サンクルー大賞典(G1・芝2,400m)、ニュージーランドT(G2・芝1,400m)、フォワ賞(G2・芝2,400m)など。2着=凱旋門賞(G1・芝2,400m)。

父Kingmamboは米国産で、仏・英で走り、13戦5勝。主な勝ち鞍は、仏2,000ギニー(G1・1,600m)、セントジェイムズパレスS(G1・8F)、ムーランドロンシャン賞(G1・1,600m)など。欧州マイル王決定戦のクインエリザベス2世Sは、Bigstone、Baratheaに次ぐ3着。確かにマイルでは実績を残したが、父がMr.Prospectorで、母は20世紀最強のマイラーと呼ばれ、BCマイルを2連勝したMiesqueという血統への期待値からすると、ここ一番というときの底力という点で、いささか物足りない成績、という評価もされていた。

Kingmambo自身の血統構成は、Nasrullahの4×6の系列ぐるみを主導に、Nashuaを強調した形態。Bull Dog、Man o’Warなど、米系のスピードを加え、シンプルな内容を示し、一般レベルでいえば、スピード馬として分かりやすい形態を示していた。しかし、母Miesqueの能力を形成するHyperion-Gainsboroughを始め、GraustarkのキーホースとなるRibotらのスタミナ要素がクロスとなれず、上質のスタミナの核を欠いていた。つまり、母のよさが生かし切れておらず、そこが底力不足の要因となっていたのである。

以上のことを8項目に照らし評価すると、以下の通り。

 ①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=8~9F

▸Kingmambo分析表

母サドラーズギャルは、Special(=Lisadell)の3×2とHail to Reasonの4×5(ともに単一クロス)を持つ配合馬で、極端な近親の形態を示し、自身の血統構成は、決して理に適ったバランスとはいえない。それが、これといった競走成績を残せなかった理由と考えられる。

▸ サドラーズギャル分析表

その父母の間に生まれたエルコンドルパサーは、まず、前面でクロスしている血は、Northern Dancerの3×4(中間断絶)が呼び水となり、これにNative Dancerの4・6×5がPolynesianクロスを伴い、米系のスピード要素を注入している。つぎにSpecial(=Lisadell)が、単一クロスながら、4×3・4となり、NasrullahとHyperionを軸に、欧州系のスピード・スタミナを注入。これらがいずれもNorthern Dancerの傘下におさめられ、Sadler’s Wells強調の形態がつくられている。

とはいうものの、スタミナ供給は、DiscoveryとPrincequilloからで、血統構成上はマイルから中距離の適性。そして、こうした近親度の強い配合は、素軽いスピードよりも、馬力型の馬が多いことから、ダート向きとの診断をくだした。

8項目評価は以下の通り。
 ①=□、②=△、③=□、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級、距離適性=芝8~10F ダ6~9F

以上が、当初くだした診断結果である。しかし、この程度の評価の馬が、何故に、日本国内のみならず、世界最高峰のレースでも、良績を残すことができたのか? この疑問を解明するために、エルコンドルパサーの血統については、凱旋門賞後に再検討を加え、その結果を発表した。ここでは、その要点を整理しておきたい。

①4×3・4のクロスになっているSpecial(=Lisadell)は、競走実績としてはいま一つだが、サセックスS(G1)勝ちを含む9戦7勝の実績を残し、異系の好バランスを示したThatchの全姉にあたり、同等の評価を持つ。

②近親度の強いSeattle Slewが後退して、逆に血が薄められたこと。

③4・6×5のクロスになったNative Dancerも、自身が異系バランスの保たれた血統構成を示していたこと。

④父内でNorthern DancerとSpecialを通じて能力を引き出されているMiesqueも、影響度⑪⑤④③という、異系交配馬であること。

以上のことから、エルコンドルパサーの能力形成に関わっている近い世代で派生したクロス馬自身が、それぞれ優秀な異系交配馬であることが判明した。その結果、ある特定の危険因子があっても、それが引き出されずに済み、能力形成に関与する呼び水役として機能した、という結論に達した。

2,400mの距離を克服できた要因としては、前述の異系交配馬たちの能力に、PrincequilloやTourbillonの欧州系のスタミナが能力参加を果たし、強調されたSadler’s Wellsの特徴を生かすことができたためと、その血統的根拠を示した。そうした近親弊害が回避されていることを条件として、8項目を見直すと、以下のようになった。

①主導勢力=□→○
Northern Dancerを呼び水に、Nearcoの系列ぐるみの主導。

②位置・配置=△→□
Specialの近親クロスの弊害がクリアーされていれば、それほど位置・配置には問題はない。

③結合度=□→○
BMSのSadler’s Wells内Northern Dancerへ血が集合している。

④弱点・欠陥=□で変更なし

⑤影響度バランス=□で変更なし

⑥種類・数=□で変更なし

⑦質・傾向=□→○
クロスしている血の質は高い。

⑧スピード・スタミナ=□→○
Seattle Slewのスピード、Sadler’s Wellsのスタミナ、Miesqueのスピード・スタミナなど、一流の血が生きている。

以上のことから、
総合評価=3B、距離適性=8~11F

というように、評価変更をした。しかしながら、このことは、実績を残す以前の段階では、確率の低い推論となりやすく、エルコンドルパサーに対するIK理論からのアプローチとしては、当初の診断結果が、理論上から導き出される評価となる。

次に、エルコンドルパサーの種牡馬としての可能性についても触れておこう。凱旋門賞2着という実績から、期待されて種牡馬入りを果たしたエルコンドルパサーだが、実績のある繁殖牝馬との交配が多かった割りには、産駒の成績はいま一つ伸び悩んでいた。

このことについては、理論上、当初から予測することができた。その理由は、エルコンドルパサーを構成する血が、流行のMr.ProspectorとNorthern Dancerを近い位置に2つ配し、同時にHail to Reasonも持っていることから、ランダムな交配ではこれらの血が前面でクロスして、産駒の血統は、総じて主導の明確性を欠く構造になりやすいことが予想されたからである。

こうしたタイプの配合馬は、芝のスピード対応という面で苦戦を強いられるケースが多く、ダート馬が輩出される確率が高いというデータが出ている。そして産駒は、その予測通り、ダート馬が多かった。こういう傾向の種牡馬の配合で留意すべきことは、血の集合箇所を明確にすること、あるいは近い世代同士のクロスを少なくすることである。

エルコンドルパサーは2002年に死亡しているが、ここでは、JCダート(G1)を制したアロンダイトと、ヴァーミリアンの2頭について、解説しておきたい。

■アロンダイト
 ①=○、②=△、③=□、④=□、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

少し世代ずれは見られるが、Nasrullah主導の明確性を保ち、Never Bendのスピードに、Ribotのスタミナを再現。脚元に問題がなければ、芝の中長距離でも上位を狙える血統構成の持ち主。エルコンドルパサー産駒としては、異色の存在である。 

▸ アロンダイト分析表

■ヴァーミリアン
 ①=□、②=△、③=○、④=□、⑤=□、⑥=△、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=8~10F

主導の明確性ということでは、必ずしも万全勢ではないが、Northern DancerとHail to Reasonによって、欧米系の血の結合がスムーズに行われている。そして、日本のダートに強いノーザンテーストが再現されたことが、この馬の配合のポイントになっている。2007年最優秀ダート馬に選出されている。

▸ ヴァーミリアン分析表

最後に、エルコンドルパサーと戦った馬たちについても簡単に触れておきたい。エルコンドルパサーに先着したサイレンススズカとMontjeuは、ともに理論上は2A級評価の馬である。

そして、同期の3強といわれた馬たちは、グラスワンダーが1A、スペシャルウィークが3B評価である。その意味では、近年ではかなりレベルの高い血統構成馬たちが揃っていた時期といえる。これらの馬たちが、完調な状態でジャパンカップで対戦していたとしたら、それこそ白熱したレースが展開されたことだろう。今後もこうした配合馬たちの台頭を期待したい。

 

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