久米裕選定 日本の百名馬

アカネテンリュウ

父:チャイナロック 母:ミチアサ 母の父:ヒンドスタン
1966年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:菊花賞、日経賞

▸ 分析表

昭和44年(1969年)の競馬の主な話題といえば、タケシバオーが史上初の賞金獲得額「1億円馬」になったこと、スピードシンボリがキングジョージ6世&クイーンエリザベスSで5着(1着Park Top)と健闘したこと、そして関西の栗東トレセンが完成したこと、などだろう。

この年のクラシック戦線は、関東の尾形藤吉厩舎が、「四天王」と呼ばれたワイルドモア、ミノル、ハクエイホウ、メジロアサマらを送り込み、まず、皐月賞をワイルドモアが制した。しかし、そのワイルドモアは、皐月賞後に骨折リタイア。ダービーでは、関西から東上してきた鹿児島産の抽選馬タカツバキが、その勢いを買われて1番人気に推された。鞍上は嶋田功。しかし、そのタカツバキは、スタート直後に落馬。ちょうど、2002年菊花賞でのノーリーズンと似た状況であった。

結果は、6番人気のダイシンボルガードが、不良馬場で先行策をとり、好位から抜け出し、人気のミノルの追撃を首差抑えて、ダービー馬の栄冠を手中に納めている。このとき、ダイシンボルガードの石田厩務員が、ゴール前100mの地点で、馬場に躍り出て、「勝った、オレの馬だーっ」と叫びながら、馬を追いかけたことは、エピソードとして語り継がれている。

そんなクラシック戦線の中にあって、アカネテンリュウは、3歳の暮れのデビュー以来勝ち運にめぐまれず、未勝利を脱したのは7戦目、4歳春の3月であった。頭角を現し始めたのが、夏の函館開催あたりから。秋初戦のセントライト記念では、11頭立ての7番人気ながら、春には上位で活躍していたミノルなどを一蹴し、初の重賞を制している。続く京都新聞杯は2着と敗れたが、本番の菊花賞では、後の天皇賞馬リキエイカンを4馬身差で破って優勝している。

これを機に、アカネテンリュウは、4歳クラシックにおける「夏の上がり馬」という存在の代名詞となった。近年でいえば、メジロデュレン、メジロマックイーン、バンブービギン、マヤノトップガンなどが、その名で呼ばれた。そして、2002年のヒシミラクルなども、同じ出世パターンといえる。ただし、最近は、アカネテンリュウの名が聞かれることはほとんどなく、オールドファンにはいささか寂しい。

《競走成績》
3~7歳時(旧表記)に、36戦13勝。主な勝ち鞍は、菊花賞(芝3,000m)、日経賞(芝2,500m)、アメリカJCC(芝2,500m)、目黒記念・秋(芝2,500m)、東京新聞杯(芝2,000m)。2着は、有馬記念2回(芝2,500m、1着は2回ともスピードシンボリ)、3着は天皇賞・秋(芝3,200m、1着メジロアサマ)、天皇賞・春(芝3,200m、1着ベルワイド)など。

《種牡馬成績》
アカネリウオー(4勝)、マサフジなど、中堅レベルの産駒は出したが、繁殖牝馬にめぐまれず、これといったステークス・ウイナーはいない。

父チャイナロックは、英国産で、英、仏で走り、25戦7勝。上級ハンデ戦の勝利はあるが、いわゆるクラシックレースには縁がなく、勝ち鞍の距離は11~14F。種牡馬としても、輸入当時はそれほど期待されていたわけではない。しかし、いざふたを開けてみると、チャイナロックの産駒は、骨量豊かな馬格を誇り、中央・公営ダートを問わず、コンスタントに勝ち馬を出す。そして、タケシバオー(16勝)の出現によって、その地位を確立した。その他、天皇賞馬メジロタイヨウ、競馬の大衆化に貢献したアイドルホースのハイセイコー、また公営でもヤシマナショナルなど、クラシック・ホースを輩出し、リーディングサイアートップの座に着くことになった。

チャイナロック自身の血統構成は、Bay Ronald、St.Simon、そしてCylleneが前面で影響力を発揮し、主導勢力がどれかわかりにくい。また、これぞというスピード勢力が不足していることもあって、成績が示す通り、一流の血統構成とはいいがたい。そのかわり、7~8代におけるGalopin、Bend Or、Isonomyといった血によって、結合はしっかりと果たされ、当時の欧州の主要スタミナ源が配されていることは、読み取れる。これが、その産駒が総じてタフネスぶりを発揮した要因と考えられる。

それに対し、母ミチアサは、条件級の5勝馬。しかし、牝馬ながら、3~6歳まで、35戦のレースを走り、タフネスぶりを発揮していた。その根拠は、Gallinule、St.Simonといったスタミナを全面に配した配合で、意外に土台がしっかりしていたことも確認できる。そのかわり、母方のダイオライトやシアンモアの持つOrbyなどを生かすことができず、スピード勢力の弱さが、当時としても、勝ちきれない要因になったと推測できる。

そうした父母の間に生まれたアカネテンリュウ。まず、5代以内でクロスしている血は、Gainsboroughの4×5。Gainsboroughは、英国産で、9戦5勝の三冠馬。ただし、当時は第一次世界大戦のさなかで、臨時開催、代行レースが多く、競走馬時代の評価は分かれていた。しかし、種牡馬として、Hyperion、Solarioを出したことで、その実力が再確認されることになる。日本でも、その直仔としてトウルヌソルが輸入され、競走馬の能力向上に貢献している。

次いで、Rock Sand(英三冠馬)の7×5の系列ぐるみがあるが、これとGainsboroughは、St.Simon(=Angelica)、Bend Orで結合し、スタミナをアシストしている。6×6・6のOrbyは、英ダービー馬だが、Ormonde、Bend Orの影響もあって、スピード要素が強い。

その他の6代目以内でクロスしている血を検証すると、SpearmintがMusket、Chaucer、St.SerfおよびDesmond、PersimmonそれぞれがSt.Simonで一体となり、CylleneがBend Or、Isonomyによって、いずれも主導のGainsboroughに直結していることが解る。これらは、いずれもスタミナ要素が強く、アカネテンリュウの血統構成は、明らかにスタミナ優位の中長距離型であることが確認できる。ただし、Gainsborough系の血は、Bayardoが途中断絶しているように、必ずしも全体の中で多数派とはいえない。

また、いくら当時の馬場といっても、芝対応に要求されるスピード勢力が不足していたことは否めない。アカネテンリュウは、菊花賞は制したものの、競走成績が示す通り、ここ一番の天皇賞や有馬記念で、あと一息及ばないレースをくり返していた。この要因を、血統上に求めれば、主導の弱さと、スピード勢力の不足ということになるだろう。

とはいうものの、有馬記念ではどうしても勝てなかったスピードシンボリの血統構成と比較しても、スタミナ面では劣ることはない。天皇賞で先着を許したメジロアサマやベルワイドのそれと比較しても、同様のことがいえる。アカネテンリュウの場合、その有り余るスタミナゆえに、連戦を耐え抜いてしまった。それが、かえって裏目に出たのではないか。つまり、リフレッシュのための休養をしっかりととり、目標のレースに向けて馬を仕上げるといった、勝つための手段をきっちりととっていれば、天皇賞や有馬記念でも、違った結果が出ていたかれしれない。

アカネテンリュウの8項目評価は以下の通り。
 ①=□、②=○、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=□
 総合評価=1A級 距離適性=9~15F

アカネテンリュウが種牡馬入りした昭和48年頃は、日本の競馬がスピード化に移行する時代であり、テスコボーイやファバージに代表されるPrincely Gift系が流行の兆しを見せ始めていた。それと同時に、内国産種牡馬の成績が伸び悩んでいたこともあり、競走馬時代の人気とは裏腹に、アカネテンリュウの種牡馬としての評価は低く、種付け頭数も15頭程度で推移していた。そして、その実績も、これといった産駒にめぐまれず、不遇のまま余生を送ることになった。

参考までに、中央で4勝したアカネリウオーの分析表を掲載しておいたので、参照していただきたい。父同様、スピードはないが、Solario主導の明確性を持ち、スタミナという個性を備えたことは読み取れるはず。

■アカネリウオー
 ①=○、②=△、③=□、④=○、⑤=△、⑥=□、⑦=□、⑧=△
 総合評価=2B級 距離適性=9~12F

▸ アカネリウオー分析表

アカネテンリュウは、自身の成績や構成されている血の内容からして、確かにスピード面での不利は否めない。しかし、その血統の中でも、スピードの血に着目して配合を考えれば、スピード馬を出すことも決して不可能ではない。それを証明し、実現してみせた馬が、阪神3歳S(GⅠ)を制したカツラギハイデン。同馬の母サキノイマイは、アカネテンリュウの全妹に当たる。したがって、父母を逆にして考えれば、アカネテンリュウに、ボールドリックのような血を持つ繁殖を配すれば、配合の方向性は同じことになる。

カツラギハイデンの主導は、Friar Marcusの系列ぐるみ。Friar Marcusは、軽快なスピード馬で、日本ではハイセイコーがこの血を生かして、先行力を武器に活躍した。次いで、Orbyも系列ぐるみとなり、主導とはBend Or、Galopinを通じて結合して、スピードをアシストしている。つまり、これでアカネテンリュウの全妹サチノイマイに不足していたスピードを補うことに成功したわけである。

また、スタミナは、主にPlucky LiegeやSon-in-Lawから補給し、スピード・スタミナ兼備の態勢が整った。ただし、ボールドリックの生かし方としては、TeddyやPhalarisなど、ここといったキーホースを外しているので、この点がカツラギハイデンの限界となる。しかしながら、サチノイマイをして、ここまでスピードを引き出すことができれば、まさに配合の妙というべきだろう。

カツラギハイデンの8項目評価は、以下のようになる。
 ①=○、②=□、③=□、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=8~11F

▸ カツラギハイデン分析表

アカネテンリュウは、種牡馬としては不遇で、父系を残すことはできなかった。しかし、母のミチアサのタフさを支えたしっかりとした土台は、牝系として根づき、現代でも生き残っている。宝塚記念でオグリキャップを破ったオサイチジョージの祖母は、アカネテンリュウの全妹サチノイマイであり、また地味ながらステイヤーズSなどを制し4勝をあげたダイワジェームスの曾祖母がミチアサである。

そして、2002年菊花賞馬ヒシミラクルの祖母シュンサクレディは、そのダイワジェームスの母なのである。このダイワジェームスとヒシミラクルの牝系を見ると、Spearmint、Sans Souci 、Rock Sand、Blandfordといった血が、縁の下の力持ち的存在として、スタミナの供給源の役割を果たしていることが解る。ヒシミラクルは、遅い勝ち上がりで、夏の間に力をつけた1頭。アカネテンリュウと母系をともにしていること、菊花賞を制していることなど、共通点があり、これも血のなせる技なのかもしれない。偶然とはいえ、不思議なことである。

以上にあげた、3頭の8項目評価をあげておく。

■オサイチジョージ 
 ①=□、②=□、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=8~11F

▸ オサイチジョージ分析表

■ダイワジェームス
 ①=○、②=□、③=○、④=△、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=9~11F

▸ ダイワジェームス分析表

■ヒシミラクル
 ①=○、②=□、③=□、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=9~11F

▸ ヒシミラクル分析表

最後に、アカネテンリュウの同期馬で、冒頭で触れた春のクラシック戦線で活躍した馬、人気になった馬たちの血統にも少々触れておきたい。

まず、ダービーで1番人気になって落馬したタカツバキ。この馬は、Hyperionの4×3や、The Tetrarchの6×5を持っているが、当時としてはたいへん珍しく、時代を先取りしたクロスの持ち主であったことは間違いない。このHyperionとThe Tetrarchのもたらす切れやスピードが、当時の人々の目に、他馬と異なる何かを感じさせ、それが、ダービーでの人気に影響したのかもしれない。

しかし、父シプリアニ内のWar Admiralや、Rockefella、Turkhanの生かしかたは万全ではなく、スタミナ面で不安を持つ配合内容であったため、内面的には中身の伴わない血統構成であった。したがって、もしも落馬せずにレースを行っていたとしても、ダービーを制することは難しかった、というのがIK理論から見た評価になる。

つぎに、尾形厩舎の四天王の1頭ミノルだが、この馬は、当時の大種牡馬に、母がスピードのGrey Sovereign系を父に持つ輸入牝馬ということから、血統的にはかなり期待が大きかったはず。しかし、母の持つスピード源The Tetrarchを始め、Orbyなどがクロスになれず、生かされなかった。それよりも、ヒンドスタン内の血が主流となり、スタミナ優位の形態を持ち合わせていた。それが、ダービー当日の不良馬場で、逆に好走した(2着)要因につながったと見るべきだろう。その後の成績が思うように伸びなかったように、決してバランスのいい血統構成ではない。

それでいえば、勝ったダイシンボルガードのほうが、全体のバランスや、St.Simon-Galopinの土台の強固さ、結合のよさなどの点で、見どころがある。父が当時、Court Martial系のスピード馬イーグルということで、一般的な血統評では、中長距離への対応で不利と見られていたようだが、血統構成上は、完全に中長距離型であった。決して一流馬の配合ではないが、タカツバキやミルノよりは、バランスがとれている。この年の春の競馬は、上級配合馬の台頭が少なく、秋になってその勢力図が一変したことは、当然の成り行きだったかもしれない。

■タカツバキ
 ①=○、②=△、③=□、④=△、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=8~10F

▸ タカツバキ分析表

■ミノル
 ①=□、②=△、③=○、④=□、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=8~11F

▸ ミノル分析表

■ダイシンボルガード
 ①=□、②=△、③=○、④=○、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

▸ ダイシンボルガード分析表

 

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