トウカイテイオー
父:シンボリルドルフ 母:トウカイナチュラル 母の父:ナイスダンサー
1988年生/牡/IK評価:2A級
主な勝ち鞍:G1日本ダービー、G1皐月賞、G1有馬記念、G1ジャパンC
《競走成績》
2歳から5歳まで走り、12戦9勝。主な勝ち鞍は、日本ダービー(GⅠ・芝2400m)、皐月賞(GⅠ・芝2000m)、ジャパンC(GⅠ・芝2400m)、有馬記念(GⅠ・芝2500m)、大阪杯(GⅡ・芝2000m)。
《種牡馬成績》
1995年から供用され、初年度産駒は98年にデビュー。主な産駒には、チタニックオー(皐月賞3着)、ノボエイコーオー(デイリー杯2着)、トウカイポイント(GⅡ・中山記念)、トウカイパルサー(GⅢ・愛知杯)、エイシンハリマオーなど。
父系は、少数派のByerley Turk 、Herodの流れを受け継ぐMilesian、パーソロン、そして父のシンボリルドルフ。
シンボリルドルフは、15戦13勝。皐月賞・ダービー・菊花賞の三冠に加え、有馬記念(2回)、ジャパンC、天皇賞を制し、「日本最強馬」と称された。ルドルフの配合を見ると、Pharos(=Fairway)の4×5の系列ぐるみの主導は明確。The TetrarchとMumtaz Mahalのスピードに、BlandfordとSon-in-Lawのスタミナを加え、これらをシンプルにまとめている点が妙味。
種牡馬としてのシンボリルドルフは、キョウワホウセキ(4歳牝馬特別)、アイルトンシンボリ(ステイヤーズS)、ツルマルツヨシ(京都大賞典)などを出しているが、「日本最強馬」という自身の実績や周囲の期待からすれば、いかにも物足りない実績である。その理由については、すでにシンボリルドルフ自身の原稿で解説した通り、時代が米系の血に流れていたことも、欧州系の血を主体とするルドルフにとっては、不運だっとのかもしれない。そのかわり、たった1頭のGⅠ馬とはいえ、トウカイテイオーを送り出したことは、日本の血統史におけるシンボリルドルフの価値を高める上でも、大いに貢献したことは間違いない。
母のトウカイナチュラルは、未出走だが、この母系はトウカイテイオーのオーナーがこだわり続けた久友の牝系で、祖母トウカイミドリからは、もう1頭のGⅠ馬トウカイローマン(オークス)が出ている。そして、トウカイナチュラル自身の血統構成も、その影響度数字⑪④⑪③が示すように、祖父母4頭からバランスよくスピード・スタミナを受け継ぎ、とくにファバージの血を全開している点が特徴。仮に、無事に競走馬としてレースに出走したとしても、中堅レベルで通用しても不思議のない内容を示していた。
そうした父母の間に生まれたのがトウカイテイオーである。父シンボリルドルフに配する相手の条件は、ヨーロッパの血を主体とした繁殖牝馬であることは、これまで繰返し指摘してきた。その点、トウカイナチュラルの父ナイスダンサーは、Northern Dancer系といっても、母系は、仏系を含む欧州主体の血で構成されている。したがって、まず、全体の方向性としては、ルドルフにトウカイナチュラルを配したことは、理にかなっていることがわかる。
5代以内でクロスしている血は、Milesianの3×5。この血は、途中My Babu、Djebelが断絶して、単一クロスとなったため、影響力はそれほど強くはない。それ以外で、系列ぐるみを形成して影響力を発揮しているクロスを検証すると、Nearco-Pharos、Blandfordなどがある。そして、Tourbillonも、Durban(=Heldifann)を伴って、強い影響力を示している。
これらの血は、いずれもMilesianの中に含まれて、直接結合している。また、5代目から系列ぐるみでクロスするPharosは、父シンボリルドルフ自身が主導としていた血でもあり、その点でも、ルドルフの傾向や形態を忠実に受け継いでいることが、確認できる。
すでに見てきた通り、トウカイテイオーの配合では、Milesianの血が、単一クロスではあっても、他系統との位置関係から、中心的役割を果たしているといえる。とすればと、そのMilesian自身がマイラーであったことから、このクロスが主役を果たすトウカイテイオーも、一般的にはまずマイラーと受け取られるがちである。
しかし、テイオーは、デビューから一貫して10F前後の距離でレースをし、ダービーやジャパンCでは、12Fの距離を制している。その理由について、Milesianの血統の「能力変換」ということを中心に、解明してみたい。
Milesianは、1953年のイギリス産で、戦績は13戦4勝。2000ギニーの4着や、テトラークSの優勝などに現れているように、主にマイル戦で実績を残したが、いわゆる一流馬の成績ではない。血統構成は別表の通りで、Blandfordの3×4の系列ぐるみクロスは、主導としての明確性は備えているものの、スタミナのDjebelからのアシストは極端に弱く、その点でバランスを崩している。スピードは、Sundridgeから補給しているが、The Tetrarchは生かすことができず、やはりその実績通り、血統構成も一流の内容ではなかった。
そのかわり、St.Simon-Galopin、Hermit、Stockwellといった血で、比較的しっかりとした土台構造ができている。その他の点では、Hyperion-Gainsborough、Nearcoの血を含まず、それに代わって、Mumtaz Mahal-The Tetrarchの血を含んでいたことも、特徴の1つになっている。
Milesianは、本国イギリスで種牡馬になったものの、その評価は低いものであった。しかし、その産駒の1頭であったパーソロンが、種牡馬として日本で実績を残したために、パーソロンの全弟であるミステリー、ペール、マイフラッシュをはじめ、アイオニアン、ファルコン、タンディ、そしてトウカイナチュラル内に含まれるアトランティスと、Milesianの仔で種牡馬になった馬のほとんどが、日本に輸入されたのである。
そこで、実際のMilesianと、トウカイテイオー内でクロス馬として働いているMilesianの内容との違いを、分析表上で比較してみよう。まず、Milesian自身が主導としていたBlandfordは、トウカイテイオー内でもクロスになっていることがわかる。注目すべきは、それ以外の血で、Tourbillon、Son-in-Law、Bay Ronaldといったスタミナ系の血が新たにクロスし、それにPharosと、スピードのMumtaz Mahal、Sunstarが加わっていること。つまり、トウカイテイオー内で3×5の位置でクロスしているMilesianは、自身の能力を形成していたクロス馬とは異なる内容のクロスを持ち、その結果、TourbillonやSon-in-Lawが加わったことでスタミナが補給されて、自分自身よりもスタミナが増強されたMilesianへと、能力が変換されているのである。
その他にも、Hyperion系のスタミナ、凱旋門賞馬Massineといった特殊な血も、Ajaxを通じて、Milesianの傘下に加わっている。このスタミナの増強が、Milesianを主導としながらも、10F以上の距離で真価を発揮したトウカイテイオーの能力の源泉なのである。Milesianの血をここまで有効に生かした配合馬は珍しく、この点はテイオーの配合のポイントの1つになっている。
また、スピードも、Mumtaz Mahalを始め、Tetratemaが6代目でクロス。The Tetrarchを伴い、Milesian内に直結している。トウカイテイオーの素軽さと瞬発力は、まさしくこれらの血が開花したことによるものである。
以上の点から、トウカイテイオーの血統を、8項目で評価すると以下のようになる。
①=○、②=○、③=◎、④=○、⑤=◎、⑥=○、⑦=○、⑧=○
総合評価=2A級 距離適性=8~12F
トウカイテイオーは、父同様、無敗のままダービーを制したが、その後の骨折によって、三冠最後の菊花賞制覇の夢は断たれた。しかし、古馬となって大阪杯を楽勝し、7戦無敗のまま、春の天皇賞に挑戦することになった。そのレースは、競馬ファン待望の、トウカイテイオーとメジロマックイーンとの対決ということでも、大いに盛り上がりを見せた。テイオーは、無敗という未知の能力に対する期待から、マックイーンを抑えて、一番人気に支持された。
IK理論上の評価では、マックイーンは3200mがまさに適距離のステイヤーであるのに対し、テイオーのほうは、あくまでも中距離馬の血統構成を示している。しかも、骨折明け2戦目での天皇賞挑戦は、不安要素の大きいレース選択でもあった。
結果は、やはりその不安が的中して、テイオーは、マックイーンの5着に沈んだ。この1戦は、血統が競走能力に及ぼす影響を如実に示したものとして、忘れることのできないレースとなった。と同時に、Milesianのクロスを呼び水とした場合の、ある種の能力的な限界を示したケースとしても、記憶しておきたいレースである。
トウカイテイオーの配合は、前述した通り、父母の特徴を最大限に引き出した、たいへん優秀な内容である。「配合とは」という問いに対して、導き出される1つのモデルケースになりうる血統構成であることも、間違いない。すぐれた配合馬は、ひとたびその能力を開花させれば、オグリキャップがそうであったように、たとえ調子を崩した後でも、あたかも「起き上がりこぼし」のように、再び高い能力を発揮できる可能性が高いものである。テイオーも、3度骨折の憂き目にあっているが、そのアクシデントにもかかわらず、ジャパンCや有馬記念で復活劇を演じ、日本の競馬史上でも、もっともドラマチックなレースで、ファンを魅了してくれた1頭である。
問題は、その実績が、日本の硬い馬場という特殊条件のもとで果たされたことで、海外の芝の深い馬場では、たとえMilesianの血を最大限に活用したとしても、10F以上の距離で、上級クラスと互角にレースをすることは、まず困難といわざるをえない。天皇賞での敗退は、その能力の限界の一端を、私たちに示してくれたように思える。
トウカイテイオーは、シンボリルドルフの後継馬の期待を担って、種牡馬入りを果たした。初年度産駒のデビュー後5年目に、トウカイポイントとトウカイパルサーが出て、重賞競走を勝ったものの、これまでのところ、まだGⅠを制するようなオープン上級馬は出していない。その理由として、まず考えられることは、父シンボリルドルフと同様に、構成されている血が欧州主体であって、現代の趨勢と傾向を異にしている点があげられる。
ただし、ナイスダンサーのNorthern Dancerを含んでいることや、パーソロンとファバージに含まれるSt.Serfの母がFair Playの母と同じFair Goldであることで、米系の対応も、血のまとめかたによっては、可能性を残している。
その可能性の延長線上にある1頭が、中山記念を制したトウカイポイント。この馬の配合は、Northern Dancerの4×4を呼び水に、Lady Angelaに血を集合させる形態で、Royal Chargerを通じて、スピードシンボリのスピードとスタミナを、うまく再現している。そしてNorthern Dancerをクロスさせたことで、9代目までクロス確認のできないリアルシャダイ内Fair Playの血も、弱点にならずに済んだものと考えられる。といっても、これは好成績を残した結果から判断できることで、確率を重視する配合時点では、理論からは推奨しにくい内容といえる。
とすれば、トウカイテイオーには、Mill Reef系など、欧州を主体とした繁殖牝馬を配し、パーソロンやナイスダンサーのスピード・スタミナを引き出すことを考えることが、優駿生産の確率を高める近道になるはずである。現役馬でいえば、エイシンハリマオーやトウカイステラの血統構成が参考になるので、別掲の分析表を参照していただきたい。
最後に、トウイカイテイオーの同期の馬たちの血統についても、少々触れておきたい。内国産種牡馬を父に持つダービー馬は、トウイカイテイオーを最後に、久しく登場していないが、テイオーの同期にはシャコーグレイド(ミスターシービーの稿で解説した)を始め、個性的な配合内容を持つ馬たちがいた。シンホリスキー(父ホリスキー)、イイデセゾン(父タケシバオー)、ブリザード(父フジノフウウン)。そして、内国産産駒ではないが、マルゼンスキー産駒の菊花賞馬レオダーバン。そのいずれもが、欧州系のスタミナをしっかりと押さえた血統構成が、分析表から確認できる。以下に、これらの馬たちの8項目評価をあげておく。分析表と照らして、検討してみていただきたい。
●シンホリスキー
①=○、②=○、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=9~15F
●レオダーバン
①=□、②=○、③=□、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=□
総合評価=3B級 距離適性=9~11F
●イイデセゾン
①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=△、⑦=○、⑧=□
総合評価=3B級 距離適性=9~12F
●ブリザード
①=○、②=△、③=○、④=△、⑤=○、⑥=○、⑦=□、⑧=□
総合評価=3B級 距離適性=9~12F