サクラスターオー
父:サクラショウリ 母:サクラスマイル 母の父:インターメゾ
1984年生/牡/IK評価:3A級
主な勝ち鞍:G1皐月賞、G1菊花賞
《競走成績》
3~4歳時に7戦4勝。主な勝ち鞍は皐月賞(GI・芝2000m)、菊花賞(GI・芝3000m)、弥生賞(GII・芝2000m)など。
前回紹介したニッポーテイオーが5歳で素質を開花させて活躍していた昭和62年(1987年)、4歳GI路線では、血統上、一般的にはほとんど注目されていなかった内国産馬が、皐月賞・菊花賞の二冠を制していた(ダービーは両前の繋靭帯炎のため不出走。したがって、菊花賞制覇は6ヵ月の休養明けの勝利であった)。その馬の名はサクラスターオー(その父サクラショウリは、昭和53年にダービーを制している)。
ことしの4歳牡馬路線でもセイウンスカイが同じく皐月賞・菊花賞を制しているが、両馬には戦績上だけでなく、Nasrullahのスピードを前面に打ち出すといった、血統上の共通点もある。また、スターオーは、Nasrullahを主導勢力とした血統構成馬として最初の菊花賞馬でもある。その面から、同馬のスタミナ支援や能力変換の構造などを分析表上から検証してみよう。
父サクラショウリは、3~6歳時24戦8勝(日本ダービー、宝塚記念、アメリカジョッキークラブC、目黒記念など)。昭和53年(1978年)最優秀4歳牡馬。
父がパーソロン、BMSがフォルティノということから、当時の血統評では、当初マイラータイプと見られ、10F以上の距離で好成績を残したことに対して、納得できる説明はされていなかった。せいぜい「ときとして長距離馬を輩出するフォルティノの血が距離克服の要因」などと、わけのわからない解説が、もっともらしく語られていたものである。
しかし、別掲サクラショウリの分析表を見れば明らかなように、この馬にはNasrullah、Nearcoのクロスはなく、主導はAvena(=Choclo)の系列ぐるみであることがわかる。この血はプリメロと全兄弟であり、Blandford系のスタミナを補給、核としている。さらに、Phalaris、Pharos、AsterusのTeddy、WinalotのSon-in-Lawと、スタミナの血が続き、10F以上の距離を克服できるだけのスタミナは、十分に備わっていることが確認できる。
次いで母サクラスマイルだが、その母のアンジェリカからは、サクラシンゲキ(牡、父ドン)、サクラユタカオー(牡、父テスコボーイ)が出ているように、スピードは豊富。それに対し、父のインターメゾは、Hornbeam(セントレジャー2着)の血を引くステイヤーで、日本ではグリーングラスが代表産駒であるように、スタミナによさを持つ。このインターメゾの母方Persian Gulfも、コロネーションCなど4勝しており、産駒にはザラズーストラ、パーシア(天皇賞馬フジノパーシアの父)がいるように、スタミナ勢力が強い。その影響を受け継ぎ、サクラスマイルは、エリザベス女王杯(3着)を含め、6歳までタフに走り続け、29戦4勝の戦績を残している。
このような特徴を持つ父母の間から生まれたサクラスターオーは、まさにサクラの血の結晶ともいえる内容を示していた。
サクラスターオーの主導はNasrullahの5×5・5の系列ぐるみ。このスピードを裏づけるMumtaz Mahal、The Tetrarchも、Milesian、Grey Sovereign、ユアハイネス内でクロスして、スターオーに対するスピード勢力として能力参加を果たしている。つぎにスタミナだが、まずBois Roussel-Vatout、次いでSolario、Blandfordで、これらの血がChaucer、St.Simon、Spearmint、Sundridgeを通じて、主導のNasrullahと直接結合を果たしている。さらにその上に、Bachelor’s Double、Hurry Onをクロスにすることで、先述したPersian GulfやPrecipitationといったスタミナ勢力も傘下に収めている。
実にすぐれた血の構造を示し、主導であるスピードのNasrullahが、スタミナを備えた血へと、みごとに能力変換を遂げているのである。まさにここが、この配合の見どころといえる。つまり、まず父サクラショウリのスタミナを生かし、さらに父内では眠っていたフォルティノのスピード(Grey Sovereign、Relic)を、NasrullahとMan o’Warがクロスになることで呼び起こしている。さらに母サクラスマイル内でも、インターメゾのキーホースをすべて押さえ、祖母アンジェリカからはネヴァービートのスピードを加えることに成功した。こうして、父サクラショウリをはるかにしのぐスピード・スタミナ兼備の血統構成馬として、生を受けたのがサクラスターオーなのである。
「近年珍しいダービー馬が出現しそうである。菊花賞、天皇賞をも制することができるスタミナを持ち、さらにFortinoのスピードを主力にして、Milesian、Nasrullahのスピードをも合わせもった高素質馬である。勝ち時計は、現在の固い馬場なら、かるく2分26秒をきるだろう。稲葉幸夫調教師の下で苦労してきた平井雄二調教師の《ウデ》の試金石ともなる恰好の素材である。」
このコメントは、故、五十嵐良治氏が、サクラスターオーの血統を分析し、ダービーの最有力候補としていたときの評である。平井調教師は、まだ開業1年目だったが、スターオーに、1日5000m~6000mの距離を走らせるというハードトレーニングを課すことで、その能力の開花に成功した。
「こうしたハードトレーニングを、ほかの馬にも試したけれど、スターオー以外はどれも耐えられなかった。スターオーは偉い馬ですよ」と、当時、同調教師は語っている。
確かに、スターオーの活躍は、そうした鍛練が功を奏したわけで、その意味では厩舎の努力の成果であることは間違いない。なぜなら、血統構成がいくらすぐれていても、他馬と一律に、同じような調教をほどこしていたのでは、その芽は出て来なかったはずである。スターオーは、すでに見たように、理論的裏づけのある、まぎれもなくすぐれた配合馬であり、それだからこそ、スパルタ調教に耐えて、その才能を開花することができたのである。それは、故・戸山為男調教師の下で、ミホノブルボン、レガシーワールドの才能が花開いたことと、まさに共通する。つまり、いくら一般的に「良血」といわれる馬でも、理論上の欠陥やスタミナ勢力の弱さなどがある「見せかけの良血馬」の場合には、いくらスパルタ調教で鍛えようとしても、一流馬には育たないのである。
このサクラスターオーの血統構成は、Nasrullah主導で、それにスタミナを加えた形態であることはすでに解説した通りである。そして、これは当時としてはまだ珍しい内容だったが、現代では、むしろ主流の形態になってきている。
そして、もう一つポイントとなることは、Hornbeam内の血の生かしかた、および血の集合形態にある。このパターンは、トニービン産駒に多く見られている。すなわち、トニービン産駒の血統評価をする際に、「トニービン内で血がまとまっている」と表現している部分は、まさしくサクラスターオーの中で先駆的に実現されており、理論上での能力判定の拠り所になっている。つまり、スターオーの前例で、その血の効果を知っているからこそ、トニービン産駒の評価や、配合に際して、それを応用することができるのである。
サクラスターオーは、生後2カ月後に母サクラスマイルを亡くし、また育ての親である牧場主も皐月賞の1カ月前に亡くなっている。スターオー自身も、菊花賞を制した後の4歳の暮れに、有馬記念で骨折し、競走生命を絶っている。まさに数奇な運命を持った馬であった。
そのために、残念ながら同馬の血を後世に残すことはできなかったが、私たちには、優秀な血統構成の形態、配合の妙味ということを、みごとに示唆してくれている。私の場合でいえば、先に紹介した五十嵐氏のスターオーに対するコメントが忘れられず、I理論を研究する契機となった。
①=◎、②=○、③=○、④=○、⑤=○、⑥=◎、⑦=◎、⑧=◎
評価=3A級 距離適性=芝8~12F ダ8~12F