久米裕選定 日本の百名馬

ライスシャワー

父:リアルシャダイ 母:ライラックポイント 母の父:マルゼンスキー
1989年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:G1天皇賞・春―2回、G1菊花賞

▸ 分析表

ライスシャワーのデビューは、1991年(平成3年)8月の新潟競馬。牡馬としては身体が小さく、仕上がり早と目され、夏競馬の芝1000mの新馬戦に出走し、デビュー勝ちを果たしている。2戦目の新潟3歳S(芝1200m)は、ユートジェーンの11着に敗れた。3戦目の芙蓉S(中山・芝1600m)でオープン特別を勝ったが、骨折し、その後6カ月間休養。復帰戦が、春のスプリングSで、ここではミホノブルボンの4着。

そして本番の皐月賞(芝2000m)でも8着と敗れたが(1着ミホノブルボン)、このレースから的場騎手とのコンビが始まる。続くNHK杯(芝2000m)は、ナリタタイセイの8着で、復帰後のライスシャワーは、まったく精彩を欠いていた。

もともと、この馬は、将来を嘱望されていたというわけでもなく、G1ロードに出走したことも、芙蓉Sを勝ってしまったために、賞金的な面で一種の足かせとなって、しかたなく復帰戦をスプリングSにしたと、調教師自身も語っていた。ところが、この後、ダービー(芝2400m)の大舞台で、ミホノブルボンの2着と激走したことで、ライスシャワーの評価は一転することになる。とはいうものの、まだまだ一般的には、ダービー2着をフロック視する向きも少なくなく、秋初戦のセントライト記念でも、上がり馬トレビットの3番人気であった。ここで、レガシーワールドにアタマ差の2着に入り、続く京都新聞杯がミホノブルボンの2着(1馬身1/2差)と健闘したことで、ミホノブルボンの挑戦者1番手の評価を受けることになった。

そして、秋本番の菊花賞は、淀の芝3000mである。ここでも、誰もがミホノブルボンの三冠達成を期待していたはずだが、ブルボンをマークしていたライスシャワーは、直線であっさりブルボンをかわし、三冠の夢を阻止し、3歳ステイヤーNo.1の座についたのである。ちなみに、このときのライスシャワーの馬体重は438㎏であった。

その後のライスシャワーは、コンスタントな走りを見せるということはないが、ここ一番という長距離戦では、無類の強さを発揮し、明けて4歳春の天皇賞(芝3200m)に挑む。古馬No.1ステイヤーの座に君臨し、春の天皇賞3連覇をめざすメジロマックイーンと対決し、ここでもマックイーンを直線であっさりかわし、同馬の3連覇の夢を打ち砕いてしまったのである。しかし、その後はスランプが続き(9連敗)、2度目の骨折という不運にも見舞われたが、再び6歳春の天皇賞で不死鳥のごとく復活を遂げる。このレースでは、4番人気という低評価だったが、ステージチャンプの追撃をハナ差抑えて再度淀に花を咲かせたのであった。

それまでのライスシャワーというと、どこか敵役的なイメージがつきまとっていたが、このレースで見せた勝負根性は、ステイヤーNo.1の血のドラマともいうべきもので、「これこそ競馬」というシーンをファンの脳裏に刻みつけてくれた。しかし、せっかくファンの大きな期待を獲得した同馬も、皮肉なことに、同じ淀での次戦宝塚記念の3角過ぎで故障を発生し、競走成績を終えることになった(予後不良)。

《競争成績》
2~6歳時に25戦6勝。主な勝ち鞍は、菊花賞(G1・芝3000m)、天皇賞・春(G1・芝3200)2回、日経賞(G2・芝2500m)など。

父リアルシャダイは、2~3歳時にフランスで走り、8戦2勝。主な勝ち鞍はドーヴィル大賞典(G2・芝2700m)。仏ダービー(G1・芝2400m)は2着。1984年に日本で種牡馬となり、代表産駒には当ライスシャワーの他、シャダイカグラ(桜花賞=G1・芝1600m、オークス=G1・芝2400m-2着)、イブキマイカグラ(阪神3歳S=G1・芝1600m)、オースミシャダイ(日経賞=G2・芝2500m)、ムッシュシェクル(阪神大賞典=G2・芝3000m)、グラスポジション(2着-ステイヤーズS=G2・芝3600m)などがいる。

リアルシャダイ自身は、Sir Gallahadの5・5・7×6・6の系列ぐるみが主導。その母Desert VixenがNasrullahからPhalarisまでを含んでいないことから、父Roberto内のそれらの血がクロスとならず、Sir Gallahadの主導が、じつに明確に表現されている。また、このSir Gallahadには、その母のPlucky Liegeがクロスとなってスタミナを注入しており、それが長距離適性に結びついたものと考えられる。スピードは、主にMan o’WarがBend Orによって主導と結合を果たし、母の父In Realityから補給されている。リアルシャダイの血統構成を8項目で評価すると以下のようになる。

 ①=◎、②=○、③=□、④=□、⑤=○、⑥=○、⑦=□、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=10~15F

▸ リアルシャダイ分析表

 みごとな血統構成である。
 これに対し、母のライラックポイントは、父母間に世代ズレを生じ、決してバランスのよい配合馬ではない。しかしその母のクリカツラが、ダービー馬クリノハナの全妹にあたり、St.Simonを主体としたバランスのとれた配合馬で、血の質は良好。また、母の父となるティエポロもイタリアのセントレジャー馬で、日本でもタニノムーティエやタニノチカラのBMSとして実績を残し、スタミナの伝え手としてすぐれた血を包含していた。そこにマルゼンスキーを配したことで、米系の血に対応するべく、血の入れ換えがなされていたと考えられる。

▸ ライラックポイント分析表

こうした父と母の間に生まれたライスシャワーの血統は、まず前面のクロスとして、Bull Leaの5×6が系列ぐるみとなり、主導を形成している。このBull Leaは、リアルシャダイの主導勢力であるSir Gallahad(=Bull Dog)の仔であり、リアルシャダイの血の流れを受け継いだという点で、ライスシャワーの配合の第一のポイントになっている。そして、そうした形態を持ち得たことは、母ライラックポイントがNasrullahを含まぬ繁殖であったため。このように、一つの血の有無が、配合に際して大きなウェイトを占めることがあるということは、留意しておきたい。

ついで影響を示しているのがNearcoの6・6×6の系列ぐるみで、これがリアルシャダイとは異なる点であり、日本の芝スピードレースへの対応を、ある程度可能にした要素と考えられる。問題は、母の母クリカツラ内Fairway(5代目)とBlandford(5代目)をどう読むかという点。Fairway(=Pharos)は、父方では7代目に3つ存在しているので、クロスの効力は発揮されているものと考えられる。Blandfordのほうは、父内の8代目と9代目にそれぞれ1つづつで、それも2世代間が空いているので、プリメロのBlandfordという5代目の影響力はまず発揮されていないと推測できる。

もしも、この血が強い影響力を発揮していると、他系統との結合もスムーズさを欠くことになり、能力形成にもマイナスだったはず。とすれば、Blandfordの血は8・9・9×9のそれを有効とし、あくまでも隠し味的なスタミナの供給源と考えることが妥当だろう。そう考えると、5代目のBlandfordの加算点はなしとして(-2点)、ライスシャワーの影響度バランスは⑧②②⑥と判断することができる。この馬については、当初からこうした見解によって評価をくだしていた。その上でのこの馬の8項目評価は以下のようになる。

 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□ ⑦=○、⑧=◎
 総合評価=1A級 距離適性=10~16F

ライスシャワーの血統構成は、前述したように、クロスの位置的な問題から、効果を読み取りにくい部分がある。もしかすると、そのこと自体が、コンスタントに良績を残せなかった血統的要因かもしれない。

しかし、もともとがスタミナ優位の形態で、スピード競馬への対応には不安をかかえていたことも明らかで、秋の天皇賞(芝2000m)では持ち味を生かすことができなかった。また、2000mを超える距離のレースでも、スローな流れでは瞬発力の不足を露呈している。

それに対し、菊花賞を含め、3000m以上のレースになると、負けなしの実績を残した。そして、そのレース振りも、すべてがロングスパートによる勝利。競走馬の無酸素運動の限界といわれる4Fの距離を「がまんする」という、まさしくステイヤーの脚質であった。

もう一つ、血の不思議ということでいえば、ライスシャワーの配合において、最優位の影響力を示しているRobertoとの関連だろう。Robertoは、近親度の強い配合馬で、2歳時は3戦3勝と良績をあげて期待されたが、2,000ギニーで敗れると、一転して「早熟馬」と見なされることになった。しかし、本番のダービーでは、本命のラインゴールドを破ってしまったのである。その後、愛ダービーでは14頭立ての12着と惨敗し、すっかりダービー馬としての評価を落としてしまった。

ところが、続くベンソン&ヘッジス・ゴールドCでは、無敗のスーパーホースMill Reefをも破っているBrigadier Gerard(18戦17勝)を、コースレコードで撃破してしまうのである。Brigadier Gerardの唯一の敗戦は、このRobertoによるもの。このことは、ライスシャワーが、ミホノブルボン(8戦7勝)に唯一の土をつけ、その三冠の夢をはばんでしまったことと酷似している。あるいは、メジロマックイーンの天皇賞・春3連覇という偉業の夢を打ち砕いてしまったことも、どこかRobertoの大物食いと似た面があり、まさに「血の因縁」感じさせる戦績を残した。

ライスシャワーは、自らの血を後世に伝えることなく、この世を去ってしまったのだが、もしも種牡馬となっていたとして、果たして成功したであろうか。この問いに対するIK理論上からの推測は、現状のスピード優位の日本競馬を考慮した場合、成功の確率は低かっただろうというのがその答になる。その主な理由は、ライスシャワー自身にスピードの血が不足していること、そして母方クリカツラの世代ずれを修正するのが難しいことなどがあげられる。その意味からすれば、血統面からみても、最後のステイヤーという言葉が当てはまるかもしれない。

最後に、ライスシャワーとほぼ同世代に活躍していた、同じリアルシャダイ産駒のイブキマイカグラとステージチャンプの血統構成について、解説を加えておきたい。

■イブキマイカグラ(1988年生)
 トウカイテイオーと同世代で、阪神3歳S、弥生賞を制し、G1ロードの王道を歩んだが、本番ではひと息足りない成績で、距離面でも10Fあたりを得意としていた。母はアンバーシャダイの全妹で、BMSノーザンテーストとリアルシャダイの組み合わせの代表的存在であった。

 ①=○、②=○、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□ ⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=8~12F

▸ イブキマイカグラ分析表

当時、この組み合わせは、一部でニックスといわれていたが、I理論上ではそうした判断は成立しない。その理由は、ノーザンテースト内のVictorianaの弱点が、完全には補正されにくいことにある。それを補うためには、祖母内のスタミナのアシストが必要で、イブキマイカグラのケースでは、Bull Leaを5代目に配することで、スタミナ補給に成功している。しかし、結果として、2000mを超える距離では勝ち鞍をあげることができず、その血統上の理由は、やはりテースト内の弱点と考えるべきだろう。

■ステージチャンプ(1990年生)
 ビワハヤヒデ、ナリタタイシン、ウィニングチケットと同世代で、3歳時は青葉賞を制したものの、本番のダービーでは9着。ライスシャワーの2度目の天皇賞では、ハナ差の2着。その実績から、一般的にはリアルシャダイの長距離馬と評されているが、理論上からは、スピード優位の中距離馬という評価が導き出される。

 ①=□、②=○、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=~10F~

▸ ステージチャンプ分析表

この馬も、父とBMSまでの不備を、祖母内Bull Dogが、ちょうどよい位置にあってリアルシャダイと呼応することで、スタミナを補給している。そして、Nasrullahの5×5の系列ぐるみで全体をリード。結果として、ノーザンテーストの影響力を弱めたことで、距離的融通性を得たものと推測できる。確かに3200mの天皇賞で、ライスシャワーに僅差の勝負はしている。しかし、両者の脚質は明らかに異なり、ロングスパートで先行粘り込みのライスに対し、ステージチャンプのほうは直線での差し、追い込み型。天皇賞での脚は、明らかに中距離スピード馬のそれであった。
 こうして見ると、長距離血統といわれたリアルシャダイだが、その産駒の配合内容からは、必ずしも長距離向きではないことが読み取れる。同時に、弱点が発生すると、いかにスタミナ面その他の能力形成に悪影響を及ぼすかということを、実例で検証することができるだろう。

 

 

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