オグリキャップ
父:ダンシングキャプ 母:ホワイトナルビー 母の父:シルバーシャーク
1985年生/牡/IK評価:2A級
主な勝ち鞍:有馬記念2回、マイルチャンピオンシップ、安田記念
公営笠松から12戦10勝という戦績を引っ提げて、4歳(旧表記、現表記では3歳。以下同)はじめに中央入りしてきたオグリキャップ。中央でも快進撃は止まらず、毎日杯をはじめ4歳の重賞競走を連覇。秋には毎日王冠を制して中央6連勝を達成。天皇賞、JCでは古馬のタマモクロス、外国馬のペイザバトラーの後塵を拝した(2着、3着)ものの、暮れの有馬記念では、タマモクロスを押さえて優勝した。5歳になると、現在では考えられない強行スケジュールをこなし、毎日王冠、天皇賞・秋(2着)、マイルチャンピオンシップから連闘でJCに挑み(2着)、さらに暮れの有馬記念にも挑戦して、初めて5着(1着イナリワン)に沈む。JCでは外国馬のホーリックスに敗れたものの、その差はハナ差で、勝ち馬のタイム2分22秒2は、未だに破られていないレコードタイム。6歳になっても、安田記念を1分32秒4のレコードで制した。
しかし、さすがにそれまでの無理がたたり、秋のGⅠ路線では精彩を欠き、天皇賞6着(1着ヤエノムテキ)、JC11着(1着ベタールースンアップ)と惨敗を喫した。そして、この時点で、誰もがオグリはもう終わったと感じ、有馬記念での単勝人気は、ホワイトストーン、メジロアルダン、メジロライアンに次いで4番人気であった。ところが、超スローペースの展開と、武豊騎手の好判断に救われて、奇跡的な勝利をおさめ、結果的にラストランを有終の美で飾ることになった。
ちなみに、この年(平成2年)のダービーはアイネスフウジンが制し、そのウイニングランで中野栄治騎手の名が観衆から連呼され(ナカノコール)、その後の競馬場の応援風景を一変させる契機となった。そうした新しい波が起こった年のしめくくりとして、オグリの有馬記念復活制覇は、これ以上はないというドラマとなり、場内の興奮もオグリコールで最高潮に達した。
《競走成績》
3~4歳時は公営笠松で、12戦10勝。ジュニアグランプリ(ダ1,600m)など。
4~6歳時には中央で、20戦12勝。主な勝ち鞍は、有馬記念2回(GⅠ・芝2,500m)、マイルチャンピオンシップ(GⅠ・芝1,600m)、安田記念(GⅠ・芝1,600m)毎日王冠2回(GⅡ・芝1,800m)、高松宮杯(GⅡ・芝2,000m)、ニュージーランドトロフィー4歳S(GⅡ・芝1,600m)、ペガサスS(GⅢ・芝1,600m)、毎日杯(GⅢ・芝2,000m)、オールカマー(GⅢ・芝2,200m)。以下、2着は天皇賞・秋2回(GⅠ・芝2,000m)、JC(GⅠ・芝2,400m)、宝塚記念(GⅠ・芝2,200m)。
父ダンシングキャップは、1968年米国産で、4~5歳時に英仏で走り20戦5勝。重賞勝ちはなく、勝ち鞍の距離は6~8F。1972年に、種牡馬として輸入される。主な産駒には、オグリキャップの他、ダンシングファイタ(中山牝馬S)、カツルーキーオー(北海道3歳S)、ロードサルタン(BNS杯)など。
自身の血統構成は別紙の通りで、Native Dancerを父とするものの、母がヨーロッパ主体の血で構成されているため、父内の米系の血が生かされず、その成績通り、血統構成も凡庸な内容であった。ただし、輸入当初は、世界的な名馬Native Dancerの直仔であり、母方にもGrey Sovereign、Court Martialなどが含まれ、その後進展する競馬のスピード化時代に対応できる種牡馬として、一部では期待されていた。しかし、当時の日本の繁殖牝馬は、ヨーロッパの血が主体であったため、Native Dancerを血を十分に活用することができなかった。結果として中央で実績を残せず、公営向きの血統と評されるようになる。
母ホワイトナルビーは、東海公営で8戦4勝。その母系は、牝馬で天皇賞を制したクインナルビーに通ずる系統。また、自身の配合も、やや近親度は強いものの、当時としては珍しいNearcoの系列ぐるみを主導に、Man o’War、Tetratemaを押さえ、父シルバーシャークの特徴をとらえて、しっかりした血統構成であった。ただし、繁殖牝馬としては、ダンシングキャップの場合と同様に、当時の種牡馬がヨーロッパの血を主体としていたために、シルバーシャークや、Never Say Dieの米系を生かす相手が少なく、そのために、繁殖に入って当初はこれといった産駒に恵まれなかった。ちなみに第1仔の父は、サウンドトラックであった。
このように、時代の要求・趨勢に合わない同士の父と母の間に生まれたのが、オグリキャップであった。当然のことながら、一般的な血統評では、評価は高くならない。それでも、馬体のよさから、一度は中央のオーナーからオファーがあったと聞く。しかし、しょせんは二流血統とみなされ、価格面で折り合わず、母ゆかりの笠松に入厩することになった。
オグリキャップの血統の主導勢力はNasrullahの4×5の系列ぐるみで、Grey Sovereignを強調している。この場合、Nasrullahに続く血が5代目にNearco、6代目にPharos、Phalaris、Polymelusと並び、しっかりと効果を発揮していることが容易に読み取れる。次いで影響力を示しているFair Trialも、その父がPharosなので主導と直結し、スピード勢力としてみごとな連動態勢を整えていることがわかる。そして、オグリキャップの血統構成の中で重要なポイントは、PolymelusとBlack Toney が、6代目に配置されていることにある。その理由は、Polymelusが6代に位置することで、9代目にBend Orが現れ、Native Dancer内6代目のFair PlayがBend Orを共有することで結合を果たす。Black Toney も、同様の位置でクロスしたことにより、Commando、Ben Brushを内包し、9代目のGalopinによってSt.Simon系と結合する。つまり、本来は弱くなりがちな欧米間の血の結合が、主導と直結することで能力参加を可能にしている。
弱点・欠陥はなく、影響度バランスも④+⑨=⑧+⑤と、Vaguely Noble-Alleged型のバランスのよさを示している。以上の点を、8項目で評価すると以下のようになる。
①=○、②=◎、③=◎、④=○、⑤=◎、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=2A級 距離適性=6~10F
オグリキャップの血統構成は、父母の血の質や、あるいは上質のスタミナの核を備えている否かという点でいえば、12Fの距離を頂点とするサラブレッドの血統構成からすれば、必ずしも万全な内容とはいえない。しかし、上級馬とはいえない内容の父母から、これほどフィットした形態の産駒がつくられることは、まさに奇跡に近い。そして、マイラーという観点から見れば完璧な内容を備えており、配合の妙とはまさしくこのようなことを指すといえるだろう。そのことを考慮すれば、2Aという評価にも異論はないと思う。
マイラーでありながら、2度の有馬記念制覇とJCの激走を可能にしたのは何故か? そう問われれば、有馬は6つのコーナーを回る2,500mで、ペース次第ではマイラー向きのレースになること、および騎手の好判断。そしてJCに関しては、2分22秒2というとてつもない時計を記録した当日の馬場状態。こうした要因が、オグリに不足していたスタミナをカバーしたと考えるべきだろう。それでいえば、3度の天皇賞・秋(2,000m)でいずれも敗退(2着、2着、6着)したことと、安田記念、マイルチャンピオンシップ、ニュージーランドトロフィーというマイル戦で見せた脚を比較すれば、明らかにオグリの血統構成はマイラーのそれであったことが証明されるだろう。
一般的には、「突然変異」として語られることの多いオグリキャップの血統構成だが、I理論上では、まぎれもなく一流のマイラーであることが証明された。しかし、こと種牡馬としての産駒実績を見る限り、「やはりあの馬は突然変異だった」と受け取られてもしかたのないような実績、状況になっている。中央では、ファーストクロップとなったオグリワンが皐月賞に出走した程度で、他にオープン馬は出ていない。
ここで、オグリキャップの種牡馬としての交配上の留意点を整理してみよう。
1.全体の多数派の血はNearco-Pharos系。
2.スピードの血は豊富だが、Hyperionを含まず、Sir Gallahadも9代目に1つと微妙な位置に配され、スタミナの核が不足している。
3.種牡馬となって、含まれる血の世代が後退すると 欧米の血を連動させることが難しくなる。
以上の点を頭に入れて、産駒オグリワンの分析表を見てみよう。
主導の質の低さなど、万全とはいえないが、①~③の項目は、最低限クリアーしていることがわかる。
まず①は、多数派Pharos(=Fairway)の直仔ハロウェーを主導とし、②のスタミナをDark Legend -Dark Ronaldで確保している。③の結合は、Native Dancerのクロスによってクリアーされている。8項目に照らすと、オグリワンの評価は以下のようになる。
(以前、手書きの分析表の時代に3B級と評価しましたが、クロス馬やチェックもれが多く、再評価した結果、以下の通りに変更しました)
①=□、②=□、③=□、④=○、⑤=□、⑥=△、⑦=□、⑧=□
総合評価=2B級 距離適性=8~10F
同馬は、皐月賞の出走は果たしたが、オープンレベルとしては物足りない血統構成の持ち主であった。
オグリの他の産駒たちを調べても、いずれも「帯に短し、たすきに長し」といった具合で、前述の留意点と8項目をクリアーできる配合馬は皆無であった。その意味では、オグリキャップにとって、今後も厳しい状況が続きそうである。もっとも、これはオグリ自身が悪いわけではない。I理論から導き出される視点としては、自身が完璧な内容を持つ馬は、種牡馬となった場合、それを超える配合を実現するのは至難の技、ということがある。現状のオグリの場合も、まさにそういう状況に置かれているといえるかもしれない。
とはいうものの、優駿を出す可能性がまったく失われたわけではなく、オグリ自身がそうであったように、時代の趨勢を味方に、まだまだチャンスは残されているはず。ここに一つの可能性を示す例として、輸入繁殖との架空配合を紹介しておきたい。相手はトウカイパルサー(父トウカイテイオー)の母イングリッシュホーマー(分析表参照)。この配合では、8項目評価は以下の通り。
①=○、②=△、③=□、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=□
総合評価=3B級 距離適性=8~11F
この配合の問題点は、BMSのConquistador CieloのキーホースであるSir Gallahadが、オグリ内9代目に1つしかないことで、この血のクロス効果があるか否かが問題になる。しかし、このBMS内では、父と同じ9代目にSir Gallahad(=Bull Dog)が3つ含まれており、クロス効果が発揮される可能性は高い。とすれば、この馬も、現役準オープン~オープン下位レベルでは十分に通用する内容は確保していると思われる。こういう配合を実行していけば、産駒が活躍する確率も高まるだろう。そして、オグリキャップ自身が突然変異ではなかったことを、種牡馬としても、自らの産駒によって証明してもらいたいものである。
最後に、オグリキャップと同世代で活躍した馬たちの血統構成について触れておきたい。
現代は、サンデーサイレンス、ブライアンズタイム、トニービンといったリーディング上位の馬たちの産駒や、あるいは外国産馬の台頭が顕著で、配合の形態や内容に画一傾向が見られる。オープン馬の個性も希薄になりがちである。こうした傾向は、そういつまでも続くわけではない。見かたを変えれば、血統の偏向が著しく進むことは、競走馬の能力向上という命題に対しても、決して好ましくないことは、サラブレッドの歴史が示している。
それでいえば、1985年生の馬たちは、それぞれが個性的で、I理論の視点から配合を考える上でも、得るものが多い。5歳以上で混合重賞を制した馬の頭数も、この世代がもっとも多く、それは未だに破られていない記録だという。
オグリキャップは、クラシックに登録がなかったために、4歳限定のGⅠ競走には出走していない。そこで、同馬と同世代のGⅠ勝ち馬をあげてみると、皐月賞=ヤエノムテキ(父ヤマニンスキー)、ダービー=サクラチヨノオー(父マルゼンスキー)、菊花賞=スーパークリーク(父ノーアテンション)、桜花賞=アラホウトク(父トウショウボーイ)、オークス=コスモドリーム(父ブゼンダイオー)、有馬記念=ダイユウサク(父ノノアルコ)、安田記念(GⅠ)=バンブーメモリー(父モーニングフローリック)。
そして、ダービーで骨折したサッカーボーイ(父ディクタイス・マイルチャンピオンS)など、父(種牡馬)の顔ぶれだけを見ても、いかにもバラエティーに富んでいる。こういう活躍馬については別の機会に紹介するとして、ここではGⅡ~GⅢクラス勝ちや、GⅠで健闘した他の同期馬たちにスポットを当ててみたい。
■ガクエンツービート(青葉賞優勝、菊花賞2着)
①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=9~15F
Nearcoを主導に、父内のスピード、スタミナを再現。また母内チャイナロック内のクロス馬の状態などは、直すところが見当たらない内容を示しており、一流のステイヤーの血統構成。配合上だけならば、菊花書を制したスーパークリークよりも内容は上。
■ジュネーブシンボリ(アルゼンチン共和国杯3着)
①=○、②=○、③=□、④=○、⑤=○、⑥=△、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=9~12F
血の統一性や迫力に欠けることは否めないが、モガミを再現した配合としては大いに参考になり、同馬産駒としてはトップレベルの内容。
■リンドホシ(京王杯SC)
①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=9~12F
当時はマイラーと見られていたが、Clarion、Pharisとヨーロッパのスタミナを生かした絶妙の配合馬で、父サンディクリークをここまでみごとに再現した馬は、この馬をおいて他にない。
■アイビートウコウ(ダービー卿CT)
①=○、②=○、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=○
総合評価=3B級 距離適性=8~11F
リンドホシ同様、マイラーと見られていたが、Danteを主導に、アイアンリージのスタミナ、そしてホスピタリティのスピードと、なかなか個性のある配合。マイルよりも、10F前後の距離に適性を示し、祖母ニットウチドリもなかなかうまく再現されている。
これらの他にも、グレートモンテ(札幌記念、父モンテプリンス)、マキバサイクロン(七夕賞、父オランテ)など個性的な配合馬がいたが、最後に、オグリとJCでデッドヒートを演じたホーリックスを紹介しておきたい。
■ホーリックス(ジャパンカップ)
①=○、②=△、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=3B級 距離適性=9~12F
Fair Trialの効力など、世代的にやや問題を残し、3B級評価だが、Auroraを主導に、Hurry On、Bois Rousselのスタミナ、Sir Cosmo、Lady Jurorのスピードといった具合に、ヨーロッパのスピード、スタミナを再現した味のある配合馬。JCで見せた粘りの要因をうかがい知ることができ、スタミナ面では明らかにオグリより上。ただし、仮にこの馬と同様の配合内容の馬が日本の厩舎でデビューした場合には、JCの制覇はおろか、出走することさえ無理だったはず。ダート1,400~1,800mの条件クラスの常連といったところで、日本と豪州の厩舎技量の差を改めて認識させられる血統構成を示している。