ニホンピロウイナー
父:スティールハート 母:ニホンピロエバート 母の父:チャイナロック
1980年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:G1マイルチャンピオンS2回、G1安田記念、G2スワンS
ニホンピロウイナーは、キタノカチドキ(父テスコボーイ、母ライトフレーム)と同ファミリー。父が英スプリントチャンピオンのスティルハート。その初年度産駒として、1980年に生まれた。同期の代表馬には、三冠馬ミスターシービーがいる。
2歳でデビューを果たすと、新馬・特別・重賞と3連勝し、阪神3歳Sに駒を進める。ここでは、ダイゼンキング(父トウショウボーイ)の2着に敗れたが、潜在的なスピードの高さは十分に証明された。3歳時には、ダービーに向かわず、自分の能力に合ったスプリント・マイル路線を歩み、ハッピープログレス、カツラギエース、シャダイソフィアといったスピード馬を破り、3歳で最優秀スプリンターに選出されている。
1984年に、グレード制の導入によって、距離別体系が整備され、マイル戦として安田記念とマイルチャンピオンSが、GⅠレースになる。GⅠ格付け後第1回の安田記念には、ニホンピロウイナーは、故障のために出走できなかったが、秋のマイルチャンピオンSで、その安田記念の覇者ハッピープログレスを退け、名実ともにマイルチャンピオンの座に着き、前年に続き最優秀スプリンターに選出されている。そして、5歳で安田記念を制し、マイル王の座を不動のものとした。
マイルに敵なしということになったニホンピロウイナーは、前年から距離が短縮された秋の天皇賞(2000m)に挑戦し、ここでもシンボリルドルフらの強豪を相手に3着と好走し、底力のあるところを証明する(1着ギャロップダイナ、2着シンボリルドルフ)。続くマイルチャンピオンSは、2連覇を成し遂げて、3年連続で最優秀スプリンターに選出される。
この時期は、同期のミスターシービー、そして1歳下のシンボリルドルフと、2年連続して三冠馬が誕生して話題を集め、あるいはグレード制の導入当初ということで、スプリンター・マイラーは、いささか格下に見られていた。そのせいもあり、少し地味な印象を持たれていたニホンピロウイナーだが、マイル王という評価だけでなく、距離別体系を認知させた馬としても、多大な貢献を果たしたというべきだろう。
《競走成績》
2~5歳時に、26戦16勝。主な勝ち鞍は、マイルチャンピオンS(G1・芝1600m)2回、安田記念(GⅠ・芝1600m)、スワンS(G2・芝1400m)、京王杯スプリングC(G2・芝1400m)、マイラーズC(G2・芝1600m)、CBC賞(芝1200m)、デイリー杯3歳S(芝1400m)など。天皇賞・秋(G1・芝2000m)3着。
《種牡馬成績》
主な産駒には、ヤマニンゼファー(天皇賞・秋=G1・芝2000m、安田記念=G1・芝1600m2回)、フラワーパーク(スプリンターズS=G1・芝1200m、髙松宮杯=G1・芝1200m)、ニホンピロプリンス(マイラーズC=G2・芝1600m、CBC賞=G2・芝1200m)、トーワウィナー(CBC賞=G2・芝1200m)、ダンディコマンド(北九州記念=G3・芝1800m)、ファンドリショウリ(中日新聞杯=G3・芝1800m2回)、トーワダーリン(安田記念=G1・芝1600m2着)、ホリノウイナー(東京新聞杯=G3・芝1600m)、メガスターダム(ラジオたんぱ杯2歳S=G3・芝2000m)、ニホンピロエイブル(京都4歳特別=G3・芝2000m)などがおり、内国産種牡馬として、期待以上のステークスウィナーを輩出した。
父スティルハートは、英独仏で走り、12戦5勝。ミドルパークS(G1・芝6F)など、勝ち鞍は5~6Fのスプリンターで、日本には1978年に輸入されている。ニホンピロウイナーは、その初年度産駒。スティルハートは、母A.1.内のNearcoを主導に、Teddy、Sunstar、The Tetrarchのスピード、Swynfordのスタミナをまとめた配合で、Habitat内の米系の血に不備をかかえたことと、スタミナの核の弱さが、距離的限界の要因となっていた。しかし、包含されているスピード要素は多種類にわたり、当時の日本の種牡馬としては、スピードという個性を備えた貴重な存在であったことは間違いない。
母ニホンピロエバートは、キタノカチドキ(父テスコボーイ)の半妹で、1勝馬。少し世代ずれを生じており、影響度も⑥⑦0⑧とバランスを崩しているものの、Rock Sandのスタミナに、Orby、Cylleneのスピードが加わり、St.Simon、Galopinが根付いた土台構造のしっかりした血統構成の持ち主である。8項目に照らして評価すると以下のようになる。
①=□、②=△、③=○、④=○、⑤=△、⑥=□、⑦=□、⑧=□
総合評価=2B級 距離適性=9~11F
世代やバランス面の問題で、開花の難しいタイプだが、芝・中距離の中堅レベルは確保されていた。
この父母の間に生れたのが、ニホンピロウイナーである。
まず、6代以内の影響度数値に換算されるクロス馬を検証していくと、Hyperionの5×4、Nearcoの5・6×5、Rustom Pashaの5×4、Pharosの6・6・7・7×6・7、Dark Ronaldの7・7・9×6、Craig an Eranの7×6、Rock Sandの9×6・7のクロスの存在が確認できる。この中で、クロスの位置から影響力の強いHyperion、Nearco、Rustom Pashaは、いずれもSt.Simonで、相互に結合を果たし、連動している。
さらに、PharosはNearcoの父。Dark Ronaldは、Rustom Pashaの父系。Craig an EranはCylleneでNearco、Hyperionと結合する、といった具合に、各系統が網の目のように結びついている。
ピロウイナーは、スティルハート内のThe Tetrarchはクロスしていないが、この結合が強固なこと、そしてかくし味として、Sundridge、Orbyといったスピード要素が、連動し合うHyperionとRustom Pashaのもとに、みごとに結集していたのである。これが、ニホンピロウイナーのたぐいまれなるスピードの秘密だったのである。これを、8項目で評価すると以下の通り。
①=○、②=□、③=◎、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=6~10F
スピード馬といえば、開花の早い早熟タイプと思われがちだが、ピロウイナー内で影響力を示すDark Ronald、Craig an Eran、Rock Sandといった血は、むしろ奥手の傾向を示している。ニホンピロウイナーが、古馬になってから、ますます迫力ある走りを見せたこと、そして2000mの天皇賞・秋でも好走したことは、まさにそうした面の影響によるものだったのである。
前述したように、ニホンピロウイナーは、内国産種牡馬して、期待以上の成功を示した。代表産駒のヤマニンゼファーは、「百名馬」の1頭としてすでに紹介しているが、父が内包していたスピード・スタミナを再現する交配として、もっともすぐれた内容を示しており、参考までに、ここでも分析表を掲載しておいた。同馬と、中距離のファンドリショウリ、短距離のフラワーパークとの、血の生かしかたの差を、確認していただきたい。
■ヤマニンゼファー
①=○、②=◎、③=◎、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=2A級 距離適性=6~10F
Owen Tudor主導のもとに、Mumtaz Mahal、The Tetrarch、Orby、そしてFriar Marcusまで、ピロウイナーの含むスピード要素を、すべて引き出すことに成功している。スタミナはチャイナロック、Wild Risk、ガーサントから補給。
■ファンドリショウリ
①=○、②=○、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=8~12F
Owen Tudor主導で、テューダーペリオッドを強調。ニホンピロウイナーのキーホースはもちろん、BMSのハードツービートのスタミナや、テューダペリオッド内のOrby、Son-in-Law、Hurry Onを押さえて、スピード・スタミナ兼備の好バランスを示している。
■フラワーパーク
①=□、②=□、③=□、④=△、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
総合評価=2B級 距離適性=9~10F
スプリンターとしてGⅠを制した根拠は、結果論として、Hyperionへの血の集合と、Abernant、Nasrullahのスピードが全開したことによるものと考えられる。しかし、ピロウイナーへの配合としては、ノーザンテースト内の米系の不備など、信頼を欠く部分を持つ。クロス効果を読み取りにくい血統構成で、配合時点では中堅中距離馬という診断を下さざるをえない。
最後に、2歳上のライバルであったハッピープログレスの血統構成を、簡単に紹介しておこう。
■ハッピープログレス
Nearcoの4×4は中間断絶なので、Nasrullahの母Mumtaz Begumの4×5の系列ぐるみを主導に、Nasrullahを強調した形態。父フリートウイングがHyperion~Bayardoを含まなかったことで、主導が明確になっている。
そして、母の母レスリーカリム内に含まれるThe Tetrarchが父と呼応し6・8×7・7・8とクロスして、Mumtaz Begumにスピードを供給できたことが、スピードの根拠となる。同じスピード馬でも、Nasrullahを含まず、The Tetrarchクロスのないピロウイナーと比較すると、まさに好対照の配合馬であった。
①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=□
総合評価=3B級 距離適性=6~9F
G1格付け後の初代安田記念馬として、個性は備えているものの、父内Pan Ⅱのスタミナを押さえられなかったことなど、スタミナの核不足になったことが、ピロウイナーとの能力差につながった。