久米裕選定 日本の百名馬

メジロマックイーン

父:メジロティターン 母:メジロオーロラ 母の父:リマンド
1987年生/牡/IK評価:2A級
主な勝ち鞍:G1天皇賞・春2回、G1菊花賞、G1宝塚記念

▸ 分析表

《競走成績》
4~7歳時に21戦して12勝。主な勝ち鞍は、菊花賞(GⅠ=芝3,000m)、天皇賞・春(GⅠ=芝3,200m)2回、宝塚記念(GⅠ=芝2,200m)。1位入線18着降着=天皇賞・秋(GⅠ=芝2,000m)

《種牡馬成績》
1994年から供用。代表産駒はエイダイクイン(クイーンC・GⅢ=芝1,600m)

7歳時の平成5年春の天皇賞(3,200m)では惜しくもライスシャワーに敗れはしたが、その前年の同レースでは、当時無敵のトウカイテイオーを退けて、名実ともに最強ステイヤーの地位を獲得したメジロマックイーン。同年のダービー馬はアイネスフウジンだが、そのときの2着が僚友のメジロライアン、そして古馬ではオグリキャップが活躍し、1年後にはトウカイテイオーがダービーを制するなど、明らかに現在よりも競走馬のレベルが高い時代であった。

そうしたなかにあって、メジロアサマ、メジロティターンに続いて、親子3代にわたって3,200mの天皇賞を制覇し、不滅の金字塔を打ち立てただけに、その価値は大きい。日本の血統史をひもといてみても、20世紀の競走馬のなかでも最高峰に位置づけられる実績であり、まさに「語り継がれるべき血統のロマン」を体現したといえる存在。今回は、そのメジロマックイーンの血統を解説しながら、同時にそこに至るまでのパーソロン、メジロアサマ、メジロティターンというサイアーラインの血の流れを追ってみたい。

メジロマックイーンの血統を分析する前に、その血の流れを見るために、父メジロティターン、祖父メジロアサマ、曾祖父パーソロンの分析表を掲載しているので、まずはそちらを参照していただきたい。

■パーソロン
 戦績は13戦2勝で、マイラーのMy Babu-Milesianの流れをくむため、1963年にアイルランドから輸入された当時は、マイラー種牡馬と称されていた。自身の配合は、Pharosの5×3の中間断絶を呼び水にしているが、同時にTourbillonの4×4も生じており、決してバランスのよい配合とはいえず、戦績も示しているように、凡庸な血統構成であった。

ただし、St.Simonの土台が6~9代にわたり、しっかりと根づいていたこと、BlandfordとGainsboroughのうち、後者が含まれていなかったこと(もしもこの血を近い世代で含むと、主導が不明確になって、バランスがくずれる可能性が高い)、逆に、当時から繁殖側に浸透しはじめていたPharosを含んでいたこと、さらにスピードの要のNasrullah以外の血の中で、Mumtaz MahalとThe Tetrarchの血を含んでいたこと――これらのことが、パーソロンが種牡馬として成功を収めることができた主なポイントと考えられる。実際に、タケフブキ(オークス)、ナスノチグサ(桜花賞)など、当初はスピードタイプ牝馬の活躍馬を多く出し、まさにマイラー種牡馬のイメージを定着しつつあった。

▸ パーソロン分析表

■メジロアサマ 
戦績は48戦17勝で、主な勝ち鞍は天皇賞・秋(東京、芝3,200m)、安田記念(東京、芝1,600m)など。同期の4歳路線は、皐月賞をワイルドモア、ダービーをダイシンボルガード、そして菊花賞をアカネテンリュウが制している。

アサマは、距離の長短を問わず、オールマイティな活躍をしたことが特徴。とはいえ、当時の血統評では、前述したパーソロンの父系のイメージが固定化されていたため、秋の天皇賞3,200mでの勝利は、フロック視され、血統上の評価は何ら得られない状態だった。

しかし、分析表が示す通り、その血統構成は、セントレジャー馬Swynfordの系列ぐるみを主導に、スタミナの核を形成していることがわかる。ついで、代替仏ダービー馬のTeddyがこれをアシストしている。そして、The TetrarchとSunstarのスピードを得て、みごとなバランスを示している。当時としては、The Tetrarchのスピードが生きたことは珍しい形態で、マイルの安田記念制覇にはこの血の影響がかなりのウエイトを占めていたと考えられる。

8項目評価をすれば、以下の通り。
 ①=○、②=○、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 評価=1A級、距離適性=8~12F

まさにオールマイティな実績にふさわしい内容といえる。ここでの注目点は、凡庸なパーソロンに対して、スピードのTetratema、そして当時日本ではまだ少数派であったがアメリカで栄えていたWar Admiral、Blue Larkspurを含むスヰートを配したこと。当時の日本には、こうした血統構成を持つ繁殖牝馬は少なかったため、ここが、次世代にまで活躍馬をつなげることを可能にした血統的なポイントになって、ということを記憶しておいていただきたい。

▸ メジロアサマ分析表

■メジロティターン 
 戦績は27戦7勝で、主な勝ち鞍は、天皇賞・秋(東京、芝3,200m)、セントライト記念、日経賞など、中長距離に実績を残す。同期の4歳路線では、皐月賞・ダービーをカツトップエース、菊花賞はミナガワマンナが制している。

同馬の血統は、主導が仏2,000ギニー・チャンピオンSのAsterus、ついで仏ダービー馬のTourbillon。プリンセス・オブ・ウェールズS(2,400m)馬のBlandfordのアシストによって、まずスタミナの核を形成。スピードはTetratema-The Tetrarchの系列ぐるみ。

8項目評価は以下の通り。
 ①=◎、②=○、③=◎、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=◎、⑧=◎
 評価=2A級、距離適性=9~16F

完全異系交配で、スピード・スタミナを兼備、ヨーロッパ(フランス)スタイルのみごとな血統構成を示している。現代のパターン化されたNorthern Dancer系や、日本におけるサンデーサイレンス産駒とは、ひと味もふた味も違う、個性のある内容である。メジロの3代天皇賞制覇馬のなかで、血統構成上だけなら、このメジロティターンがもっともすぐれた内容を示しており、理論上から「日本の良血馬」を選定しても、上位にランクされることは間違いない(とくに、Bay Ronald-Hampton、Bona Vista-Bend Or、St.Simonを中心にした結合の強固さがすばらしい)。同馬は、調教師の技量次第では、「凱旋門賞制覇も可能」といっても過言ではないほどの形態・内容を持ち合わせていた。

ここで注目すべき点は、先に説明したメジロアサマの血統に、フランスの上質なスタミナと、当時、繁殖牝馬側に浸透しはじめ、結合の要としてのSt.Simon、Bay Ronaldを内包する(※)Hyperionが、ここで初めてシェリル内「4代目」に加わり、それがつぎのメジロマックイーンを誕生させる伏線になったという点である。(※Hyperionが3代目→他の血と世代的に問題を残し、5代目→マックイーン自身の主導が、不明確となり、効果が半減する。)

▸ メジロティターン分析表

《メジマックイーンの血統構成》
まず、主導は、位置と系列ぐるみの関係から、Hyperionの5×6。ついで、英ダービー馬プリメロ(=Avena)の6×6と、Man o’Warの6×6がアシストして、まずはスタミナの核を形成。スピードは、Tetratemaの6・7×6・6がしっかりと系列ぐるみになっている。ここが、マックイーンのスタートダッシュや、直線の決め手の要因になる。 

そのほかでは、Pharos(=Fairway)は中間断絶で、やや影響は弱まっているが、スピード、スタミナ両方の能力形成に寄与している。これらはいずれも、St.Simon、Bay Ronald、あるいはSainfoin、Bend Orなどによって、直接、間接に結合を果たし、互いにスピード・スタミナの連動態勢を整えることに成功している。

メジロマックイーンの8項目評価は以下の通りになる。

 ①=○、②=◎、③=○、④=○、⑤=○、⑥=○、⑦=○、⑧=◎
 評価=2A級、距離適性=10~16F

弱点や欠陥はない。パーソロンから始まり、これまで日本で培われてきたスタミナのBlandford系、月友内アメリカのMan o’War、隠れたヨーロッパのスタミナClarissimus、Alcantara-Perthなどの血が生き、スノッブとリマンド、ヒンドスタンが対応して、Sans Souciなどのフランス系を再現している。そして、スピードのTetratema-The Tetrarchをクロスさせ、主導Hyperionのもとにすべての要素を結集させたこの血統構成は、「日本の血統の歴史を集大成した内容」とも形容できるだろう。これらの血の推移、変遷を、もう一度、分析表上で確かめていただきたい。

その意味では、3代のメジロ天皇賞馬のなかで、このメジロマックイーンの血統構成がもっとも妙味を持ち、まさにそのことに価値を見いだすことができる。とはいえ、先に、メジロティターンのほうをレベルが上としたのは、8項目の①主導と③結合の評価が示すように、マックイーンの主導Hyperionが必ずしも全体の多数派ではないこと、そしてTetratema-The Tetrarchのスピードと主導との結合が、ティターンほど強固ではないことがその理由である。しかし、これはあくまでも、上級レベル内での比較の問題であって、マックイーンの優秀性を否定するものではない。

もう一つ、この3代、3頭の血統構成上の共通点をあげておこう。

 メジロアサマ    ②①⑦④
 メジロティターン  ⑧⑤②⑩
 メジロマックイーン ④③⑤⑤

この影響度バランスが示す通り、3頭とも祖父母4頭の影響力のバランスがよい完全異系交配馬であること。近親クロスが多用される血統の歴史のなかにあって、これは貴重なことである。

また、ここでいえるすぐれた配合のポイントは、次世代に血を残していくためのヒントを与えてくれていること。つまり、血の位置・配置を整えることが、配合・血統にとっていかに重要なことであり、かつ必要とされることかを、ぜひとも記憶しておいていただきたい。

最後に、種牡馬としてのメジロマックイーンについて、少々触れておきたい。マックイーンは、前述したように、スヰートのなかにMan o’ War、Blue Larkspur、Teddyを含み、アメリカ系の血にも対応できる構造を持っている。しかし、これまでの血の歴史、流れからすれば、やはり繁殖側の基本はヨーロッパ主体の血で構成されている。

マックイーンのキーホースの押さえかた、傾向を見る上では、エイダイクインの配合が参考になる。この血統では、Hyperion、Fair Trial、Tetratemaをはじめ、Djebel、Alcantara、Sans Souci 、そしてアメリカ系のMan o’ Warまで、すべてをクロスさせ、マックイーンのキーホースは押さえられている。ただし、この配合の問題点は、主導が不明確で、結合も万全とはいえない点。それが2B級という評価にとどまった理由である。

この馬を基準にして考えれば、あとは主導を明確にし、結合・連動態勢を整えることが必要になる。マックイーンの位置・配置・構成から判断すると、主導は自身と同様にHyperionを生かすことがもっとも適している。そして産駒の傾向は、自身と同じ晩成中長距離型。

現代の硬い日本の馬場や、繁殖牝馬の傾向から考えると、優秀な配合を持つ産駒の出現は、現実的には難しいと思う。しかし、マックイーンの血の内容・構成からすれば、まだその可能性は残されているはずで、何とか日本の血統の財産として、次世代につなげる馬、できれば4代目の天皇賞馬の出現を望みたいものである。

 ▸ エイダイクイン分析表

 

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