キタノカチドキ
父:テスコボーイ 母:ライトフレーム 母の父:ライジグフレーム
1971年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:皐月賞、菊花賞
デビュー以来、いわゆる「持ったまま」の競馬で、無傷のままスプリングSを制し、6連勝と快進撃を続けていたキタノカチドキ。この年(昭和49年)は、ストライキのため、4歳クラシック戦線はスケジュールが狂い、皐月賞も、3週間遅れで、当時はダービー・トライアルの位置づけだったNHK杯(優勝ナスノカゲ=父ダンスール)と同時に開催された。その皐月賞でも、キタノカチドキは、ローテーションの狂いをものともせず、ミホランザンやコーネルランサーなどを抑えて、圧倒的な1番人気に応え、優勝している。
ちなみに、この皐月賞から、同枠人気馬出走取消しという、それまでの枠番連勝制の問題を解消するため、シード制(単枠指定)が導入されている。その適用第1号に指定されたのが、キタノカチドキであった。
7戦全勝の戦績で迎えたダービーでも、当然人気が予想され、シード馬の指定を受けることになる。この馬が出走することによって、フルゲート28頭に対して、23頭と、例年よりも少ない頭数で、レースが争われることになった。キタノカチドキは、19番枠を引き、外枠でやや不利な立場におかれたが、持ち前のスピードで、1~2コーナーを6~7番手に着けて廻る。レースを引っ張るニシキエース(父サミーデイヴィス)は、快速で鳴らした馬で、1,000mの通過は、59秒6。ハイセイコーの登場で盛り上がりを見せた前年のダービーと同じタイムだから、当時の馬場からすれば、かなり厳しい流れのレースといえた。
直線に入り、好位に着けていたコーネルランサーがまず抜け出し、その直後にいたインターグッドが、馬体を合わせるようにして続く。キタノカチドキは、内をつく作戦にでたが、坂上では内にささったり、外に寄れたりと、伸びを欠いて、結局コーネルランサー、インターグッド(ハナ差)の両馬に遅れること1馬身の3着に終わり、初の敗戦を味わった。
しかし、秋になると、神戸新聞杯、京都新聞杯、菊花賞を制し、4歳時の成績は7戦6勝を記録し、年度代表馬、最優秀4歳牡馬に選出されている。
昭和40年代後半になると、種牡馬勢力は、それまでのヒンドスタンやチャイナロックに代わり、パーソロンやネヴァービートが台頭してきた。そして、キタノカチドキの父テスコボーイに代表される、スピードタイプの種牡馬が登場してきた時代でもある。テスコボーイは、前々年に、皐月賞馬のランドプリンスを出し、そしてこのキタノカチドキが続いたことで、その地位を確立した。
《競走成績》
3~5歳時に、15戦11勝。主な勝ち鞍は、皐月賞(芝2,000m)、菊花賞(芝3,000m)、阪神3歳S(芝1,600m)、スプリングS(芝1,800m)、京都新聞杯(芝2,000m)、きさらぎ賞(芝1,800m)、神戸新聞杯(芝2,000m)、マイラーズC(芝1,600m)など。2着は天皇賞・春(芝3,200m、優勝イチフジイサミ)、3着はダービー(芝2,400m、優勝コーネルランサー)。
《種牡馬成績》
主な産駒は、タカノカチドキ(京都4歳特別、3着=菊花賞)、トーワカチドキ(金鯱賞)、ホリノカチドキ(2着=安田記念)、バタイユ(4着=エリザベス女王杯)、公営のラドンナリリー(東京3歳優駿牝馬)など。現代でいうGⅠ馬こそいないが、GⅡ、GⅢクラスで善戦するような、オープン下位の馬は数多く出している。
父テスコボーイは英国産で、レースには4歳時のみ出走して、11戦5勝。この5勝はすべて8Fで、この距離を超えたレースでは、10FのチャンピオンSの3着が目立つ程度で、競走馬としては二流のマイラーといった位置づけであった。
しかし、1967年に、種牡馬として輸入されると、ランドプリンスを皮切りに、キタノカチドキの他、絶対的スピードで桜花賞・オークスの二冠を制したテスコガビー、3,200mの天皇賞を制したホクトボーイなど、数多くのステークスウィナーを出す。さらに、テンポイントおよびグリーングラスととともに「3強」を形成し、「天馬」と賞されたトウショウボーイを出すに及んで、押しも推されぬ日本のトップ種牡馬の位置に登り、一時代を築いた。
テスコボーイ自身の配合は、Chaucerの6・6×4の系列ぐるみのクロスを主導にして、Hyperionの母Seleneを強調した形態。父Princely Gift内は、Nearco系、Blandford系、そしてスピードのThe Tetrarchもクロスになっておらず、スピードタイプとイメージされる父の特徴は必ずしもいかされていない。
そのかわり、St FrusquinやBachelor’s Double、そしてChaucerの母にあたるCanterbury Pilgrim(英オークス)などのスタミナが生かされている。スピード要素は、Sundridgeのみで、この内容自体からは、むしろ中距離タイプの様相を呈していたことがわかる。とはいうものの、一流馬に共通する上質のスタミナの核を備えていたわけでもない。つまり、スピード・スタミナとも中途半端な内容であったことが、競走馬として一流になりきれなかった理由と考えられる。
そのかわり、それ以後繁殖牝馬の血の中に浸透していくNearco、Hyperion、そしてすでに日本で広がりを見せていたBlandfordを持ち、そのいずれかを多数派として包含した牝馬と配されたときに、効力を発揮する可能性を秘めた構造を持っていた。
それに対し、母ライトフレームは、不出走で、競走馬としての実績はない。そのことは、母の母グリンライトが、父ライジングフレームが主体としていたPharos系やスタミナのHurry On、スピードのSunstarを含んでいなかったこと。それに対し、母グリンライトもRock Sandや、Orbyはクロスとならず、配合として、不完全な状態であったためと考えられる。そのかわり、このライトフレームが繁殖牝馬になった場合は、5代目に配された血の6~9代の中に、それぞれSt.SimonかGalopinの血が配され、それによって土台構造がしっかりできることになる。
この母ライトフレームが、Nearco系を主体に血が構成され、Gainsborough系やBlandford系を含まないという個性を備えたことは、キタノカチドキという馬が誕生する上で、重要なポイントになる。
そうした父母の間に生まれたキタノカチドキは、5代以内では、Nearcoの4×4に、Pharos(=Fairway)の5・5×5・6が続くが、これらは、途中PhalarisとPolymelusが断絶しているため、中間断絶あるいは単一クロスとなり、呼び水の機能を果たしている。
この場合、もしも、NearcoおよびPharosが系列ぐるみとなると、近親度が強くなり、父方のNasrullahや、BMS内のAdmirableの影響が強化されて、距離的融通性を狭める結果になる。したがって、この途中断絶は、キタノカチドキの配合においては、能力形成でプラスの作用をしていると考えられる。
その他、影響度数値に換算されるクロス馬を検証すると、Bay RonaldがHampton、St FrusquinがSt.Simon、Hurry OnがSainfoin、Frair’s DaughterがCylleneとSt.Simon、SunstarがSierra(=Sainfoin)、そしてIsinglassとGallinuleはCyllene内のIsonomyを通じて、それぞれが呼び水役のNearcoに直接結合を果たしている。
この中で、Hurry On、Isinglassなどは、主にスタミナ勢力として能力参加している。とくにHurry Onは、Sainfoinを伴い、強固に結合していて、これが菊花賞制覇に重要な役割を果たしていることは間違いない。
このように、呼び水のNearcoに対する強固な結合力、そしてHurry Onのスタミナ、さらに土台を形成するSt.Simon(36個)およびGalopin(28個)がしっかり根付いたこと、それが、キタノカチドキの強さの秘密である。
以上のことを、8項目評価に照らすと、以下のようになる。
①=○、②=□、③=◎、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=8~11F
Hyperion-Gainsborough系、Blandford系を含まない母ライトフレームの血がみごとに活用された配合といえる。ただし、距離適性を11Fまでとしたのは、Princely GiftやライトフレームのNearcoが、途中断絶しているとはいえ、強い影響力を発揮していることは確かであり、スタミナ勢力からアシストされる比率は、必ずしも長距離馬のそれではないため。ダービーや天皇賞で先着したコーネルランサーやイチフジイサミとの比較でも、スタミナ比率は低く、キタノカチドキはあくまでも中距離馬の血統構成というのが、IK理論からみた診断である。
キタノカチドキは、Princely Gift、テスコボーイの血の伝え手として、期待されて種牡馬入りするが、同じテスコボーイの血を受け継ぐトウショウボーイやサクラユタカオーと比較すると、種牡馬実績が劣ることは否めない。その理由は、トウショウボーイは、母ソシアルバターフライ内にHyperion系のスタミナ要素を備え、さらに時代の趨勢となる米系のBlue Larkspurを含んでいた。サクラユタカオーも、Man o’WarやSir Gallahadを配し、米系への対応を可能にしていた。それに対し、キタノカチドキの場合は、母ライトフレームが極めて欧州系の血が強かったため、対応範囲を狭めてしまったことが、両馬に遅れをとった要因と考えられる。
とはいうものの、オープン戦などである程度の成績を残した馬たちは、それぞれキタノカチドキの特徴をとらえた配合形態を示している。ここでは、そのうちのタイプの異なる2頭の分析表と評価を掲載しておこう。
■タカノカチドキ
①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
総合評価=3B級 距離適性=8~10F
Nasrullahの4×4を主導に、Princely GiftとNever Say Dieを強調。日本にもっとも多い形態だが、キタノカチドキの中ではクロスしていなかったThe Tetrarchをクロスさせ、Grand Parade-Orbyも加えたスピード優位の配合。それに対し、スタミナが弱くなったことが、上級クラスにおける限界となっていた。
■バタイユ
①=□、②=□、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=□
総合評価=3B級 距離適性=9~12F
Hyperionを主導に、Solario、Hurry Onでスタミナをアシスト。キタノカチドキに不足していたスタミナを、母方タリヤートス、ヒンドスタンによって補っている。The Tetrarchのクロスがなく、牝馬としては重厚なタイプだが、なかなかしっかりした配合馬であった。
ちなみに、こうした血の流れを受け、このバタイユにシンボリルドルフを配して誕生したのが、ヤマトダマシイである。
①=○、②=○、③=◎、④=○、⑤=○、⑥=○、⑦=○、⑧=○
総合評価=2A級 距離適性=8~15F
クロス馬の種類は実質40を切るもので、結合度、バランスのよさを秘めた血統構成を示していた。同馬は、デビューから素質の片鱗を見せていただけに、故障によるリタイアが惜しまれた馬であった。キタノカチドキから3代に渡る血の変遷は、配合の方向を読み取る上で参考になる題材なので、分析表を参照していただきたい。
最後に、キタノカチドキと同期で、ダービーで先着したコーネルランサーとインターグッド、天皇賞で優勝したイチフジイサミ(キタノカチドキより1歳上でハイセイコー、タケホープの同期馬)の血統にも簡単に触れておくので、その優劣やスタミナの差などにを、分析表から読み取っていただきたい。
■コーネルランサー
①=○、②=○、③=◎、④=○、⑤=◎、⑥=○、⑦=○、⑧=○
総合評価=2A級 距離適性=9~15F
Prince Roseの3×4(単一クロス)を呼び水に、Bayardo、Dark RonaldといったBay Ronald系の流れでスタミナを確保、スピードはThe Tetrarchの6×6から補給。影響度数字⑧②③②というバランスを保ち、スピード・スタミナ兼備のみごとな配合馬である。同じセダンの産駒でも、以前紹介したアイフルよりも、あか抜けした血統構成を示している。戦績は11戦4勝(4歳で故障・引退)と、キタノカチドキよりも劣るが、配合内容、レベルからすれば、その程度の成績で終わる馬ではなかったことは明らか。
■インターグッド
①=○、②=□、③=◎、④=□、⑤=○、⑥=△、⑦=□、⑧=○
総合評価=3B級 距離適性=9~11F
Nearcoの4×4を呼び水とした形態。母の父がライジングフレームといった具合に、キタノカチドキと共通性を持つ。父内War Admiralの生かしかた、ライジングフレーム内のHurry Onの欠落などがあって、配合内容ではキタノカチドキに劣る。そのかわり、Persimmonのスタミナ、そしてカチドキにはなかったThe Tetrarchの6×5のスピードの決め手などを持つ。それが、ここ一番というダービーで発揮されたことは、想像に難くない。戦績は8戦3勝(4歳で故障・引退)。
●イチフジイサミ
①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=9~16F
Fairway(=Pharos)の5×4・5・5の系列ぐるみのクロスを主導に、Hurry On、Spearmint、Swynfordなどでスタミナをアシスト。父オンリーフォアライフや、母の父Psidiumのイメージ通りの晩成型のステイヤー配合。現代の馬場では、オープン入りは難しく、日本ではまず頭角を現すことのないタイプの内容を示している。ハイセイコー、タケホープの影に隠れた地味な存在だったが、構成されている血ともども、貴重な血統構成を示す馬として、記憶しておく価値はある。