ダイナガリバー
父:ノーザンテースト 母:ユアースポート 母の父:バウンティアス
1983年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:G1ダービー、G1有馬記念
ダイナガリバーのデビューは1985年だが、この年は、シンボリルドルフが天皇賞・春、ジャパンカップ、有馬記念を制して、いわゆる「七冠」を達成している。それまでの日本競馬は、欧州系の血を主体に展開されており、その意味で、父パーソロン、母の父スピードシンポリというルドルフは、まさに日本馬の血統史の集大成的要素を持つ馬であった。
それに対し、世界の流れは、アメリカのNative Dancerを含むNorthern Dancer系が主流となっていた。日本でも、その仔ノーザンテーストが、1982年から4年連続リーディングサイアーの座を占め、アメリカのスピード系の血が日本にも浸透し始め、血統史の転換期を迎えていた。
ノーザンテーストは、牝馬のシャダイソフィア(桜花賞)、ダイナカール(オークス)、牡馬ではアンバーシャダイ(天皇賞、有馬記念)、ギャロップダイナ(天皇賞・秋、安田記念)などを輩出したが、牡馬の4歳クラッシックには無縁で、生産牧場の社台ファームとしても、ダービーは22連敗中であった。そうした状況の中で登場してきたのがダイナガリバーだっただけに、同馬に対する期待は相当高いものがあった。
ダイナガリバーは、期待に応えて2戦目の新馬戦を勝ち上がり、年が明けて共同通信杯4歳Sも制して、順調に成長を見せていた。しかし、期待されたG1初戦の皐月賞では、僚友のダイナコスモスの後塵を拝し10着と惨敗、ダービーに向けて暗雲が立ち上がってきた。
ダービーでは、皐月賞を勝ったダイナコスモスの父が、マイラーのハンターコムということもあって、1番人気にはNHK杯を制したラグビーボールが推され、2番人気がダイナコスモス、そしてダイナガリバーは3番人気と評価を下げていた。各新聞とも、「史上まれにみる戦国ダービー」とはやし立て、人気以上に予想も割れていた。
レースは、同じ社台ファーム生産のバーニングダイナ(父ファバージ)の先導で、やや遅めの平均ペースで進む。ダイナガリバーは、好スタートから3~4番手の好位をキープ。直線、早めに先頭に立つと、そのままグランパズドリーム(父カブラヤオー)、アサヒエンペラー(父コインドシルバー)、ラグビーボール(父ナイスダンサー)らの追撃を抑え、2着のグランパズドリームに1/2馬身の差をつけて優勝。社台ファームに、悲願のダービー制覇というプレゼントをしたのである。
ちなみに所属の松山(吉)調教師は当時69歳、鞍上の増沢末夫騎手(現調教師)も48歳で、ともにダービー制覇の最高齢を記録し、それはいまだに破られていない。
《競走成績》
3~5歳時に走り、13戦5勝。主な勝ち鞍は、ダービー(G1・芝2,400)、有馬記念(G1・芝2,500m)、共同通信杯4歳S(G3・芝1,800m)など。2着は、菊花賞(G1・3,000m、1着メジロデュレン)。
《種牡馬成績》
ファイトガリバー(桜花賞・G1、2着=オークス・G1)、ナリタタイセイ(NHK杯・G2、若駒S、2着=皐月賞・G1)、インターライナー(日経賞・G2)、ゴーイングスズカ(目黒記念・G2)、ツルマルタカオー(3着=シンザン記念・G3)など。
父ノーザンテーストは、カナダ産で20戦5勝。G1は ラ・フォレ賞(1,400m)を制し、主に短距離戦で実績を残している。日本には1975年に輸入され、1982~1993年まで、11年連続リーディングサイアーという金字塔を打ち立てる。代表産駒には、当ダイナガリバーの他、ダイナカール、シャダイアイバー、アドラーブルの3頭のオークス馬、アンバーシャダイ(天皇賞、有馬記念)、ギャロップダイナ(天皇賞、安田記念)という牡馬G1ホースの他、アスワン、マチカネタンホイザなど、多数のステークスウイナーを出している。
ノーザンテースト自身の配合は、Lady Angelaの3×2(中間断絶)を呼び水にして、母の母を強調した形態。影響度数字の「⑭、①、0、25」が示すように、極端にアンバランスな配合で、そのことだけでも決して一流馬の形態とはいえない。したがって、G1を制したといっても、極悪馬場でのレースであり、出走各馬の血統を反映できるようなレース内容ではなく、いわばフロック的な勝利といえた。
見どころがあるとすれば、影響力の強いLady Angela内で、Hyperion系の血を中心に、St.Simonでまとまる構造を持ち得たという点。能力の源泉としては、優秀なHyperionの血に因る部分が大きく、その近親度の強さから、繁殖側にHyperionの血を含めれば、必然的にその影響力が強くなる。そのことを考慮すれば、遺伝力の強い種牡馬といえるのであろう。
しかし、前述したように、影響度バランスの悪さは、母方に少数派のカナダの血Victoria Parkを配したことによるもので、上級配合馬を出すためには、この血をいかに主導と連動させるかが、課題になる。また、近親度が強まるということは、それだけ病気などの悪い遺伝子が伝わる可能性も高くなる。バランスが崩れるため、遺伝力が強いということは、必ずしもよい意味ではない。
ダイナガリバーの母ユアースポートは、2戦0勝で、競走馬としては実績を残していない。それというのも、母ファインサラには、Free Americaや、Hasty Roadといった米系の血が含まれ、欧州系主体の父バウンティアスは、好ましい交配相手とはいえず、自身の血統構成内に、米系の血による弱点を派生させていたのである。
しかし、繁殖牝馬になった場合は話が別で、HyperionとThe Tetrarchを、ちょうどよい位置に配したことと、それに何よりも徐々に勢力を広げ始めていた米系の血に対応できる要素を備えていたことで、当時の日本では貴重な存在だったのである。
そうした父母の間に生まれたダイナガリバーの血統構成は、まず5代以内のクロス馬では、Hyperionの4・5×4の系列ぐるみがある。次いで、Nearcoの4×6だが、この血は、途中Pharosが断絶していて、やや影響力は弱くなっている。それよりも、Blenheimが6×5で系列ぐるみとなり、Canterbury PilgrimやSt.Simonで、主導と結合を果たし、スタミナを供給している。さらに、Traceryも系列ぐるみとなり、St.Simonによって結合。Sir GallahadがBay Ronaldだけでなく、St.Simonも共有して、主導と強固に結合し、スピード・スタミナをアシストしている。
そして、問題の父内Victoria Parkの箇所だが、この部分はSir Gallahadを始め、Buchanもクロス。そして、母の母ファインサラとの呼応で、米系のFair Playに、Ultimus-Commandoまでが見事にクロスし、Victoria Park内に弱点・欠陥を派生させずにすんでいる。ここがダイナガリバーの配合におけるポイントである。府中の最後の直線を粘り抜いた要因を血統内に求めるとすれば、まさにこのVictoria Parkの弱点が補正されていることがイメージされるのである。
ダイナガリバーのスピードは、バウンティアス内7代目に2つあるThe Tetrarchと、母の母内6代目のRoi HerodoがBend Orによって主導と結合し、母の母内RomanもSir Gallahadを通じて引き出され、これらが能力形成に参加を果たしている。
以上のことを8項目に照らし評価すると、
①=○、②=□、③=□、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=8~12F
ダイナガリバーは、ダービーの後、秋の菊花賞はメジロデュレンの2着に敗れたが、暮れの有馬記念では、古馬の強豪を完封して、4歳でグランプリホースの座につき、年度代表馬にも輝いた。確かに、ダイナガリバーは、ノーザンテースト産駒としては、バランスよくできた配合だが、Victoria Parkと主導との連動性が必ずしも万全とはいえず、父のバランスの悪さを完全に修正した血統構成とはいえない。
それが、力勝負、決め手勝負となる頂上対決や、古馬となってからの成長力に影響すること、あるいは、種牡馬となった場合の限界要素となることも、あらかじめ予測することができた。事実、古馬となってからは3戦して0勝、日経賞の3着が最高着順で、競走生活を終えている。
ダイナガリバーは、ノーザンテースト産駒で唯一の牡馬クラッシック・ホースとして、期待されながら種牡馬入りを果たした。確かに、桜花賞馬のファイトガリバーや、クラシックで善戦したナリタタイセイなどを送り出してはいるが、当初の期待の大きさからすれば、優駿生産の確率は極めて低く、期待にそぐわない結果に留まっている。
その大きな原因は、近親度の強すぎるノーザンテーストの血のVictoria Parkと、母方欧州系のバウンティアスの連動性が難しい構造を受け継いでいることがあげられる。これを修正するには、一つの考えかたとして、前面でクロスする可能性の高いHyperionを持たない繁殖牝馬を相手に選ぶ、という方法がある。それを実証したのが、まさしくナリタタイセイとファイトガリバーの全兄妹だったのである(分析表参照)。
2頭の母のビューティマリヤは、NearcoとBlandford系を主体としたシンプルな構造で、母の母内マルタケの中にある虎の子のMan o’Warの存在が、配合のカギをにぎることになる。ダイナガリバーとの交配では、Hyperionはクロスにならず、主導はNearcoの5・7×5・6の系列ぐるみ。Umidwar~Blandfordのスタミナに、Tetratema~The Tetrarch-Roi Herodoが系列ぐるみとなってスピードをアシストしている。Sir GallahadとTeddyのクロスはなくなったが、Man o’War、Fair Playはクロスになる。強調された母の父トライバルチーフは、Nasrullahがクロスにならなかったことで、逆に距離的融通性が生じる結果となった。そして、影響度④②⑩③の数値が示す通り、ダイナガリバー産駒として心配されるバランスの悪さは、みごとに修正されたことも、この配合のポイント。
以上を8項目で評価すると以下の通り。
①=○、②=○、③=〇、④=△、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=○
総合評価=3B級 距離適性=8~10F
偶然にも、ナリタタイセイとファイトガリバーは、バランスのよい血統構成を実現することができた。しかし、ダイナガリバーが持つVictoria Parkと、バウンティアス内のRockefella、Mazarinという特殊な血まで、同時にカバーできるような相手を見つけることはたいへん難しく、これは、ダイナガリバーがBMSになった場合でも、修正は難しい。残念ではあるが、サイアーラインを伸ばすような、ダイナガリバー産駒の出現は極めて難しいといわざるを得ない。
最後に、母ユアースポートの繁殖としての優秀性を確認するために、兄弟馬の血統と、ダイナガリバーの同時代のライバル馬たちについて、簡単に触れておきたい。
■カズシゲ
ダイナガリバーの半兄(父ボールドアンドエイブル)で、地方競馬で3~6歳時に34戦15勝。6~7歳時は、中央で13戦3勝(読売マイラーズC、高松宮杯、函館記念)。いずれもマイル~中距離で実績を残す。
①=□、②=□、③=□、④=○、⑤=○、⑥=□、 ⑦=□、⑧=○
総合評価=3B級 距離適性=8~10F
主導の明確性には欠けるが、ファインサラが、父内米系と呼応して、Bull Dogの4×6の呼び水に有効性をもたせ、当時としてはたいへん珍しい、バランスのとれた欧米混合型の血統構成を保つ。
■ダイナコスモス
10戦4勝の皐月賞馬で、種牡馬として、マイルチャンピオンシップ、安田記念を制したトロットサンダーを出している。
①=○、②=□、③=○、④=△、⑤=□、⑥=□、 ⑦=□、⑧=□
総合評価=2B級 距離適性=8~10F
BMSノーザンテースト内に弱点を派生させ、皐月賞馬としては配合レベルは低い。長所としては、Fairwayを主導として、Lady Josephine、Mumtaz Mahalのスピードを取り込み、Fair Trialを全開させたことが読み取れ、早熟性が皐月賞制覇に結びついたとみるのが妥当。
■アサヒエンペラー
11戦2勝。皐月賞、ダービー3着、天皇賞・春2着
①=□、②=□、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、 ⑦=□、⑧=○
総合評価=3B級 距離適性=9~12F
Nasrullahの4×4は中間断絶で、他のクロス馬の位置関係から、呼び水効果はいまひとつ。とはいうものの、Pharos、Solario、Asterusが、Bay Ronald、Hampton、St.Simonによって結合を果たし、欧州系のスタミナを再現できたことは、当馬の配合のポイント。そのかわり、主導の明確性に欠けることは否めず、戦績が示すとおり、善戦するも勝ちきれぬというタイプの典型。
■グランパズドリーム
10戦2勝、2着=ダービー
①=□、②=□、③=○、④=□、⑤=△、⑥=○、 ⑦=□、⑧=□
総合評価=2B級 距離適性=9~11F
カブラヤオーの代表産駒だが、主導はBlandford。スピードはのTetratema、かくし味のスタミナにフランスのSans Souciを加え、ガーサントの影響が最優位になっている。ガーサントの血は、元来、気性面で問題を残す傾向にあるが、当馬の場合は、その中のキーホースを押さえたことが、ここ一番のダービーに於ける激走に結びついたものと考えてよいだろう。配合形態としては、信頼度の低い内容。
以上、皐月賞馬のダイナコスモス、ダービー2、3着のグランパズドリーム、アサヒエンペラーと、ダイナガリバーの血統構成を比較すれば、やはりガリバーの内容がもっともすぐれた配合であったことが確認できる。